2023.08.04.
【タッチダウン to 関西学院大学】西宮上ケ原キャンパスで『若きプロマネ 津田雄一氏、宇宙を語る』を開催

津田 雄一氏(JAXA宇宙科学研究所 教授)

津田 雄一氏(JAXA宇宙科学研究所 教授)

7月29日(土)、西宮上ケ原キャンパス中央講堂で「タッチダウン to 関西学院大学」を開催し、宇宙ファンの小学生30名を含む160名が参加しました。当日は「はやぶさ2」ミッション運用期にプロジェクトマネージャを務めた津田 雄一氏(JAXA宇宙科学研究所教授)をゲストにお招きし、「はやぶさ2」実物大模型の前で、山崎淑行氏(NHKラジオ第一「NHKジャーナル」解説キャスター)との対談を実施。小惑星のサンプル採取と地球帰還成功の裏側に迫りました。第二部では「未来トーク」と題し、神戸三田キャンパスで宇宙の研究を行っている大学院生ら3名を交えたトークセッションを開催。研究者として夢に関する質問がありました。質疑応答では、小学生らからの鋭い質問が相次ぎ、「はやぶさ2」や若きプロマネ津田氏への注目の高さがうかがえるイベントになりました。

総飛行時間2195日、総飛行距離52.4億km

フラッシュによってターゲットマーカが明るく輝く様子を実演する津田氏

フラッシュによってターゲットマーカが明るく輝く様子を実演する津田氏

第一部の津田氏と山崎氏によるプロフェッショナルトークは、「若きプロマネ、宇宙を語る」と題したテーマで進みました。 津田氏「はやぶさ2」ミッションの流れをパワーポイントを使って解説。「2014年12月3日に打ち上げられ、3年半後の2018年6月27日に小惑星リュウグウへ到着した『はやぶさ2』。探査ローバから送られてきた地表の写真は、我々が世界で初めてみるもので、とても興奮しました。しかし地表はクレーターと岩だらけ。着陸する場所もないほどの険しいものとわかり、計画変更を余儀なくされました」と困難な状況に直面した当時の様子を振り返りました。第1回目タッチダウンは、当初の予定から4ヶ月後の2019年2月22日に実施され、成功。同年4月5日には人工クレーターを生成し、7月11日には第2回目のタッチダウン。サンプル採取に見事成功しました。津田氏は「直径6mのエリアにピンポイントでタッチダウンするためには、ターゲットマーカと呼ばれる灯台の役割を果たす装置が重要な役割を果たしました」と言及。席を立ち上がり、実物大模型に近寄り、ターゲットマーカを手に取りながら、その仕組みや機能をわかりやすく説明しました。山崎氏が「人類未到の地から、地下物質を持ち帰ったことは、歴史的な快挙です。プロジェクトマネージャとしてよかったことは?」と質問すると、津田氏は「『はやぶさ2』には10年間で600人を超えるメンバーが携わってきました。その人たちの人生をプロジェクトマネージャは背負っています。だから、成功して本当によかったです。しかし、次、また同じようにやって成功できるとは断言できません。エンジニアリングに100%はありませんから。次回は真逆の方向(失敗)に行く可能性もあります。非常に難しいポジションだと思います」とそのやりがいや責任の重さを言葉にしました。

宇宙は総合科学。興味をもったこと、突き詰めて欲しい

学生らの質問に参加者が耳を傾けた未来トーク

学生らの質問に参加者が耳を傾けた未来トーク

第二部の津田氏と本学大学院生・学部生よるトークセッション「未来トーク」は、学生からの質問に津田氏が答えるかたちで進行しました。参加したのは理学部物理・宇宙学科・松浦周二教授の研究室に所属する3名で、宇宙の昔の光を観測する衛星のソフトウェア開発をJAXAで研究する森口 諒介さん(理工学研究科・修士1年生)、神戸三田キャンパスⅧ号館屋上に設置された天体望遠鏡の調整を担当する林 宏憲さん(理工学研究科・修士2年)、そしてNASAのロケットに望遠鏡を搭載する実験「CIBER-2」プロジェクトで、望遠鏡の光学調整を行う玉井 桃子さん(理工学部物理学科※4年)。林さんが「宇宙分野に進む研究者に求められる資質や能力は何でしょうか?」と質問すると、津田氏は「自分が興味を持てる分野を1つでいいから作ることが大切です。その上で、仲間と一緒に力を合わせることを好きなことが大切だと思います」と力を込めました。また、「やりたいことができるなら、どのようなプロジェクトをやりたいか?」という玉井さんの質問には「木星より遠くの天体に行く探査機を飛ばすプロジェクトをやってみたいです。挑戦ですから成功するとは限りません。もちろん全力で成功を目指しますが、技術に100%はない。だから失敗したとしても成長に繋がり、成功するまで失敗経験を積めることの方が重要なのです」と応じました。観覧席に座っていた松浦教授も急遽壇上にあがり、「失敗は成功に必要不可欠なものです。学生時代は失敗が許されるので、(学生には)ぜひ色々なことに挑戦して欲しいです」と学生らの背中を押す場面も見られました。 ※2021年4月に理学部物理・宇宙学科へ改組

山崎氏が「どうやってチームをつくって、何を大切にしたのか?」というチームマネジメントについて疑問を投げかけると、津田氏は「科学に徹し、仲間を信頼し、童心を忘れないことです」とリーダーの心構えを紹介しました。「科学的に正しいことを言った人が正しいという環境づくりに徹しました。ベテランや若手メンバー全員とのフラットな環境という意味です。何かをするにしても一人ではできません。仲間の言っていることを鵜呑みにするのではなく、主張の根拠を理解することが大事という意味です。そして、メンバーが楽しむことも重要です。『はやぶさ2』は国家プロジェクトです。失敗は許されませんが、新たな発見を目指すためには、メンバー自身が楽しむことが必要です」と紹介。「リュウグウに到着することは難しかったです。しかし、それ以上にチームの意識を統一したり、良いチームをつくるということも難しいのです」と振り返りました。チームメンバー全員が同じ方向を目指していることが、難しい局面を乗り越えるポイントだと会場も納得の様子でした。

その後は、会場からの質疑応答に移りました。勢いよく手を挙げた男子小学生からは「宇宙ゴミをとった人がいますか」「はやぶさ2が成功すると初めから思っていましたか」「ミネルバ2の1-bが飛ぶ回数を少なくしたのはなぜですか」「記者会見の時に津田さんが記者に逆質問したことを山崎さんは記者としてどう思いましたか」など、大人顔負けの質問も飛び交いました。津田氏は一つずつ、子供たちにむかってまっすぐに回答。そこには初めて披露されるいエピソードもあり、参加者はそのやりとりの一部始終に耳を傾けていました。 その後も会場からの質疑応答が相次ぎ、イベントは時間いっぱいまで続きました。参加者からは「自分の勉強や将来の仕事などに活きる内容で本当に来て良かったです」や「はやぶさ2のことだけではなく、研究者やリーダーとしての在り方を学べたことが良い経験でした」という声も聞かれました。

ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。 「はやぶさ2」実物大模型は8月5日(土)関西学院大学神戸三田キャンパスへタッチダウンします。同会場では、新聞記者体験や模型解体ショーも開催予定です。小学生向けの申込制となります。詳細は HP をご覧ください。