私立大学戦略的研究基盤形成支援事業

大学の特色を活かした取り組みをきめ細やかに支援していくため、「私立大学学術高度化推進事業」を見直し、各事業の関連・融合を図りつつ「戦略的研究基盤形成の支援を強化」する事業です。

バイオ・ロボティクス研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2014年度〜2018年度

高齢者の自立した生活に不可欠で、最も基本的な動作の一つが“歩行”です。高齢者が自立した歩行能力を維持することは、日常活動動作 (ADL)や生活の質(QOL)の維持・向上となり、豊かで生き生きとした長寿社会の形成に繋がります。本研究では”歩行”をテーマに脳活動と筋活動の相関を見出し、得られた知見を基に健康維持・増進や自立支援のための新たな手法や機器を開発することを研究の目的としています。

母体となる組織

バイオ・ロボティクス研究センター

研究プロジェクト名

歩行における脳活動と筋活動の相関に基づく新しい健康維持促進とリハビリテーション技術の創生

代表者

嵯峨 宣彦(理工学研究科 教授)

研究者

工藤 卓 (理工学研究科・准教授)
岡留 剛 (理工学研究科・教授)
中後 大輔(理工学研究科・准教授)
河野 恭之(理工学研究科・教授)
長田 典子(理工学研究科・教授)
山本 倫也(理工学研究科・准教授)
片寄 晴弘(理工学研究科・教授)
河鰭 一彦(人間福祉研究科・教授)
菅  俊光(関西医科大学附属滝井病院・准教授)
近藤 徳彦(神戸大学人間発達環境学研究科・教授)
Shane Xie (The University of Auckland,Professor)
脇元 修一(岡山大学自然科学研究科・准教授)
永瀬 純也(龍谷大学理工学部・助教)

研究目的・特色

本研究の目的は、下肢アライメントや筋量,高齢化によるO脚化、拘縮発症などが歩行動作に及ぼす影響を調べるとともに、膝に負荷の少ない歩き方や膝周りの筋骨格の動きを制御するアクティブサポータを開発すること、さらに、脳神経系伝達経路の再建にどのような脳、筋への刺激が効果があるのか脳活動と筋活動の新たな相関を見出し、脳や筋への刺激を取り入れた新しい運動相関刺激による新たなリハビリテーション手法を提案することである。

本研究の特色は以下の通りである。
 (1)歩行の運動解析とモデリング
 (2)健康な歩き方実現のための歩行支援
 (3)脳活動と筋活動の新しい相関抽出とこれを利用したリハビリ機器の開発
 (4)医学的,生理心理学的評価

期待される効果

本研究により以下の5つの効果が期待される。

(1)これまで着目されていない下肢アライメントの違いによる歩行動作の計測や高齢者、足関節に痛みや拘縮のある人の歩行動作の計測により,日本人の筋骨格に基づく歩行動作の特徴抽出を実施する。

(2)計測データに基づく歩行動作の筋骨格シミュレーション・モデルの構築と日本人の筋骨格に着目した膝負荷の少ない健康維持のための歩行動作の提案や歩行支援器を開発する。

(3)運動と筋活動、脳活動の3つの総合的な相関および運動に伴う脳・筋への刺激による脳神経系の再構築は明らかにされていないため、刺激による脳活動と筋活動における歩行動作との相関解明と、脳と筋へのEMSなどの刺激による新しい運動相関刺激法を提案する。

(4)脳活動への電気刺激効果を検証する細胞生物学的モデルの構築

(5)リハビリ機器などの効果の検証のためのエビデンスは得られにくく、日本では臨床実験なども認可されにくいことから、医師、療法士など専門家の評価などに加え、生理心理的な評価手法を加え医療機器への新たな評価手法を提案する。

応用心理科学研究センター(2010年度~2014年度)

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2010年度~2014年度

本プロジェクトの目的は、実証的心理科学の成果を産業界や広く社会へ積極的に発信する研究拠点を形成することです。特に、様々な事態でのインタラクションを評価するシステムを構築し、さらに遠隔地間コミュニケーションに関する基礎的知見を提供します。
これまで様々なモノ(ハードウェア)やコト(ソフトウェア)、システムや社会は、技術的あるいは制度的制約に基づいて作られてきました。これに対して本プロジェクトでは、心理科学の基盤に神経科学を据えることによって、心理科学を通して人間の原理を明らかにし、その結果として、より安全で健康なモノやコト、システム、社会を提案することができます。このようにして、本プロジェクトの研究成果は「安全で健康な社会」の実現に向けて大きな役割を果たすことになります。

母体となる組織

応用心理科学研究センター

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研究プロジェクト名

心理科学を基盤とするインタラクション評価システムの開発と応用

代表者

片山 順一(文学研究科 教授)

