2017.11.22.
「挑戦することを恐れずに」/ヴルフ元ドイツ大統領が講演

本学名誉博士号を授与

ドイツ連邦共和国元大統領 クリスティアン・ヴルフ氏

ドイツ連邦共和国元大統領 クリスティアン・ヴルフ氏

 関西学院大学は11月20日、ドイツ連邦共和国元大統領のクリスティアン・ヴルフ氏による講演会「激動の時代のドイツ・欧州情勢」を、西宮上ケ原キャンパスの関西学院会館で開きました。教職員と学生約300人が熱心に耳を傾けるなか、ヴルフ元大統領は、ナショナリズムや排他主義が台頭する国際情勢を引き合いに出し、「流行を追いかけ、迎合するのではなく、真実を追求してほしい。挑戦することを恐れないでください」と語りかけました。

講演するクリスティアン・ヴルフ氏

講演するクリスティアン・ヴルフ氏

 ヴルフ元大統領は最初に、これまでの日本との交流を振り返りながら、「女性と接する機会が少なかった。日本の社会、特に財界や政界の最上層部で男性が支配的だからではないかと推察する」とユーモアを交えて話したあと、日本とドイツは「連携関係を築き、友情を育まなければならない。それは皆さんの役割」と期待を込めました。

 そのうえで、世界には「変化の風」が吹いているとし、イランの核合意やユネスコからの米国の脱退、英国のEU離脱など情勢の変化やその原因について分析。「世界は一層の国際協力を必要としている」と訴え、「他者の見方に寄り添ってみる共感(エンパシー)が必要で、豊かさを最も享受している先進国の私たちが率先して行動することが大切。国際問題の解決には多くの国が関与し合意形成していくことしか解決策はありません」と強調しました。

学生からの質問に答えるヴルフ氏

学生からの質問に答えるヴルフ氏

 これからの国際社会で重要なこととしては、「民族の多様性、宗教の多様性、文化の多様性を受け入れる社会を志向すること。差異と多様性に対応するには、開かれた受容性と寛容さが求められる」と説明。「地球温暖化の進行を止め、生物の多様性を維持し、森林の伐採を持続可能な林業に移行させていかなければならない」と述べました。さらに、自身の親の世代は二つの世界大戦を経験し、今以上に深刻な課題に取り組んだこと、欧州共同体を推し進めた偉大な先人達は国民に批判されても、正しいと思ったことを決断し実行したことを紹介。「若いみなさんにも、同じように断固として勇気をもって進んでほしい。最初は気に入られなくても、本当に重要なことを主張してほしい」と訴えました。

 その後、国際学部、総合政策学部の学生らから「自国第一主義、右傾化が進むなかで、ドイツの果たすべき役割は?」「難民を受け入れることの利点と課題、受け入れた難民に期待することは?」といった質問が出されました。これに対し、ヴルフ氏は自らの考えを交えて答えながら、「それぞれの国で独自の文化やアイデンティティがなくなることを心配している。独自性を保ちながら、他国のいいところは受け入れ、よいものにしていくことが大事だ」と話しました。 講演会の前には、これまでの政治家としての活動に加え、日本とドイツの賢人会議である「日独フォーラム」の委員で、知日家として日独関係の強化に尽くした業績等を鑑み、ヴルフ元大統領に、村田治学長から本学名誉博士(政治学)の学位が授与されました。

村田治学長から名誉博士の学位を授与されるヴルフ氏

村田治学長から名誉博士の学位を授与されるヴルフ氏

◆クリスティアン・ヴルフ氏

1959年生まれ。1986年オスナブリュック市会議員、1990年弁護士、1994~2003年ニーダーザクセン州議会議員、2003~10年同州首相、2010~12年ドイツ連邦共和国大統領。現在、日独フォーラム委員、欧州北アフリカ諸国連合(EMA)名誉総裁。
州首相時代には、第一次世界大戦時にドイツ人の俘虜収容所があった徳島県との姉妹交流を活発に展開。2011年の東日本大震災時にはドイツ国民に募金を率先して呼びかけ、日独修好150周年記念で同年10月に日本を公式訪問した際には福島県を訪問し、被災者を慰労した。