2024.10.08.
松田祐介・生命環境学部教授らの研究論文が科学学術雑誌Cellに掲載

松田祐介・生命環境学部教授らの研究グループによる論文が、日本時間の10月2日、科学学術雑誌Cellにオンライン掲載されました。CellはCell Press社が刊行する国際誌で、Nature、Scienceとともに世界三大科学誌に数えられており、ライフサイエンス分野における世界最高峰の学術雑誌です。

論文タイトルは「Diatom pyrenoids are encased in a protein shell that enables efficient CO2 fixation(珪藻のピレノイドは高効率CO2固定を可能にするタンパク質の殻に覆われている)」。松田教授らは、海洋性珪藻類が行う高効率な光合成反応を可能にする新規タンパク質を発見し、その高効率な二酸化炭素固定を可能とする分子メカニズムを最新のゲノム編集およびクライオ電子顕微鏡技術で解明しました。
このたびの研究成果は地球全体のCO2固定反応の理解に大きく貢献するもので、将来の海洋環境予測ひいては地球レベルの環境予測にも分子のレベルから重要な指標を与えると考えられます。また、微細藻類はバイオエネルギー源としても有望で、海水と太陽光による高効率な珪藻バイオエネルギー生産に向けた、次世代の葉緑体エンジニアリングに対し、新しい方向性を与えることが期待されます。

松田教授のコメント:

珪藻は地球上のCO2固定の20%を担う微生物です。その葉緑体は中心部にピレノイドという独自の構造を持ちます。ピレノイドはCO2固定化酵素を凝集させて効率的にCO2固定する場所ですが、細胞を潰すと崩壊してしまいます。私たちは2016年に特殊な人工アミノ酸を使って崩壊を防ぐことに成功し、ピレノイドを取り囲む殻(Pyrenoid+Shell=PyShell)を発見しました。その後、クライオ電子顕微鏡とゲノム編集技術を利用して、PyShellがピレノイド形成に必須で、海洋の光合成を支えるタンパク質であることを発見しました。
長い時間を要しましたが、この独自の成果は最高の形で結実し、感無量です。今後はピレノイド形成過程を完全に解明し、海の葉緑体の本質に迫りたいと考えています。

【論文情報】
著者:Ginga Shimakawa,†, Manon Demulder,†, Serena Flori,†, Akihiro Kawamoto,†, Yoshinori Tsuji, Hermanus Nawaly, Atsuko Tanaka, Rei Tohda, Tadayoshi Ota, Hiroaki Matsui, Natsumi Morishima, Ryosuke Okubo, Wojciech Wietrzynski, Lorenz Lamm, Ricardo D. Righetto, Clarisse Uwizeye, Benoit Gallet, Pierre-Henri Jouneau, Christoph Gerle, Genji Kurisu, Giovanni Finazzi, Benjamin D. Engel,*, Yusuke Matsuda,*
†筆頭著者;*責任著者

論文タイトル:Diatom pyrenoids are encased in a protein shell that enables efficient CO2 fixation(珪藻のピレノイドは高効率CO2固定を可能にするタンパク質の殻に覆われている)

掲載ジャーナル:Cell(2024)
DOI:10.1016/j.cell.2024.09.013