2025.07.15.
「インドの子どもたちの笑顔と健康を守るクリーン・エア・プロジェクト(予備的共同研究)」(さくらサイエンスプログラム)を実施
日本とインドの学生と研究者が協働で大気汚染問題に取り組む
関西学院大学(兵庫県西宮市、学長:森康俊)の田中裕久・工学部教授は「インドの子どもたちの笑顔と健康を守るクリーン・エア・プロジェクト(予備的共同研究)」をテーマとするプログラムを、7月21日(月)から8月1日(金)にかけ、神戸三田キャンパスなどで実施します。田中教授は触媒を用いた自動車排出ガス浄化に関する研究を行っており、本プログラムではインドにおける本学協定大学であるアミティ大学およびビヤニ ガールズ カレッジから学生7名と教員1名を招へいし、田中研究室の学生約5名とともに、インドの大気汚染の原因であるPM2.5の分析方法を実習し、浮遊粒子状物質(PM)発生原因を産業別に分類・特定する手法を修得します。加えて、自動車PM発生メカニズムを学び、技術対策として大気中のPMを走行中に燃やして低減する「吸った空気よりも綺麗な排ガス」を実現する自動車触媒の調製方法・評価方法を実習により修得します。
なお、本プログラムは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が実施する「国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)」の共同研究活動コース(Bコース)に採択されています。
プログラムの詳細
- テーマ:
- インドの子どもたちの笑顔と健康を守るクリーン・エア・プロジェクト(予備的共同研究)
- 期間 :
- 2025年7月21日(月)~8月1日(金) ※12日間
- 場所 :
- 関西学院大学 神戸三田キャンパス(兵庫県三田市学園上ケ原1番)
株式会社堀場製作所 びわこ工場(滋賀県大津市苗鹿1丁目15番1号)
ダイハツ工業株式会社 本社(池田)工場(大阪府池田市ダイハツ町1番1号) - 参加者:
- アミティ大学ノイダ校の学生2名
ビヤニ ガールズ カレッジの学生5名、教員1名
関西学院大学 田中裕久教授および研究室所属の学生約5名 - 内容 :
- 座学で理論を学び、実際に触媒を試作し、評価解析装置を操作し、自動車メーカーや分析機器メーカーで実技を体験するなど、理論・実験・解析が三位一体となったプログラムを用意しています。
まずは、インドにおける大気汚染の現状を分析するスキルを身につけるため、PM2.5の分析技術を実習し、PM発生原因を産業別に分類、特定するための手法を修得します。
そして、大気汚染問題への対策技術として大気中のPMを走行中に燃やして低減する「吸った空気よりも綺麗な排ガス」を実現する排出ガス浄化触媒を、参加者自らが試作調製することにより、ナノテクノロジーを具現化する手法を体験します。
さらに、ナノ粒子物性評価から触媒活性評価まで一連の工程を修得します。
そのほか、堀場製作所 びわこ工場を訪問し、X線蛍光分析とβ線吸収法を活用したPM分析の実習を行います。
また、ダイハツ工業 本社工場にて実エンジンや車両を使った法的な排出ガス試験(TRIAS)に準じたエミッション計測試験にも立ち会います。
これらのプログラムにより、大気汚染源を低減する触媒の試作から、エンジンでの評価、車両エミッション試験、環境中のPM分析といった日本の進んだ環境技術を修得し、インド現地で実施を予定しているフィールドワーク調査に必要な知識と技能を身につけます。
なお、本プログラムは今後の国際共同研究につなげるための予備的共同研究として行われます。
※プログラムの一部紹介
【2日目:7月22日(火)午後】
内容:ナノ触媒づくり。貴金属ナノ粒子を高分散する手法を実習します。
場所:関西学院大学 神戸三田キャンパス
【3日目:7月23日(水)午後】
内容:触媒物性評価の実験。試作した触媒の貴金属粒子径をCOパルス法で、また結晶構造をXRD法 で測定します。
場所:関西学院大学 神戸三田キャンパス
【4-5日目:7月24日(木)午前・午後、25日(金)午前・午後】
