2017.11.10.
中央銀行の使命と役割を解説/黒田東彦・日本銀行総裁が講演

 関西学院大学は11月7日、黒田東彦(くろだ・はるひこ)・日本銀行総裁による講演会「中央銀行を巡る『法と経済学』」を、西宮上ケ原キャンパスの関学会館で開きました。金融政策を決定する日本銀行のトップの講演に、学生や教職員ら約550人が集まり、熱心に聴き入りました。
 黒田総裁はまず、日本銀行創立以来の歴史を踏まえながら、現在の日本銀行法が定める「発券銀行」「銀行の銀行」「政府の銀行」という三つの役割について説明しました。そのうえで、金融緩和策の中で議論になっている国債の引き受けに関して、「財政法で禁じられている。市中から国債を買うことはあるが、直接引き受けることはない。国に対しては、多様な金融サービスを提供しているが、財政ファイナンスは決してしない」と強調。為替介入もあくまで国の代理人として財務省の指示に基づいて行っていることを説明し、「こうした役割を果たす中で、金融の安定、物価の安定を図っている」と話しました。

 2013年から続ける大規模な金融緩和策については、「物価を2%上げること自体が最終的な目的ではなく、経済が安定的に成長し、それに伴って賃金や物価が安定的に上がっていくことを狙っている」と説明。「デフレが続くもとで、経済が健全に発展することはない。物価の安定を通じ、国民経済の健全な発展に資するということを考えている」と述べました。一方で、金融政策を決める政策委員会についても詳しく解説。政府から独立した合議体であることを強調し、「政府と十分連絡を密にし、意思疎通を図りながらも、政府から政策を指示・命令されることはない」と説明しました。

 講演のあと、経済学部の学生との質疑応答があり、「国民の理解を得るために、どんな工夫をしているか」という質問に、黒田総裁は「現在行っている金融政策は伝統的な金融論の教科書が想定していないものであり、簡単に説明することは難しいが、今回のような大学や経済団体での講演、地方での会合など、あらゆるチャネルを通じて、何をしているか、どういう意味があるのか、どんな効果や副作用があるのかを丁寧に伝えるよう努めている」と答えました。また、地域金融機関の再編などについての質問には、人口減少・高齢化など地方の現実をふまえ、「ITなど新しい技術を使った効率化と、顧客とのリレーションシップなど、地域の金融機関ならではの強み・役割の強化の両方が大事だ」と述べました。

《略歴》
黒田東彦(くろだ・はるひこ)氏
福岡県出身。1967年大蔵省入省。国際金融局長、国際局長、財務官、アジア開発銀行総裁等を歴任し、2013年3月から現職。