2020.09.30.
宇宙に漂う塵の分布に関する新事実を発見~赤外線衛星データからの発掘~

松浦周二・理工学部教授と金沢大学などの共同研究グループ

 金沢大学理工研究域数物科学系の佐野圭日本学術振興会特別研究員PD,関西学院大学,自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの共同研究グループは,Cosmic Background Explorer (COBE)衛星(※1)の赤外線観測装置Diffuse Infrared Background Experiment (DIRBE,※2)のデータを詳細に解析し,これまで見過ごされてきた太陽や地球を取り囲む等方的な惑星間塵(※3)の存在を明らかにしました。また,新たな惑星間塵の成分を考慮することで,遠くの宇宙から飛来する宇宙赤外線背景放射(※4)をこれまでより高い精度で測定することに成功しました

 私たちが住む太陽系には,小惑星や彗星のかけらである微小な惑星間塵が漂っています。これまでの研究により,黄道面に沿って分布する惑星間塵は確認されていましたが,太陽を取り囲む等方的な惑星間塵は謎に包まれていました。そこで本研究グループは,太陽系のさまざまな方向を観測したCOBE衛星の赤外線観測装置DIRBEの全天観測データを詳細に解析しました。その結果,太陽を中心として等方的に分布する惑星間塵の存在が明らかになりました

 宇宙赤外線背景放射は,天の川銀河の外にある遠い銀河や初期宇宙からの光を合計したものであり,その測定によって宇宙進化の歴史を調べることができます。宇宙赤外線背景放射の測定には手前にある惑星間塵が出す光の強さを正確に知る必要がありますが,本研究で新たに見いだした等方的な惑星間塵を考慮することで,宇宙赤外線背景放射の測定精度が大きく改善されました

 本研究の成果は,太陽系や銀河宇宙の理解を大きく推し進めるものです。等方的な惑星間塵の詳細な構造や,宇宙赤外線背景放射の起源は,いまだ謎に包まれています。近い将来に,ロケットや探査機を利用した新たな観測プロジェクトによってそれらの謎が解き明かされることが期待されます。 

 本研究成果は,2020年9月28日に米国科学誌『Astrophysical Journal』に掲載されました。

【研究の背景】
 太陽系には大きさが数ミリメートルより小さな微粒子(惑星間塵)が漂っています。惑星間塵は彗星や小惑星によってもたらされていると考えられており,また太陽の光を散乱し,地球から黄道光(※5)として観測されます。黄道光は可視光や近赤外線(※6)の波長で明るいため,それらの波長で観測することができます。惑星間塵の大部分は黄道面に沿って分布していますが,オールトの雲(※7)から飛来する彗星によってもたらされる,太陽の周りに等方的に分布する惑星間塵も存在すると予想されていました(図1)。しかし,そのような惑星間塵は等方的であるため,観測する方向が限られている従来の観測装置では検出できていませんでした。
 また,天の川銀河の外に存在する天体による放射の合計である宇宙赤外線背景放射は,初期宇宙を調べるために重要な観測量です。その測定のためには,手前にある太陽系と天の川銀河の光を正確に除去する必要があります(図2)。しかし,これまで等方的な惑星間塵による黄道光の強度は謎だったため,宇宙赤外線背景放射を正確に測定することができていませんでした。

【研究成果の概要】
 本研究グループは,等方的な惑星間塵による黄道光の強度は,太陽離角(※8)に対して変化することをモデル計算によって予想しました。そこで,太陽離角に対する強度の変化を調べることができれば,等方的な惑星間塵を検出できると予測し,さまざまな太陽離角で宇宙を観測したCOBE衛星のDIRBE装置による全観測期間のデータを解析しました。DIRBEによって測定された赤外線の強度から,太陽系内と天の川銀河の光を除去し,残りの赤外線強度の太陽離角に対する変化を調べました。その結果,太陽離角に対して強度が変化することを発見し,等方的な惑星間塵を検出することに初めて成功しました(図3)。
 等方的な惑星間塵による黄道光の強度は,太陽離角に対して変化しますが,宇宙赤外線背景放射の強度は太陽離角によらず一定なので,その違いを利用して両者を分離することに初めて成功しました(図3)。本研究で発見された等方的な惑星間塵を新たに考慮することで,宇宙赤外線背景放射の明るさを正確に求めることが可能になりました。その結果,これまで本研究グループらが観測ロケットや人工衛星による観測結果をもとに主張してきたように,宇宙赤外線背景放射の明るさは銀河の光の合計より数倍大きいことがあらためて検証されました。これは天の川銀河の外の遠い宇宙に銀河以外の未知の天体が存在することを示しています。