研究者

三浦 麻子(文学研究科 教授)
佐藤 暢哉(文学研究科 准教授)
松見 淳子(文学研究科 教授)
桂田恵美子(文学研究科 教授)
成田 健一(文学研究科 教授)
中島 定彦(文学研究科 教授)
小野 久江(文学研究科 教授)
大竹 恵子(文学研究科 准教授)
八木 昭宏(応用心理科学研究センター 客員研究員)

研究目的・特色

本プロジェクトの目的は、実証的心理科学の成果を産業界や広く社会へ積極的に発信する研究拠点を形成することである。本プロジェクトでは特に、複数の人が相互作用している事態での生理反応や、言語的・非言語的行動データを計測・分析する技術を開発することにより、潜在的な認知過程や急激な情動変化をも対象とするインタラクション評価システムを構築する。また、触覚での環境との相互作用も含めることにより、遠隔地間コミュニケーションに関する基礎的知見を提供する。
従来、様々なモノ(ハードウェア)やコト(ソフトウェア)、社会は、技術的あるいは制度的制約に基づいて作られてきた。これに対して本プロジェクトでは、心理科学の基盤に神経科学を据えることにより、心理科学を通して人間の原理を明らかにし、その結果として、より安全で健康なモノやコト、社会を提案することができる。すなわち、本プロジェクトの研究成果は、「安全で健康な社会」の実現に向けて大きな役割を果たすことになる。

期待される効果

国際的に最先端レベルで、かつ神経科学に基づく実証科学的な心理科学研究を基盤として得られる知見や技術は、最先端のモノ作りに限らず、インターネットなど新しい媒体によるコミュニケーション場面や教育・臨床・ヘルスケア現場などにも貢献する。特に複数の人が相互作用している事態での生理反応や非言語的行動データの計測技術により、(1)意識的にコントロールされた行動だけでなく意識されない潜在的な心的過程の活動をも捉えうる技術の開発、その応用としての、(2)日常場面における多様なインタラクションの評価手法の開発、 そして、(3)遠隔地間コミュニケーションにかかわる基礎的知見の蓄積や、その効果的なあり方に関する提言、が産業界に還元しうる効果として期待される。さらに、これらは教育・臨床現場でのエビデンスに基づく支援プログラムの開発やヘルスケア場面でのヘルスプロモーションの実践にもつながる。

応用心理科学研究センター(2015年度~2019年度)

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2015年度〜2019年度

本プロジェクトは、「幸せ」を実現させる際に必要不可欠な要素として「情動」をとりあげ、実証的検証を重視しながら、情動が人と人との相互作用によって共有される過程に注目して、心理科学に隣接諸領域を取り込んだ階層的かつ多面的な実証研究を行う。心理科学の最先端の知見と技術を人間の幸せを理解し、支えるための臨床的、予防的な実証研究に応用することは、心理科学が果たすべき重大な責務であり、ひとつの社会貢献のあり方である。

母体となる組織

応用心理科学研究センター

研究プロジェクト名

情動概念の再構築:心理科学の新たな挑戦

代表者

片山 順一(文学研究科 教授)

研究者

大竹 恵子 (文学研究科 教授)
佐藤 暢哉 (文学研究科 教授)
三浦 麻子 (文学研究科 教授)
小川 洋和 (文学研究科 教授)
桂田 恵美子(文学研究科 教授)
成田 健一 (文学研究科 教授)
中島 定彦 (文学研究科 教授)
小野 久江 (文学研究科 教授)
米山 直樹 (文学研究科 教授)
Barbara L. Fredrickson(Kenan Distinguished Professor, University of North Carolina at Chapel Hill)
島井 哲志(日本赤十字豊田看護大学・教授)
堀毛 裕子(東北学院大学・教授)

研究目的・特色

本プロジェクトでは、「情動」の中でもとくにポジティブ情動に着目しながら、全情動の個人内での心的機能と社会的な役割を解明し、情動概念の再構築を試みる。そのために、2つのサブテーマ「ポジティブ情動の機能や生起に着目した情動メカニズムの解明」と「コミュニケーション過程での情報伝播における情動の役割の解明」を設定し、各テーマについて基礎研究としての実験的アプローチから実社会への応用を目指したアプローチという意味で多面的に検討する。また階層的な検討として、個人内の機能では神経細胞のミクロレベルから情動によって生じる個人の認知や行動といったマクロレベルまで、社会的機能では二者間での情報伝達というミクロレベルから大集団や社会全体へと情報が伝播して社会情勢に至るといったマクロレベルまでを視野にいれる。本プロジェクトでは、神経科学を含んだ実験系心理学の基礎から臨床や社会・工学的側面も含んだ応用研究までを網羅した国際的に最先端レベルの専門家によるプロジェクトチームを構成し、最先端の学術的知見と技術を教育・臨床現場や産業界に積極的に還元し、安心で安全な社会に資するための研究・情報発信拠点を形成する。

