2014.03.20.
複雑な構造のポリフェノール、エラジタンニン類の合成法を確立—ネイチャーコミュニケーションズに掲載—

 関西学院大学理工学部・山田英俊教授と大学院生・廣兼司氏を中心としたグループは、複雑な構造をしたエラジタンニンの化学合成法を確立し、3月21日のネイチャーコミュニケーションズ(オンライン版)に掲載されます。
 

 エラジタンニンは天然ポリフェノール化合物群の一つであり、医薬や健康増進を目的とした利用を期待 さています。しかし、複雑かつ多様な化学構造が障壁となり、作用機序の解明が遅れています。化学合成 できれば問題解決に貢献できますが、複雑かつ多様な構造を自在に作ることができる決定的な合成法は 開発されていません。エラジタンニンの構造が複雑で多様になる最大の原因は、その構造に含まれる多 置換ジアリールエーテルにあります。つまり、多置換ジアリールエーテルの合成法を制すれば、化学合成 できるエラジタンニンの数を飛躍的に増やすことができます。

 本研究では、複数ある多置換ジアリールエーテルの統一的な化学合成法を確立しました。また、その方 法を用いて、複雑な構造の天然エラジタンニンの合成に成功しました。これらの成果は、合成中間体の適 切な設計によってもたらされました。この合成中間体はハロゲン化されたオルトキノンモノケタール構造を 有し、これまで難しかった多置換ジアリールエーテル合成を容易にする要因を、コンパクトにまとめた構造 を持っています。今回確立した多置換ジアリールエーテル合成法を利用すると、これまで手に入れること ができなかった構造のエラジタンニンを手にすることができます。そのため、合成した化合物と、天然エラ ジタンニンの構造とを比較しながら、エラジタンニンのどのような構造部分が体に良いのかを理解すること ができ、新たな医薬品開発に貢献できる可能性があります。また、新たな作用を持つエラジタンニンの開 発にも利用することができます。

 なお、本論文の筆頭著者である廣兼司氏(本年3月まで大学院生)は、本研究内容を博士論文にまと め、先日、3月17日に博士の学位を取得した事も併せてお知らせ致します。 (次
 

【論文タイトル】

原題:A unified strategy for the synthesis of highly oxygenated diaryl ethers featured in ellagitannins

タイトル和訳:エラジタンニン類の主要構成要素、多置換ジアリールエーテルの統一的合成戦略

【著者名】 Tsukasa Hirokane, Yasuaki Hirata, Takayuki Ishimoto, Kentaro Nishii, Hidetoshi Yamada

【用語解説】

■ エラジタンニン: 酸やアルカリによってエラグ酸とグルコースに加水分解されるポリフェノール化合物 の総称。カシの皮など植物界に広く存在し,エラジタンニンを含む植物は生薬として使用されているものも 多い。抗酸化作用や抗癌活性,抗 HIV 活性などを持つ化合物が知られており,その作用機序の解明が望 まれている。しかし,複雑で多様な化学構造を持ち、しかも自然界からの単離量が少ないため,研究が遅 れている。

■ ジアリールエーテル: 2 つのベンゼンがエーテル結合した構造の総称。エラジタンニンではオリゴマー 化する際に頻出する。

■ ハロゲン: フッ素,塩素,臭素,ヨウ素の総称。

■ オルトキノンモノケタール:フェノールを酸化して得られる構造の名称で,高い反応性を持つ。

■ 作用機序:薬剤がその作用を発揮する機構。