【今後の展開】
 本研究により,等方的な惑星間塵の存在が明らかになりましたが,その詳細な構造や起源を調べるためには,惑星探査機を利用した宇宙観測が必要です。本研究グループは,現在や将来のさまざまな惑星探査機の観測装置を利用することで,地球から離れた宇宙空間より黄道光を観測することを計画しています。さらに,将来的には,木星付近の深宇宙まで到達する探査機に,赤外線望遠鏡(Exo-Zodiacal Infrared Telescope:EXZIT)を搭載し,惑星間塵の外側から初めての観測を目指します。これら最先端の観測により,惑星間塵について新たな知見が得られることが期待されます。
 本研究により,宇宙赤外線背景放射には未知の天体からの光が多量に含まれることが明らかになりました。今後,その起源を解明することが重要な課題です。そのためのプロジェクトのひとつとして,本研究グループは国際共同ロケット観測実験Cosmic Infrared Background Experiment 2 (CIBER-2)(※9)を進めています。このプロジェクトでは,アメリカ航空宇宙局(NASA)の観測ロケットに望遠鏡を搭載し,宇宙赤外線背景放射のスペクトルと天空の強度むらをかつてない高い精度で観測します。CIBER-2は,2021年2月に第一回の打ち上げを行う計画で,宇宙赤外線背景放射の起源解明に向け大きく前進することが期待されます。

※本研究は,文部科学省科学研究費補助金特別研究員奨励費「多波長観測で探る宇宙背景放射の起源」(19J00468)(研究代表者:佐野圭), 文部科学省学術研究助成基金助成金若手研究「深宇宙からの可視光近赤外線観測でねらう宇宙背景放射の直接検出」(19K14765)(研究代表者:佐野圭), 文部科学省科学研究費補助金基盤研究(S)「宇宙赤外線背景放射のロケット観測でさぐる銀河ダークハロー浮遊星と宇宙再電離」(15H05744)(研究代表者:松浦周二 関西学院大学理工学研究科教授)の支援を受けて実施されました。本論文の出版費に国立天文台の補助を受けました。

【掲載論文】
雑誌名:Astrophysical Journal
論文名:The Isotropic Interplanetary Dust Cloud and Near-infrared Extragalactic Background Light Observed with COBE/DIRBE
   (COBE衛星のDIRBE装置によって観測された等方的な惑星間塵と近赤外線の宇宙背景放射)
著者名:Kei Sano,Shuji Matsuura,Kazuma Yomo,Aoi Takahashi
    (佐野圭,松浦周二,四方一真,高橋葵)
掲載日時:2020年9月28日にオンライン版に掲載
 

【用語解説】
※1 Cosmic Background Explorer(COBE)衛星
 1989年にアメリカ航空宇宙局(NASA)によって打ち上げられた人工衛星。宇宙マイクロ波背景放射観測装置DMRとFIRAS,宇宙赤外線背景放射観測装置DIRBEを搭載した。宇宙マイクロ波背景放射のスペクトルと非等方性を発見した。

※2 Diffuse Infrared Background Experiment(DIRBE)
 COBE衛星に搭載された宇宙赤外線背景放射観測装置。約10ヶ月にわたって赤外線の10波長帯で宇宙のほぼ全方向を観測した。

※3 惑星間塵
 太陽系内に漂う大きさ数ミリメートル以下の固体微粒子。太陽系内の彗星や小惑星によってもたらされると考えられている。

※4  宇宙赤外線背景放射 
 天の川銀河の外から飛来する赤外線の合計。生まれて間もない頃の宇宙や,銀河の歴史を調べるために重要な観測量である。

※5 黄道光
 惑星間塵が太陽の光を受けて散乱した光。黄道面を中心に淡く広がった光として観測される。

※6 近赤外線
 波長が1μmから400μm程度の範囲にある電磁波を赤外線と呼び,そのうち波長が短いもの(1-3μm)を近赤外線と呼ぶ。

※7  オールトの雲
 太陽系を取り囲む,大きさ数万天文単位の球殻状に分布する微惑星の集合。軌道長半径の大きい彗星はここから飛来すると考えられている。

※8  太陽離角
 望遠鏡の観測方向と太陽のなす角度。

※9 Cosmic Infrared Background Experiment 2(CIBER-2)
 NASAの観測ロケットに可視光と近赤外線を観測する望遠鏡を搭載し,宇宙赤外線背景放射の観測を行う計画。2021年2月に打ち上げ予定。