期待される効果

本プロジェクトでは、ポジティブ情動に着目しながら情動の生起メカニズムと社会的機能について多面的かつ階層的に検討し、「情動」概念の再構築を試みる。これにより、これまで実証されてこなかったポジティブ情動の機能や非言語情報の潜在的過程についての学術的知見だけではなく、「情動」の定義や捉え方の新しい枠組みという学術的にも社会的にもインパクトのある新しい視点や方法論を提供する。その知見と技術の応用可能性は甚大であると考えられ、個人レベルでは人間の適応を支える心身の健康についての予防的な新しい実践研究に大きく貢献することが期待でき、社会レベルでは様々な感情価を伴った情報伝播に端を発する現代社会の諸問題に対する予防と安全や幸せの実現が期待できる。また産業界では、製品やシステムに対して情動の側面からの評価を充実させることによって安全・安心を超えた幸せな生活環境の創造に寄与しうる。これらを通して次世代を育むことができる環境作りや高齢者を支える安全で安心な社会の実現に向けて、社会的に要請度の高い成果を提供する。

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量子制御環境エネルギー研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2012年度〜2016年度

本研究の目的は、世界最高性能を有するSPring-8を利用して放射光の特長を生かした先端計測技術の開発とその複合的利用により、環境・エネルギー問題について物質科学研究の面からその基盤を構成する物質の構造と電子状態、およびそれらと物性・機能との相関を明らかにし、その結果として環境調和型、省エネルギー、および低消費電力に直結する物質を創製することでグリーンイノベーションを強力に推進することです。本研究の意義は、、グローバルな視点で取り組まなければならない環境・エネルギー問題について、物質科学研究の面からグリーンイノベーションに資する研究成果創出することによって、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献するだけにとどまらず、グリーンイノベーションを世界的にリードする研究基盤形成を大学の場で実現することによって日本の次世代を担う放射光科学研究者を育成、輩出することができることにあります。

母体となる組織

量子制御環境エネルギー研究センター

研究プロジェクト名

SPring-8を利用した量子制御に基づくグリーンイノベーション

代表者

水木 純一郎(理工学研究科 教授)

研究者

高橋 功 (理工学研究科 教授)
加藤 知 (理工学研究科 教授)
尾崎 幸洋(理工学研究科 教授)
金子 忠昭(理工学研究科 教授)
大谷 昇 (理工学研究科 教授)
西畑 保雄((独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門・グループリーダ)
大和田謙二((独)日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門・研究副主幹)
寺田 靖子((財)高輝度光科学研究センター・研究主幹)
横谷 尚睦(岡山大学大学院自然科学研究科・教授)

研究目的・特色

本研究の目的は、世界最高性能を有するSPring-8を利用して放射光の特長を生かした先端計測技術の開発とその複合的利用により、環境・エネルギー問題について物質科学研究の面からその基盤を構成する物質の構造と電子状態、およびそれらと物性・機能との相関を明らかにすることにより、環境調和型、省エネルギー、低消費電力、および低消費資源に直結する物質を創製することでグリーンイノベーションを強力に推進することを目的とする。本研究の意義は、グリーンイノベーションに資する研究成果創出することによって、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献するだけにとどまらず、グリーンイノベーションを世界的にリードする研究基盤形成を大学の場で実現することによって日本の次世代を担う放射光科学研究者を育成、輩出することができることにある。

期待される効果

本研究により以下の3つの効果が期待される。

1.大型放射光施設SPring-8の先端計測技術を利用した環境・エネルギー関連物質研究を進める本プロジェクトは、我が国が提案する新成長戦略として成長分野に掲げているグリーンイノベーションを支える研究基盤を形成するものであり、本研究により放射光を利用したグリーンイノベーションが加速される。

2.本研究では大学が中心となって放射光を総合的に利用した環境・エネルギー関連の研究を推進するが、これにより日本の次世代を担う若手放射光科学研究者の育成、創出に大きく寄与することが期待される。

3.放射光先端計測技術を共通基盤としたハードマターとソフトマター研究者の融合により、新機能物質創製や新機能発見によるグリーンイノベーションの期待が高まる。

研究成果報告書PDFファイル

生物機能基材研究開発センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2012年度〜2016年度

生物による無機固体形成(バイオミネラリゼーション:以下BMと略)は、歯や骨の生成に見られるカルシウムの固体形成など、医学的には古くから知られた現象であるが、自然界全体を見渡すとBMを行う生物、原料、生成物は極めて多様であり、BMを基盤とした応用の可能性や方向は極めて高くかつ幅広いことが分かる。例として貝の歯舌、一部のバクテリアに見られるマグネタイトなど鉄を原料とするもの、好熱菌や一部の巻貝など硫黄フィルムや硫化鉄など金属複合体を生成するもの、或いは海綿、珪藻類などにみられる酸化ケイ素固体(バイオシリカ)形成するものなどが挙げられる。これらのBMでは自然水中に希釈された原料分子を効率的に取り込み、細胞内外において濃縮・固体化するが、この過程でナノスケールの微細構造自己組織化を伴うことも多く、BMは細胞と生体高分子の機能に裏打ちされたインテリジェントプロセスの究極例と言える。本プロジェクトでは、BM原理を理解し、その数理科学的な理論化をおこない、BMを制御する技術基盤とこれに必要な基礎知見・解析法の深化・精密化をはかることにより、機能性基盤・基材を創成するための技術開発をおこなう。

