2017.11.08.
「天の川のチンダル現象」~星間ダストによる光散乱の銀緯依存性を解明~

(左)佐野圭博士研究員、(右)松浦周二教授

(左)佐野圭博士研究員、(右)松浦周二教授

 関西学院大学理工学部物理学科の佐野圭博士研究員と松浦周二教授は、星間ダストによる星の散乱光がもつ銀緯依存性の謎を解明しました。

 晴れた日に窓際から差し込む光の筋がほこりの散乱によってみえる「チンダル現象」と同じように、天の川に漂う星間ダストの雲は星々の光を散乱し淡く光ります。同研究チームはこれまでに、近赤外線で星間ダストの光散乱の強さが銀緯 注1) により変化することを発見しましたが、その原因は不明でした。今回の研究では、星間ダストによる光散乱の異方性や星間ダストの温度を考慮することで、光散乱の強さの銀緯依存性を説明できることがわかりました。この成果は、星間ダストの性質の解明に寄与するだけでなく、将来的には近赤外線の宇宙背景放射 注2) の測定に役立つことが期待されます。

 この研究成果は11月1日(米国東部時間)に学術誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されました。

※注1~2

ポイント

・天の川に漂う星間ダスト(固体微粒子)の存在は、様々な観測から疑いないものとなっています。しかし、その実体は誰も目にしたことがなくサイズや組成について確定的な情報がありません。

・星間ダストの雲は、星々からの可視光や近赤外線を散乱して淡く光るとともに、星々の光を吸収してあたためられ遠赤外線の熱放射を出します。

・私たちはこれまでに、星間ダストによる光散乱の相対的な強さ(散乱光と熱放射の強さの比)が天の川方向に近づくにつれ大きくなることを発見しました。しかし、その原因は不明でした。

・今回の研究では、熱放射は星間ダストから等方的に放出されるのに対し、光散乱は星間ダストのサイズや組成によって強い異方性をもつことに初めて着目した結果、両者の強さの比に関する観測された銀緯依存性をモデル計算で再現することに成功しました。これは、モデル計算で仮定した星間ダストのサイズや組成が妥当なものであることを示しています。

・星間ダストによる散乱光と熱放射は、太陽系内のダスト放射(黄道光注3))に比べて暗いため、その明るさを正確に測定することが困難です。より詳細に星間ダストの性質を調べるにはさらに高い精度での観測が必要になります。

※注3

(図1)星間ダストによる散乱光と熱放射

(図1)星間ダストによる散乱光と熱放射

1.研究の背景

 私たちの住む銀河系は数千億個の星々からなり、その星々の間には固体微粒子(星間ダスト)が漂っています。星間ダストは年老いた星の周りや超新星爆発で作られ、その大きさは0.01~1マイクロメートル程度に幅広く分布しています。

 星間ダストに当たった星の光は散乱され、散乱された光は可視光や近赤外線で観測されます。一方、星の光によって暖められた星間ダストは熱放射を行います。熱放射は主に遠赤外線で観測されます。したがって、散乱光(近赤外線)と熱放射(遠赤外線)の明るさはいずれもダストの量に比例するので、その比から星間ダストの性質を調べることができます(図1)。

 これまでの研究で、私たちはCOBE衛星の観測装置DIRBE注4)によって得られた近赤外線の全天マップの解析を行いました。その結果、散乱光と熱放射の明るさの比は、低い銀緯では高い銀緯の数倍も大きいことを発見しました。しかし、従来の星間ダストモデルによる散乱光と熱放射の推算からはこの現象を説明できず、より詳細なモデル計算が必要とされていました。

※注4

<図2>散乱光と熱放射の明るさの比の銀緯依存性。

<図2>散乱光と熱放射の明るさの比の銀緯依存性。

2.研究内容と成果

 従来の散乱光と熱放射のモデルでは、星間ダストによる散乱の異方性や温度の分布が考慮されていないという問題がありました。そこで本研究では散乱光と熱放射の新たなモデルを構築し、観測された銀緯依存性を説明可能かどうか調べました。

 星間ダストによる光散乱は等方的ではなく異方性をもつことが知られており、その度合いはダストの大きさと光の波長に依存します。本研究では、最新の星間ダストモデルから予想される散乱の異方性を考慮して散乱光の明るさを計算しました。また、星間ダストによる熱放射はその温度に依存するため、プランク衛星によって得られた最新の全天温度マップに基づいて熱放射成分のモデルを作成しました。散乱光と熱放射の両方の銀緯依存性を考慮したモデルによって、観測された銀緯依存性を説明することに成功しました(図2)。

 星間ダストは近赤外線の宇宙背景放射の前景光のひとつです。したがって、宇宙背景放射を測定するためには、星間ダストによる散乱光を除去する必要があります。今回得られた散乱光の銀緯依存性の結果は、宇宙背景放射の測定においても重要です。

3.今後の展開

 地球からの観測では太陽系内のダストによる黄道光が明るいため、星間ダスト放射を測定するのには限界があります。高い精度で星間ダストの性質を調べるためには、太陽系内のダストが希薄になる深宇宙からの観測が有効です。そのような計画としてソーラー電力セイル計画などがあります。星間ダストの性質を詳細に調べ、その起源解明につながることが期待されます。

【論文タイトル】

原題: Galactic Latitude Dependence of Near-infrared Diffuse Galactic Light: Thermal Emission or Scattered Light?

【タイトル和訳】

近赤外線における銀河系内拡散光の銀緯依存性の原因は熱放射か散乱光か?

【著者名】

Kei Sano and Shuji Matsuura

【用語解説】

<注1> 銀緯 (Galactic latitude)
地球から見た時に、銀河面(天の河)と観測天域のなす角度。銀緯が低い領域ほど星や星間ダストが多量に存在する。

<注2> 近赤外線の宇宙背景放射(Near-infrared extragalactic background light)
銀河系の外から来る光をすべて足し合わせたものが宇宙背景放射であるが、近赤外線の波長域ではその起源が解明されていない。宇宙背景放射を測定するためには、地球から見てその手前に存在する星間ダストによる散乱光や熱放射を除去する必要がある。

<注3> 黄道光(Zodiacal light)
太陽系内に存在する惑星間ダストによって太陽光が散乱されたもの。可視光から赤外線の空を観測した場合には最も明るい成分であり、星間ダストによる散乱光や熱放射を観測する妨げになる。

<注4> DIRBE(Diffuse Infrared Background Experiment)
NASAが1989年に打ち上げたCOBE(Cosmic Background Explorer)衛星に搭載された観測装置。赤外線の宇宙背景放射を測定することが主目的であった。全天を約10ヶ月間観測し続け、近赤外線から遠赤外線までの波長域で全天マップが作成された。

本研究内容については以下も参考にしてください。

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■TEL 0798-54-6017 広報室 
■TEL 079-565-7606 理工学部物理学科 松浦周二教授( matsuura.shuji@kwansei.ac.jp )