2022.09.09.
産学連携プロジェクトによりパワー半導体向け SiC ウエハー全面の加工歪み検査技術を共同開発

高速可視化技術により SiC ウエハーの高品質化に貢献

学校法人関西学院(以下、関西学院大学)と豊田通商株式会社(以下、豊田通商)、株式会社山梨技術工房(以下、山梨技術工房)は、パワー半導体材料である SiC(炭化ケイ素)ウエハーの製造プロセスで生じる結晶の歪み(加工歪み層*)を検査する技術を共同で開発しました。この技術は、関西学院大学と豊田通商が 2017 年から共同で進めている高品質 SiC ウエハーの量産プロセス技術開発の中で得られた革新的検査技術であり、半導体を製造・研究する現場が抱える課題解決及び製造の効率化に寄与するものです。 

1.背景
現在普及しているパワー半導体材料である Si(シリコン)と比較して、SiC は、電力ロスを大幅に低減できることから、自動車、鉄道、産業機器、電力等のカーボンニュートラルに向けて、特に電動車(EV・HV・FCV)における採用拡大が期待されています。 
SiC ウエハーの製造時の課題としては、硬くて脆い材質のため、スライス、研削・研磨の際、表面近傍で結晶が破壊され加工歪み層が生じます(図表1参照)。加工歪み層は、ウエハーの良品率低下やパワー半導体の不具合の原因となる一方、ウエハー全面を可視化する技術が存在せず、ウエハー量産加工プロセスの品質管理や受入検査にも適用可能な「高速・高精度加工歪み検査技術」が強く望まれていました。 

2.本共同開発 
関西学院大学(工学部 金子忠昭教授)と豊田通商は、山梨技術工房の持つレーザー散乱光応用技術に着目し、三者共同で SiC ウエハーの機械加工由来の歪み層を全面にわたり可視化し、ウエハーの歪み層を相対的に比較する技術を開発しました。 
この技術は、レーザー光をウエハー表面に照射し、表面及び内部からの散乱光を最適な角度で検出することで、加工歪み層を可視化することができます(図表2参照)。さらに、ウエハー全面を高速で検査することができ、量産加工プロセスの品質管理等へも適用が可能です。今後、本技術を実装したウエハー検査装置の製品化の早期実現を目指してまいります。 
なお、この検査技術を通じて確認された加工歪み層は、関西学院大学と豊田通商が2021年3月に公表した、熱エッチングと結晶成長を統合した非接触型のナノ制御プロセス技術「Dynamic AGE-ing®」により、完全に除去することが可能です。 
本共同開発技術は、2022 年 9 月 11 日から 16 日までスイスで開催される「ICSCRM2022(SiC 及び関連材料に関する国際会議 2022)」においても、発表ならびにブース展示が行われます。 

*ウエハーをスライス、研削・研磨といった機械加工時に砥粒との接触や応力等で生じた歪みの層。 

(図表 1)SiC ウエハー製造プロセス概要
(図表1)SiCウエハー製造プロセス概要

①SiC バルク結晶を成長させインゴットに成形
②インゴットをスライスし SiC ウエハーの素地を作製
③スライスされた SiC ウエハー素地を研削・研磨
④CMP=Chemical Mechanical Polish(化学機械研磨)で鏡面加工して SiC ウエハーが完成
⑤SiC ウエハー上に高品位な結晶薄膜を形成(CVD エピタキシャル成長)

【SiC ウエハー製造プロセスの課題】 
・②、③の工程で機械加工する時に表面近傍に加工歪み層が生じる。
・④の化学機械研磨でも、②、③で形成された加工歪み層が取り切れず加工歪み層が残留する場合がある。
・⑤の前処理工程でも加工歪み層は完全には除去されない可能性があり、最終製品の不具合を引き起こすことがある。
・これまでは②~④の工程で加工歪み層がウエハー全面でどのように残留しているか、わからなかった。

​​(図表2)ウエハー加工歪み検査技術の概要
​​(図表2)ウエハー加工歪み検査技術の概要