母体となる組織

生物機能基材研究開発センター

研究プロジェクト名

特殊生物の自己組織化能を利用した新規機能基材の開発

代表者

松田 祐介(理工学研究科 教授)

研究者

金子 忠昭(理工学研究科 教授)
藤原 伸介(理工学研究科 教授)
大崎 浩一(理工学研究科 准教授)
平井 洋平(理工学研究科 教授)
田中 克典(理工学研究科 教授)
今岡 進 (理工学研究科 教授)
佐藤 英俊(理工学研究科 准教授)
増尾 貞弘(理工学研究科 准教授)
Peter G. Kroth (ドイツ コンスタンツ大学 教授)
Chris Bowler(フランス パリ高等師範学校 教授)
Nils Kröger(ドイツ ドレスデン工科大学)
跡見 晴幸(京都大学大学院工学研究科 教授)

研究目的・特色

生物は様々な精密構造固体を自己組織化によって形成することができ、次世代の機能素材開発技術にその機能の有効利用が期待されている。本研究の目的は、生物による無機固体形成作用(バイオミネラリゼーション:BM)を制御する基盤技術の確立および様々な機能基材・機能素子の開発である。珪藻類細胞をモデルとして位置付け、BMとその作用による精密構造形成原理を理解し、これを利用する技術開発を行う。珪藻は細胞壁としてケイ酸固体を自己組織化するという特異稀で高次元な能力を持ち、細胞に外来遺伝子導入が可能なモデル生物である。本研究の意義は、数理科学、表面プロセス物理、物理化学、細胞生物・生化学など分野横断的にこの課題に取り組み、本学を珪藻による機能素材研究開発の日本における研究拠点に発展させることである。

期待される効果

本研究により以下の成果が期待される。自己組織化バイオ基板の創成を目指すことで、常温における構造自己組織化理論の構築、これに基づく新規電子・光学材料、機能埋め込み型素子等の開発、および様々なBM利用に応用可能な基盤技術確立が期待できる。また、表面提示シリカ基材の作製により、珪藻を用いて安価・安定的に繰り返し生産可能な医療、創薬、環境浄化、発酵工業、エネルギー産業等に有用な生物機能基材の開発が期待され、環境保全に対する技術的貢献も見込まれる。一方、微細構造解析技術のブレークスルーを目指すことにより、様々な自己組織化利用に資する分析技術の分野横断的な集約と精密構造観察技術の醸成が見込まれる。さらに、珪藻は地球環境科学やバイオ燃料開発など、様々なグリーンイノベーションに資する細胞としても注目を集める。珪藻細胞の高度ツール化を目指すことにより、これら諸分野にも新たな原理と方法論の提供が期待される。

研究成果報告書PDFファイル

機能性ナノ単一サイズ有機分子創製センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2013年度〜2017年度

物質をナノメートルのサイズにすることで現れる、新しい現象や機能に期待が持たれている。ナノサイズ化では、機械、電子系の分野では、そこまで「小さくする」努力をする。一方、化学系では逆で、原子や分子を正確に組み立ててナノサイズへと「大きくする」。フラーレンなどの有機ポリマーは容易にナノサイズに達し、様々な応用研究が進行している。しかし、ポリマーには分子量や形状に分布がある。ナノサイズに達した有機分子の性質を基礎から理解しようとすると、単一サイズ=単一分子量の分子が欲しくなる。しかし、このサイズになると、入手できる化合物は非常に少ない。理由は明らかで、ナノサイズは現在の有機合成化学には「大きすぎて」、その合成法が乏しいからである。

本研究では、新しい現象や機能が期待されるものの、合成的供給が難しいナノ単一サイズ有機分子の合成方法論の開発、測定・解析法の開発、及び、機能開拓を目的とする。有機合成化学を専門とする研究者と解析法を専門とする研究者が協力して、ナノ単一サイズ有機分子の合成法と合成した分子の構造決定法を開拓する。また、合成し構造を明らかにした化合物を、様々な分野の研究者に機能探索・解明の研究材料として供給する。これらの研究を通して、新しい学術的知見を得、科学発展への寄与に努めたい。

母体となる組織

機能性ナノ単一サイズ有機分子創製センター

研究プロジェクト名

機能性ナノ単一サイズ有機分子創製研究

代表者

山田 英俊(理工学研究科 教授)

