2022.07.21.
(共同発表)山原森林生態系の外来種侵略に対するレジリエンス

琉球大学農学部の辻瑞樹教授(ペンネーム辻和希)と下地博之博士(関西学院大学生命環境学部)、諏訪部真友子博士、菊地友則博士、大西一志博士、田中宏卓博士、日高雄亮氏、河原健悟氏、榎木 勉博士の農学部 OB の研究チームによる成果が国際的な学術雑誌「Ecology and Evolution」誌に掲載されました。本件に関する取材は、下記のとおりになりますので、よろしくお願いします。 

<発表のポイント> 

◆成果:沖縄山原で開通後の年月がさまざまな林道を選び、道路脇環境で見つかったアリの顔ぶれを比較しました。道路を作り森林に手を加えると外来種のアリが侵入することを明らかにし、さらにその後のアリ種の顔ぶれの変遷を調べました。

◆新規性(何が新しいのか):外来種が侵略的になるのは、外来種の強い競争力が原因だとする説と、外来種が増えやすい環境を人が作り出すことが重要だという説があります。本研究は世界自然遺産の山原の森林で、後者の説を支持する証拠を提出しました。林道を作るとアシナガキアリ(写真)などの外来アリが侵入し、開通直後から少なくとも 15 年くらいのあいだ林道脇に棲みつきます。しかしさらに時間が経ち道路脇の植生が回復してくると、外来アリが次第に数を減らしていくことが示唆されました。 

◆社会的意義/将来の展望:過去に伐採など利用痕跡が広くみられる山原森林に、ヤンバルクイナなどの多くの希少生物が絶滅せず生存し続けているのはなぜか。この研究は、山原の生態系には修復能力(レジリエンス)がある程度あり、それが希少生物を絶滅から守ってきた可能性を間接的に示しました。山原が生物多様性の宝庫であり続けるには、人的環境撹乱が修復能力を超えない大きさに管理することが重要です。また、外来アリの防除は殺虫剤による駆除が中心ですが、山原のような自然保護地域では薬剤使用は困難な場合も多いでしょう。そんな場合は、植生などの棲息環境の回復に努めるのが有効な戦略かもしれません。