2024.01.23.
【世界初】ラマン分析で巨大球状コンクリーションから約1000万年前の有機物を確認

2024年1月7日(日)、関西学院大学 生命環境学部 壷井基裕教授、同大学大学院 理工学研究科 博士課程前期2年 北中良佑氏、同大学 尾崎幸洋名誉教授、株式会社堀場テクノサービス 沼田朋子氏、公益財団法人深田地質研究所 村宮悠介氏、名古屋大学 博物館 吉田英一教授らが発表した共同研究論文「Visualization and identification of components in a gigantic spherical dolomite concretion by Raman imaging in combination with MCR or CLS methods」(MCR法とCLS法を組み合わせたラマンイメージングによる巨大球状ドロマイトコンクリーション中の成分の可視化と同定)がSpringer Nature社刊行のScientific Reports誌に掲載されました。
※所属は研究当時

【本研究成果のポイント】
・ラマンイメージングとMCR・CLS法により、巨大球状コンクリーション中に生物由来の有機物質を世界で初めて発見
・コンクリーションは起源有機物が分解されるよりも速く形成されることを確認
・コンクリーションのシーリング効果により形成当時の状態を1000万年以上も保存

【概要】
ラマンイメージング※1と多変量スペクトル分解法(MCR)ならびに古典的最小二乗法(CLS)※2の組み合わせにより、愛知県知多半島師崎層群中の巨大球状ドロマイトコンクリーションの成分分布と同定を行うことができました。MCRとCLSによるイメージングデータの解析から、このコンクリーションにはドロマイト、ケロジェン、アナターゼ、石英、斜長石、炭素質物質が含まれていることがわかりました。炭素質物質がかなり多くの量コンクリーションの基質粒子の中に埋もれており、これは生物由来の有機物が存在することを示しています。本研究により、この巨大球状コンクリーションが生物有機物起源であることを示す直接的な証拠を得ました。さらにコンクリーションは起源有機物が分解されるよりも速く形成され、コンクリーション化に伴うシーリング効果により形成当時の状態(生物の有機物)を1000万年以上も保存することが明らかになりました。
本研究成果は、Scientific Reports誌に2024年1月7日にオンライン掲載されました。
(※1)ラマンイメージング:鉱物の顕微ラマン分光分析により、微小なマイクロメートルスケールにおける鉱物の種類や結晶性などの情報を得ることができる。これを面に展開して分析することにより、ある領域における鉱物の分布等を示すラマンイメージング像を得ることができる。
(※2)MCR、CLS:多変量解析の手法で、数多くの分析データを統計学的に解析し、そこに含まれている情報を抽出する方法。

【背景・研究成果の内容】
球状コンクリーションは、地層の中に時折認められる硬い球状の塊です。これらは砕屑性の砂や泥の粒子の間を炭酸カルシウム等の鉱物が充填しており、その中には保存状態が良好な化石が含まれています。球状コンクリーションの成因については、本研究の著者である吉田英一博士(名古屋大学・教授)の研究グループの最近の研究により、化石の元となった生物起源の炭素成分と、海水中のカルシウムイオンの反応によると考えられ、その形成スピードは直径数センチメートルのもので数週間〜数ヶ月と、従来考えられていたよりもかなり速いことが分かってきました。また、本研究の著者である壷井基裕博士(関西学院大学・教授)の研究グループは、2023年にコンクリーションに含まれる鉱物のアパタイトについて、顕微ラマン分光法を用いて分析を行い、アパタイトが生物起源である直接的な証拠を得ました。本研究では愛知県知多半島に分布する中新世師崎層群の地層に含まれる直径1.7メートルの巨大球状コンクリーションについて、ラマンイメージングと多変量スペクトル分解法(MCR)ならびに古典的最小二乗法(CLS)を駆使して分析を行い、構成する物質を同定するとともに、起源となった生物の有機物が残存していることを発見しました。このような発見は世界初です。またこのことは、巨大コンクリーションが生物有機物起源であることの直接的な証拠となります。つまり、コンクリーションは有機物が分解されるよりも速く形成したと考えられ、これは形成速度が非常に速いという新学説を裏付ける重要な結果です。さらにコンクリーション化に伴う炭酸塩のシーリング効果により、形成後の地下2キロメートルもの埋没等による熱や圧力の影響を受けても内部の物質変化は抑制され、当時の状態を1000万年以上も保存できるということも明らかとなりました。このことは、コンクリーション化によるシーリング効果(形成後の風化や変質といった様々な現象から隔離させる効果)が非常に高いことを示すものであり、現在開発が進められているコンクリーション化剤の長期シーリング効果の説明としても役立つものです。

【今後の展開】
本研究で用いたラマンイメージングと多変量解析を合わせた研究手法を用いることにより、コンクリーションの形成メカニズムについて、詳細に解明することが可能になります。さらにこの手法を、岩石をはじめとした様々な地球環境物質の成因解析にも応用することができます。また、コンクリーションはその形成メカニズムをシーリング剤などとして工学的に応用する技術開発が進められています。今回のように、コンクリーションの形成メカニズムが詳細に解明されることにより、その応用技術開発・実用化にも大きく貢献できます。

【論文情報】
著者:Ryosuke Kitanaka, Motohiro Tsuboi, Tomoko Numata, Yusuke Muramiya, Hidekazu Yoshida & Yukihiro Ozaki
論文タイトル:Visualization and identification of components in a gigantic spherical dolomite concretion by Raman imaging in combination with MCR or CLS methods
掲載ジャーナル:Sci Rep 14, 749 (2024).
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-51147-y