研究者

羽村 季之(理工学研究科 教授)
田辺 陽 (理工学研究科 教授)
畠山 琢次(理工学研究科 准教授)
山口 宏 (理工学研究科 教授)
金子 忠昭(理工学研究科 教授)
栗田 厚 (理工学研究科 教授)
大谷 清 (理工学研究科 教授)
中山 健一(山形大学大学院理工学研究科 准教授)
Dulce PAPY-Garcia(Universite Paris XII Profeßor)
伊東 秀之(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 准教授)
島本 啓子(サントリー生命科学財団生物有機科学研究所 研究員)

研究目的・特色

本研究の目的は、新しい機能の宝庫と目されるナノ単一サイズ有機分子の合成方法論の開発、測定・解析法の開発、及び、機能開拓を行うことであり、以下のような特色がある。

(1) 独自性=ナノ単一サイズ有機分子は、合成法の欠如のため構造解析や機能評価を適切に行う手法が確立されていない、未開拓の分野である。

(2) 柔軟性=有機合成化学が基軸であるため、柔軟な分子設計と構築が可能である。

(3) 二つの視座=ナノ単一サイズ有機分子の設計には、有機合成班メンバーの実績のある分野、すなわち天然有機分子および人工分子であるπ電子系分子をモチーフとする。

 ①天然有機分子をモチーフ:柔軟な糖の構造や剛直なポリフェノールの構造を分子設計に活か
  し、生理学的機能の発現を目指す。

 ②人工分子をモチーフ:多様なπ電子系分子の特徴的な電子構造を活かし、有機太陽電池・EL
  をはじめ、有機フォトニクス・エレクトロニクス材料の創製を目指す。
(4) 機能探索=ナノ単一サイズ有機分子に新機能を付与する「分子進化」を並行する。分子進化は、構造解析班・機能探索班からのフィードバックを基にした分子再設計、合成、構造解析・機能探索の繰り返しである。探索された機能によって進化の方向に柔軟性を持たせる。

期待される効果

本研究により以下の5つの効果が期待される。

(1)構築が難しかったナノサイズの有機分子を、三次元空間を精密に制御して合成できる革新的な有機合成方法論の開発。

(2)小分子や高分子にない、ナノ単一サイズ有機分子独自の大きさと形状に基づく新しい物性と新機能発現。

(3)複数の機能を同一分子内に付与したナノ単一サイズ有機分子の合理的な設計指針の獲得とハイブリッド材料の創製。

(4)ナノサイズ空間の立体構造解明に関する精密解析法の開発。

(5)有機合成、構造解析、機能探索の研究サイクル循環による、ナノ単一サイズ有機分子の進化と機能発現の理解に基づく学術的価値の創出。また、関連する研究領域への波及効果。

生命環境科学研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2010年度~2014年度

当該研究センターにおいては、脳の発達に影響を及ぼすような環境因子の検出法の開発及びそれらが生体に及ぼす影響の分子メカニズムを解明することを目指す。これまで、環境化学物質が生物の繁殖などに影響を及ぼすことが明らかにされ、それらは内分泌かく乱化学物質とよばれている。本研究においては、これらのいわゆる化学物質ストレスが発生過程に於いて、脳の形成に影響を与えている可能性を検討するものである。

母体となる組織

生命環境科学研究センター

研究プロジェクト名

脳神経系発達に影響を及ぼす環境化学物質及びガス因子の作用機序解明とそのセンシング技術の開発

代表者

今岡 進(理工学研究科 教授)

研究者

関  由行(理工学研究科 専任講師)
工藤 卓 (理工学研究科 准教授)
勝村 成雄(理工学研究科 教授)
藤原 伸介(理工学研究科 教授)
松田 祐介(理工学研究科 教授)
佐藤 英俊(理工学研究科 准教授)
田中 克典(理工学研究科 教授)
西脇 清二(理工学研究科 教授)
岡田 孝 (理工学研究科 教授)
榎本 秀樹(独)理化学研究所 チームリーダー)
深瀬 浩一(大阪大学大学院理学研究科 教授)
太田 茂 (広島大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)
Toyoko Hiroi(米国 ジョンズ・ホプキンス大学 研究員)
Douglas Borchman(米国 ルイビル大学 教授)

研究目的・特色

 

胎児期及び幼児期は、環境からの化学物質の影響に対して極めて脆弱な時期である。特に、脳神経系への影響は重大で、明白な精神発達遅延などの症状が現れなくても、脳の機能のほんのわずかな変化で、社会活動や経済活動に影響を及ぼすかもしれない。例えば、最近の子供や若者の異常行動による殺人や反社会的行動が増えているが、これは必ずしも社会のシステムの問題ばかりではないと考えられる。実際に動物実験において、妊娠マウスに環境化学物質を暴露すると生まれてきた仔に多動などの行動異常が現れることが報告されている。しかし、これまでの研究においては、この事実を証明できるだけの成果の蓄積がなく、またこれらの異常を検出するための評価系も十分に確立していない。当該研究において、脳神経系に対して化学物質の影響を検出できる新しい評価系を開発し、化学物質の影響についてそのリスクを予測する系を作ることを目的とする。

