2022.03.04.
復興事業は民間の労働力不足を誘発し、 経済成長に影響する可能性も~東日本大震災後の求人票個票データを用いて分析

亀田啓悟・総合政策学部教授ら

 関西学院大学総合政策学部の亀田啓悟教授と長峯純一教授、工学部の巳波弘佳教授は、2011年の東日本大震災後の求人票個票データを用いた分析により、復興事業に伴う労働需要が民間企業の労働力不足を誘発し、事後的な経済成長に大きく影響する可能性があることを明らかにしました。研究成果をまとめた論文「Effects of reconstruction works on private employment after a natural disaster: A case in the stricken area of the Great East Japan Earthquake」は2021年1月、自然災害分野での国際的なジャーナル「International Journal of Disaster Risk Reduction」に掲載されました。このほど、日本語訳「自然災害後の復興事業が民間雇用に与える影響:東日本大震災の事例 -求人票個票データによるサバイバル分析-」が本学HPで公開されましたので、お知らせします。
  https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212420920314709?via%3Dihub  
 
(日本語訳) https://kwansei.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_snippet&index_id=5841&pn=1&count=20&order=7&lang=japanese&page_id=30&block_id=85  

 この研究は、東日本大震災の被災地で生じた人手不足問題を、ウェブスクレイピング技術を使って収集したマイクロデータによって分析し、被災地での建設業求人1%の増加が民間求人充足確率を他地域より17%も多く下落させることを明らかにしたものです。この分析結果に基づき、亀田教授らは「復興政策を考える際には、復興労働需要を満たし得る労働参加を促す政策もその一部に位置付ける必要がある」と話しています。
復興事業の副作用に焦点を当てた研究は過去に例がなく、また、ウェブスクレイピング技術を用いた経済分析もまだ端緒についたばかりで、この両方の意味で貴重な研究といえます。また、災害経済学のみならず、労働経済学、マクロ経済学に対する学術的貢献も大きく、今後の展開が期待されます。本研究は、東日本大震災の被災地(気仙沼市)の復興計画策定委員も務めた長峯教授の知見と、巳波教授の持つ情報科学技術を、亀田教授が統計手法を用いてまとめたものです。

 本研究は科学研究費補助金:基盤研究(B)(代表:長峯純一)の資金援助を受けています。
  https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15H03356/