内容:大気汚染源となるPMの分析技術として、その量を測定するβ線吸収方式分析法、元素を明らかにするエネルギー分散型蛍光X線分析法などを実習します。
場所:株式会社堀場製作所 びわこ工場
【9日目:7月29日(火)午前・午後】
内容:自動車研究施設を訪問。車両を使った自動車排出ガス試験(TRIAS)、エンジンを使った触媒性能試験に立ち合い、最先端の研究現場を見学します。
場所:ダイハツ工業株式会社 本社(池田)工場
【10日目:7月30日(水)午前・午後】
内容:触媒活性測定の実験。試作した粉体触媒の低温活性をラボ評価装置にて測定し、実験データの解析を行います。
場所:関西学院大学 神戸三田キャンパス
【11日目:7月31日(木)午後】
内容:成果発表会。インドからの学生らが本プログラムでの学びを発表します。
場所:関西学院大学 神戸三田キャンパス
プログラム実施に至る背景
関西学院大学は2014年JST「さくらサイエンスプログラム」の1回目から科学技術体験コース(A コース)に、毎年(コロナ禍を除く)採択され、海外大学から学生を招へいし、科学技術体験交流を行ってきました。
長年にわたり本学と協定関係にあるアミティ大学がインドから初参加したのが2016年、そしてビヤニ ガールズ カレッジは2022年に参加し、以降、大学間の友好を深めてきました。2024年12月、田中教授は、インドのラージャスターン州ジャイプールで開催された印日交流の国際会議に参加した際、現地の大気汚染の深刻さを体験。田中教授は自動車排出ガス浄化を専門とすることから調査を開始しました。
ユニセフによる報告書「世界の大気の状態(State of Global Air = SoGA)第5版」では、大気汚染は世界の死亡リスク要因の第2位であり、特に5歳以下の子どもたちへの健康被害が深刻であることが報告されています。
また、インドでは大気汚染が酷い場合、小学校が登校禁止になるなど教育にも支障が出ており、次世代を支える優秀な人材の育成という観点からも早急な解決が望まれることから、田中教授はジャイプールに拠点を置くビヤニ ガールズ カレッジの研究開発ディレクターであるマニシュ・ビヤニ教授(現、関西学院大学 教育特別任期制教授)に共同研究を提案しました。
具体的な研究テーマについては、教育・人材育成を専門とするスミリティ・ティワリ博士と双方の思いを語り合い、「インドの子どもたちの笑顔と健康を守るクリーン・エア・プロジェクト」として、印日共同プロジェクトを立ち上げるべく準備活動を開始しました。
その後、インド政府・環境森林気候変動省大臣、道路交通高速道省副長官・チーフエンジニア、インド社会科学研究評議会シニアコンサルタント、ラージャスターン州知事とも面談して意見交換を行い、共同研究の実現に向けて活動を進めてきました。
今後の展望
さくらサイエンスプログラム終了後、ジャイプールにおいて、関西学院大学、アミティ大学、ビヤニ ガールズ カレッジが共同でフィールドワーク調査を実施する予定です。調査では、実際に大気中のPM2.5を収集し、蛍光X線法を用いて粒子中に含まれる金属成分などを分析し、発生源を産業別に分類した上で、排出ガス浄化触媒を切り口とする本プロジェクトの寄与度を明らかにします。その後、2026年度から「インドの子どもたちの笑顔と健康を守るクリーン・エア・プロジェクト」の国際共同研究を開始することを計画しています。共同研究では、インドにおける幼児の健康保護および大気品質改善につながる政策立案に資する科学的な提案を行うことを最終目標とします。
国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)について

大学などが科学技術振興機構(JST)に申請し採択されて、実施されるプログラム。新たな時代の社会を担う、世界の優れた人材を日本に短期間招き、日本の最先端な科学技術や文化に触れていただく。産学官の緊密な連携により、諸外国・地域の青少年の我が国への招へい等を通じて、我が国の青少年との科学技術分野の交流を行う事業。