期待される効果

日本においてここ数年来、自閉症、学習障害、多動症などの障害児の増加が著しく、社会問題となりつつあるがその原因は明らかでない。一方、社会が高齢化して、痴呆症など脳機能障害を持つ老人も増えている。現在、この原因を究明すべく調査が開始されたが、可能性の一つとして環境化学物質による汚染が考えられている。当該研究は、この社会問題を解決する糸口になると考えている。医学部等において同様の検討はなされつつあるが、本研究においては、理工学部の特徴を生かして、生物学的な取り組みと工学的手法を用いてそれを検出する方法論の開発を行うという特徴を有している。これらの問題が、環境化学物質によってどのような機構で引き起こされているのかを解明することは、これらの社会問題を解決する上で極めて有効なアプローチとなる。将来を担う子供を心身ともに健全に育てることは、教育、医療、福祉すべてに渡って大きく貢献できると考えている。

環境順応型ネットワーク研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2010年度~2014年度

本プロジェクトの目的は、通信が寸断されるような劣通信環境でも動作する情報通信ネットワーク基盤に関する研究を行います。
現在の情報通信ネットワークは広帯域・高機能化を目指しして技術革新が行われていますが、震災時などの劣通信環境においてはその機能がほとんど発揮できないことが予想されます。本研究では複数の通信端末が自律分散的に通信を行うアドホックネットワークを基盤として、物理層から応用層に至る総合的な通信方式の開発とその評価を行います。本研究の成果は、既存のネットワーク基盤が十分に整備されていない中山間地域や発展途上国での簡易通信基盤、動植物の生態調査、IT農業、分散型監視カメラ、マルチロボットなどへの応用が期待されます。

母体となる組織

環境順応型ネットワーク研究センター

研究プロジェクト名

劣通信環境下でのアドホック情報通信ネットワーク基盤に関する研究

代表者

北村 泰彦(理工学研究科 教授)

研究者

多賀 登喜雄(理工学研究科 教授)
巳波 弘佳 (理工学研究科 准教授)
井坂 元彦 (理工学研究科 准教授)
岡田 孝  (理工学研究科 教授)
石浦 菜岐佐(理工学研究科 教授)
高橋 和子 (理工学研究科 教授)
早藤 貴範 (理工学研究科 教授)
西谷 滋人 (理工学研究科 教授)

研究目的・特色

現在の情報通信ネットワークは広帯域・高機能化を目指して、技術革新が行われている。その一方で、震災などの災害時にはネットワークが寸断されたり、輻輳するなど、平常時に想定されている高度な機能がほとんど発揮できないことが予想される。本プロジェクトでは、災害時などの劣通信環境下においても機能する新たなアドホック情報通信ネットワーク基盤に関する研究として、物理層から応用層に至る総合的な通信方式の開発とその評価を行う。物理層では劣通信環境下でも最低限の通信を行うために必要なアドホック無線通信網の構成法、データリンク層では通信データの消失に対処する高信頼符号化手法、ネットワーク・トランスポート層では断続的な通信に対処するデータ蓄積交換方式の研究を行う。応用層では、劣通信環境下であっても必要な情報を、利用者の間で安全に効率よく交換するためのセキュリティを考慮した自律分散的情報配送機構を研究する。アドホック無線通信網プロトタイプの開発とともに、災害時のシミュレーション実験を通して、本ネットワーク基盤の有効性を実証する。

期待される効果

本研究は、従来の高速通信ネットワークの利用が困難な状況下でも機能する劣環境情報通信ネットワーク基盤の開発を研究の目標としている。本研究成果の主な応用分野は震災などの災害時における情報通信ネットワークである。災害時には、人々は道路網等の寸断などにより物理的に孤立するだけでなく、通信網の寸断などにより必要な情報が行き渡らず、さらに不安や危険が増加するという問題がある。本研究の成果により、電池などの低電力で動作する無線通信装置をネットワーク化することが可能になり、被災地における人々の情報交換を支援できることが期待される。このような劣環境ネットワーク基盤は震災時だけでなく、既存のネットワーク基盤が十分に整備されていない、中山間地域や発展途上国の簡易通信基盤としても機能する。また一種のセンサネットワークとして、動植物の生態調査、IT農業、分散型監視カメラ、マルチロボット等にも応用することができる。本研究は広帯域・高性能ネットワークを目指す従来のアプローチと異なり、先導的な研究成果を生み出すことが期待される。

錯体分子素子研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2010年度~2014年度

錯体分子素子研究センターは、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業のオープン・リサーチ・センター整備事業採択(平成16年度~20年度)に伴い、本理工学研究科に設置された同研究センターを母体としている。本研究センターでは、無機化合物と有機化合物の複合体である金属錯体を錯体分子素子として捉え、磁気・分光・液晶・吸着などの金属錯体に特有の機能性を追究して来たが、戦略的研究基盤を構築するにあたり、錯体分子が持つ磁気特性に焦点を当て、これまでのメンバーに加えて金属錯体の磁性理論や有機合成に強い新たなメンバーが参画し、研究推進のパワーアップを図っている。

