2013.05.13.
作用点の異なる薬物の併用が嚢胞性線維症を改善することを発見

 関西学院大学理工学部・沖米田司准教授とマギル大学(カナダ)医学部・ルーカックス教授グループは、作用点の異なる薬物の併用が嚢胞性線維症を改善することを発見し、5月12日のネイチャーケミカルバイオロジー(オンライン版、Advance Online Publication (AOP))に掲載された。

 嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis: CF)は白人の間で頻度が高い遺伝病で、全世界に約7万人の患者が存在します。肺の慢性感染症を主徴とし、感染や炎症を抑える対症療法が行われていますが、多くの患者は呼吸器不全で40歳までに死に至るため、新規治療法の開発が世界中で強く望まれています。CFはCFTRという塩素イオンチャネルの遺伝子変異によりCFTRが細胞表面に発現しないことが原因で発症します。これまでに、世界中の大学や製薬会社のドラックスクリーニングにより、「コレクター」と呼ばれるCFTR変異体の膜発現を改善する薬物が発見されていましたが、それらの作用は弱く、十分な臨床効果は得られていませんでした。また、コレクターの作用機序が不明であることが、その効果改善の大きな障壁となっていました。

 本研究では、CFTR部位特異的な変異体解析および単一ドメインを用いたin vitro解析を行うことで、コレクターの作用点を明らかにし、その作用点の違いからコレクターの分類を行いました。さらに、作用点が異なる3種類のコレクターを併用する事により、CFTR変異体の発現および機能をほぼ正常レベルまで改善できることを発見しました。今後、臨床応用するために改善すべき問題はありますが、今回明らかにしたコレクターの作用点を標的にすることで有効性が高い薬物療法の開発が期待できます。また、CFTRはCFだけではなく、全世界に約6500万人の患者が存在し、社会問題となっている慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも深く関与することから、本研究成果はこれらの疾患に対する薬物療法開発に深く貢献することが期待されます。

【論文タイトル】
原題:Mechanism-based corrector combination restores △F508-CFTR folding and function
タイトル和訳:作用点に基づくコレクターの併用は △F508-CFTR のフォールディングと機能を回復させる

【著者名】 Tsukasa Okiyoneda, Guido Veit, Johanna F Dekkers, Miklos Bagdany, Naoto Soya, Haijin Xu, Ariel Roldan, Alan S Verkman, Mark Kurth, Agnes Simon, Tamas Hegedus, Jeffrey M Beekman, Gergely L Lukacs

【用語解説】
■嚢胞性線維症:のうほうせいせんいしょう、Cystic Fibrosis (CF)、全世界に約7万人の患者が存在する白色人種間で頻度が高い遺伝病。日本では稀であるが、難病に指定されている。慢性閉塞性肺疾患を主徴とし、対症療法が行われるが、根治療法は確立されていない(寿命中央値は約40歳)。CFTR の遺伝子変異(CF 患者の90%は △F508変異)が原因で発症する。
■CFTR:CF Transmembrane conductance Regulator、肺や腸管などの上皮細胞の細胞膜に存在する膜タンパク質(塩素イオンチャネル)で、粘液の成分や水分量を制御し、感染防御に重要な役割を果たす。
■コレクター:変異 CFTR の膜発現を改善する低分子化合物の総称。世界中の研究者や製薬会社が開発を行っている。

■問い合わせ先:研究推進社会連携機構事務室(079・565・9052)