2013.07.16.
脳梗塞や心筋梗塞で起こる虚血・再灌流障害軽減に光

 関西学院大学理工学部・今岡進教授のグループは、酸化ストレス応答において重要な働きをする制御タンパク質Nrf2が低酸素において低下することを発見し、その機構にユビキチンリガーゼSiah2が関わっていることを解明し、6月21日に発行された生命系分野のトップジャーナルであるアメリカ生化学会誌「Journal of Biological Chemistry」に発表されました(オンライン版は5月3日に発表)。この発見によって、心筋梗塞や脳梗塞、臓器移植の治療過程において発生する虚血・再灌流障害を軽減できる治療法の開発が期待されます。この論文は年間の6600報以上からトップの2%程度が選ばれる「Paper of the Week」に選ばれました。

 心筋梗塞や脳梗塞は日本人の死因のトップを占める病気であり、さらに臓器移植も盛んに行われています。その際に、血流が一時的に止まり再開するいわゆる虚血・再灌流障害が起こります。すなわち、血流が止まることによって、組織への酸素供給が絶たれ、低酸素状態となり、血流再開によって急激に酸素が供給されることで、酸化ストレスが発生し、細胞が破壊されます。酸化ストレスから細胞を護っている重要な因子がNrf2であり、この因子の増減は酸化ストレスによる細胞障害に大きな影響を与えます。

 今岡教授のグループは手作りの低酸素培養装置という特殊な装置を用いて、ヒトの培養細胞で、この虚血・再灌流を再現しました。その結果、虚血すなわち低酸素状態で酸化ストレス感受性因子Nrf2が顕著に低下していることを見いだしました。このことは引き続いて起こる酸化ストレスの応答(防御)を遅らせることを意味します。この原因を追求した結果、Nrf2の量を調節している新しい因子Siah2を発見しました。Siah2はユビキチンリガーゼであり、低酸素下で誘導され、Nrf2のプロテアゾームでの分解を促進します。この発見は例えば、薬でSiah2を阻害すれば、心筋梗塞や脳梗塞によって起きる細胞障害を軽減できる可能性を示しています。

【論文タイトル】
原題:Seven in absentia homolog 2 (Siah2) is a regulator of NF-E2-related factor 2 (Nrf2)
タイトル和訳:Nrf2の新規制御因子Siah2

【著者名】Kazunobu Baba, Haruka Morimoto, and Susumu Imaoka

【用語解説】
■ ユビキチンリガーゼ:細胞には特定のタンパク質を分解するプロテアゾームと呼ばれるシステムがある。プロテアゾームで分解するためにはタグに相当するユビキチンを結合する必要があり、タグをつけて分解する必要があるタンパク質を探して、ユビキチンを結合する働きをしているのが、ユビキチンリガーゼである。

■ 低酸素応答:低酸素応答はその名の通り、低酸素に対する生体の応答であり、マラソンの高所トレーニングなどその現象は古くから知られていたが、その機構の全容が明らかになったのはつい10年前である。その中心的役割を演ずるのがHIF-1alphaである。癌などの病気の他、最近では発生分化や免疫など、様々な生命現象において重要であることが明らかとなっている。

■ 酸化ストレス:生体で活性酸素が発生する状況を酸化ストレスと呼び、その応答に働いている因子がNrf2であり、ヘムオキシゲナーゼなどの抗酸化因子を発現する。活性酸素による細胞障害のみが取り上げられ、活性酸素を減らす飲み物や食物が注目されている。活性酸素は、私たちの体で積極的に作られ、外から侵入してきたウイルスやバクテリアを破壊し、生体防御において重要である。一方最近では活性酸素が細胞内の情報伝達すなわちシグナル分子としても重要であることが明らかになっている。




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