母体となる組織

錯体分子素子研究センター

研究プロジェクト名

新規分子磁性化合物の探索

代表者

御厨 正博(理工学研究科 教授)

研究者

矢ヶ崎 篤(理工学研究科 教授)
山田 英俊(理工学研究科 教授)
壷井 基裕(理工学研究科 准教授)
田辺 陽 (理工学研究科 教授)
小笠原一禎(理工学研究科 教授)
羽村 季之(理工学研究科 准教授)
勝村 成雄(理工学研究科 教授)
半田 真 (島根大学 総合理工学部 教授)
安里 英治(琉球大学 理学部 教授)
崎山 博史(山形大学 理学部 准教授)
小寺 孝範(花王株式会社 主任研究員)
Dominique Luneau(フランス リヨン大学 教授)

研究目的・特色

本プロジェクトでは、化学者の立場から磁性材料として有望な新規化合物を見出すために、広い視野で新しい分子磁性化合物を探索し、新規磁性材料化合物を提言することを目的とする。これまで磁性材料と言えば磁鉄鉱関連の鉄酸化物や希土類合金等が知られて来たが、近年、磁性分子を三次元空間に配列・集積化することにより鉄酸化物等と同様の磁力を持つ分子磁性化合物を作り出す試みがなされている。分子磁性化合物は分子設計による磁気特性の制御が可能であるため、光スイッチング等の新機能を組み込むことができる等、従来の磁性材料にはない魅力的な利点が期待されているが、極低温でしか磁石として振る舞わない等の多くの課題も残されており、そのような問題点を克服した新規分子磁性化合物の開発が望まれる。本研究では無機化学から有機化学に至るまで広範囲の合成化学者が参加、結集することによってこれらの課題解決へ向けたブレークスルーとなるような分子磁性化合物の発見を目指し、化学の発展に寄与したい。

期待される効果

本研究の遂行により新規分子磁性化合物が次々と合成され、従来の分子磁性化合物が克服できなかった磁気転移温度の向上等磁性材料への問題点克服の糸口が見出されることや学術的に価値のある新規化合物の創出が期待される。また、理論的にも興味がもたれるスピングラス現象等の新しい基礎的情報やスイッチング機能を有する磁性材料、超高密度磁気メモリー材料、量子コンピューターデバイス等の応用的方面へ向けた成果も期待される。

 

ルテニウム二核をベースとした鎖状錯体の単結晶。磁気特性と液晶性を合わせ持つ。

 

錯体分子は、磁石に似たような保持力を示し、分子素子としての可能性を持っている。

 

スピン平衡現象は、錯体分子に特徴的な磁気特性のひとつであり、磁気スイッチングなどの応用が期待される。

単一分子振動分光研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2009年度〜2013年度

本プロジェクトの目的は、表面増強ラマン散乱(Surface-enhanced Raman Scattering; SERS)のメカニズムを明らかにすること、また、それに基づいて超高感度生体分光分析法を創案することにあります。本研究は、近年レーザー光源、光検出器などの進歩により、目覚ましい発展を遂げつつある光物理化学を中心とし、物理化学、ナノサイエンス、生命科学、分光学、分析化学といった多分野にまたがる学際的研究といえます。また、本プロジェクトの研究で注目されるもう1つの点は、基礎研究(表面増強ラマン散乱のメカニズム解明)から応用研究(生体物質の超高感度分析)までを含んでおり、境界領域の発展にも貢献できる可能性を秘めているということです。

母体となる組織

単一分子振動分光研究センター

研究プロジェクト名

表面増強ラマン散乱のメカニズム解明とそれに基づく超高感度生体分光分析

代表者

尾崎 幸洋(理工学研究科 教授)

研究者

玉井 尚登(理工学研究科 教授)
田辺 陽 (理工学研究科 教授)
小笠原一禎(理工学研究科 教授)
金子 忠昭(理工学研究科 教授)
佐藤 英俊(理工学研究科 准教授)
坂上 潔 (理工学研究科 准教授)
羽村 季之(理工学研究科 准教授)
山田 淳 (九州大学大学院 工学研究院 教授)
伊藤 民武((独)産業技術総合研究所 健康工学研究センター 研究員)
Zhong-Qun Tian(中国Xiamen大学 化学科 教授)
Kim Kwan (韓国 ソウル大学 化学科 教授)
Martin Moskovits(米国 カリフォルニア大学 化学科 教授)

研究目的・特色

 

最近、表面増強ラマン散乱分光法が非常な注目を集めている。その理由は3つある。1つ目は、表面増強ラマン散乱(Surface-enhanced Raman Scattering; SERS)を用いると単一分子からも振動スペクトルの測定が可能なこと。2つ目は、超高感度な分析法を構築する事が期待できること。3つ目は、ナノサイエンス・ナノテクノロジーの強力な評価手法になりうることである。本研究の目的は、このSERSのメカニズムを明らかにすることと、それに基づいて超高感度生体分光分析法を創案することである。本研究の意義は、単一分子から振動スペクトル測定が可能であるという基礎研究において極めて重要な現象の解明に貢献できるということと、これまでにない選択性に優れた非破壊の超高感度生体分光分析システムを構築することにある。

期待される効果

1)SERSのメカニズムが解明されることにより、単一分子のスペクトル測定が容易になり、それによって単一分子の構造やダイナミクス等を研究する新しい手法が発展する可能性がある。

2)SERSを用いたクリーンな超高感度生体分光分析が可能となり、これまでに無い新しいタイプの生体分光分析法が出現し、生命科学分野において用いられる可能性がある。

3)SERS法はナノテクノロジーにおけるナノマテリアルの構造物性評価法、イメージング法として極めて有力であるが、本研究の進歩により、それが実際に使える可能性が出てくる。

パイスター分子制御研究センター

私立大学戦略的研究基盤形成支援事業:2015年度〜2019年度

本プロジェクトは光活性化を特徴とする未来型の物質変換技術を創出するため、「合成プロセス開拓・励起構造解析・機能性材料創製」の三分野を基幹研究として位置づけ、分野横断的な研究組織を構築することによって、上にあげた本学の特長・特色を相乗的に強化するものである。特に、三つの基幹研究に共通の課題である「パイスター分子制御」のため、トップレベルの学内の人的資産を最大限に活かし、これをダイナミックに相互交流させ、最先端の知識と技術の交換に基づく飛躍的な進歩をはかることによって、世界をリードする未来型の物質変換研究拠点を形成しようとするものである。

母体となる組織

パイスター分子制御研究センター

研究プロジェクト名

パイスター分子制御による未来型物質変換研究拠点

代表者

羽村 季之(理工学研究科 教授)

研究者

増尾 貞弘 (理工学研究科 教授)
森崎 泰弘 (理工学研究科 教授)
白川 英二 (理工学研究科 教授)
田和 圭子 (理工学研究科 教授)
小笠原 一禎(理工学研究科 教授)
関 修平  (大阪大学大学院工学研究科・教授)
河合 壯  (奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科・教授)
中山 健一 (山形大学大学院理工学研究科・准教授)
小畠 功久 (キシダ化学株式会社・執行役員、生産部長)

研究目的・特色

地球環境問題が顕在化している現代社会では、有限な化石燃料を用いた熱エネルギーや電気エネルギーによる“熱的”な分子活性化に依存した物質生産に代わり、すべての合成反応が常温・常圧で起こるような新たな分子活性化に基づく究極の合成プロセスの開拓が必要である。本研究では、太陽光を中心とする“光”活性化に基づいてパイスター分子(π*分子)を適切に発生させ、これを分子構造構築の切り札とする未来型の分子変換手法の開発を目的とする。これまで光を用いた合成法は種々開発されてきたが、そのほとんどが単純な分子構造の利用に終始し、汎用性の高い変換反応は熱反応に比べて圧倒的に少ない。これは、光反応の開発が反応様式の開拓に力点が置かれ、合成的有用性に関する視点に乏しいところに本質的な問題がある。高ひずみ構造の構築など本来、光活性化が得意とする素過程を化学エネルギーとして取り出すことができれば、これまで困難であった分子構造の構築を可能にする独創的な分子変換手法の開発が期待できる。合成プロセス開発・励起構造解析・機能性材料創製の分野で世界をリードする研究者がパイスター分子制御のために強力に相互交流し、研究拠点を形成することによって、多様な分子構造の創出と新機能の創発が可能となる。本研究の推進によって得られる知見は学術的に新しく、今後の物質科学の発展に大きく寄与するなど、その意義は極めて大きい。

期待される効果

光活性化によるパイスター分子の制御を基盤として熱的プロセスでは難しい、「化学エネルギー貯蔵」や「化学エネルギー伝搬」を駆使した独創的な分子変換法が編み出される。すべての合成反応が “常温・常圧”で進行するような究極の合成プロセスの開拓や通常ではアプローチが困難な分子構造の構築を通じて、新物性・新機能の開拓に繋がる様々なπ電子系分子供給の道が拓ける。また、分野横断型の材料創製研究により、電気的・光学的に優れた機能性材料創製が可能になる。具体的には、(1)太陽光エネルギーの化学エネルギーへの直接変換システムの開拓、(2)マルチ触媒システムの構築と自在分子変換法の開発、(3)励起構造解析技術の進歩と新しい分光法の開拓、(4)多様な分子構造の創出に基づく機能探索技術の革新、(5)励起構造や物質機能の理論的予測のための計算精度の向上や新しい計算手法の開拓、(6)高効率有機太陽電池、有機トランジスター、有機発光材料の創製、(7)企業との出口を見据えた連携による実用性を兼ね備えた物質科学の創発、である。

研究成果報告書PDFファイル