2024.06.28.
ヨビノリたくみ氏×生命環境学部トークセッション「地球のスゴい過去と未来~生命の起源に迫る~」を開催しました

6月18日、神戸三田キャンパス(KSC)アカデミックコモンズで、ヨビノリたくみ氏×生命環境学部トークセッション「地球のスゴい過去と未来~生命の起源に迫る~」を開催しました。登壇者は、生命環境学部生物科学科の北條賢 教授(専門:化学生態学)、松田祐介 教授(専門:海洋生命理工学)、鎌田優香 助教(専門:膜タンパク質制御学)、同学部環境応用化学科 壷井基裕 教授(専門:地球物質科学)、そして大学院生時代に大腸菌や酵母菌を研究した経験もある教育系YouTuber ヨビノリたくみ氏の5名。

異なる専門分野の教員が集まり、地球や生物の過去を考察することで、地球の未来について考えることをねらいとしました。会場には約60名の学生が参加し、ヨビノリたくみ氏が登場した際には会場からどよめきが起きました。期待が高まるなか、トークセッションの話題は「地球の過去」へ。それぞれの研究分野を通して、地球や生物のこれまでの歩みが語られました。

トップバッターは、岩石や化石を研究する壷井教授。「地球は46億年前、太陽とほぼ同じタイミングに誕生した。当時の地球はマグマオーシャンと呼ばれるマグマの海で覆われていたため、当時の岩石は残っていない。そこでカギとなるのが隕石。隕石の元となる小惑星も地球や太陽と同じタイミングでできたと考えられるため、隕石を調べれば地球の歴史が分かる。自分の行っている研究は岩石の年代測定で、これも地球の歴史を知る上で大切な研究だ」と話しました。

これに続き、珪藻類をモデルとした海洋光合成とその制御機構の解明を研究課題としている松田教授が「太陽の光を使って、水を分解して電子を取り出し、その電子でエネルギーを作るという酸素発生型の光合成を行うシアノバクテリアが現れたのが、今から約28億年前。そのシアノバクテリアが、アメーバのようなものに食べられて葉緑体となる。これを一次共生と呼び、陸上植物の元となる緑藻や紅藻などができる。さらにそれが別のアメーバのようなものに食べられて、より複雑な葉緑体を作る。これを二次共生と呼び、そのような葉緑体を持つ海洋生物の研究を行っている」と話しました。

「CFTR(嚢胞性線維症膜貫通伝導制御因子)というタンパク質に限って言えば」と切り出したのは、タンパク質の分解について研究する鎌田助教。「機能は弱いものの、このCFTRを持つウミヤツメが4億5万年前から存在していたことが分かっている。このCFTRはヒトも持っているので、私たちの身体にあるタンパク質と似たものが4億5千万年前くらいからあったことになる。このCFTRに着目したきっかけは、CFTRに遺伝子変異が起こると発症する嚢胞性線維症(CF)という疾患。いろいろな種族のCFTRを見比べ、そのタンパク質を構成するアミノ酸がどのように保存されているかなどを調べることは、治療や異常の原因究明の手がかりになる」と話しました。

北條教授が主に研究しているアリが出現したのは、いまから1億5千年~2億年前のこと。「白亜紀の後半になると、ハチの仲間で社会性を持つアリが地球上で繁栄した。つまり、恐竜が闊歩する時代、足元には高度な社会を持つアリがいたことになる。アリは真社会性昆虫で分業が発達していて、繁殖さえも分業する。かれらは子どもの世話をする行動も発達している」と話しました。

トークセッションの後半、舞台は地球の未来へ。ヨビノリたくみ氏から「未来の地球で、自身の研究分野はどのように発達すると思うか」と問われた鎌田助教は、「CFTRが嚢胞性線維症の原因だと分かったのが1990年頃。治療法の開発は進んでいるが、根本的治療法はまだ確立されていない。ただ、昨今では研究技術も革新的に進展し、研究のスピードも上がっている。近い未来、例えば100年のうちに治療法の確立ができれば、幸せな未来につながるのでは」と展望を話しました。

北條教授が注目するのは、やはり昆虫。「真社会性昆虫の社会では、女王が生殖細胞、ワーカーが体細胞のように機能し、コロニーが一つの超個体として振る舞っている。このような社会が複数融合して、地球を覆う一つの生命体になったら面白い。真社会性昆虫が次のイノベーションを起こしてくれるかもしれない」と期待を交えて語りました。松田教授は「現在、地球の二酸化炭素濃度は0.04%。100年後には2、3倍になると予想される。ただ、地球の歴史から見れば、過去の二酸化炭素濃度はもっと高かったため、地球そのものに大きな問題はないと言える。二酸化炭素濃度が高くなることで困るのは人間なので、人間が生きられる範囲の濃度に抑えることが大切だ」と環境問題に言及。

壷井教授は「放射性廃棄物・有害元素などの廃棄物は人類が絶滅したあとでも、環境やその他生物に影響を及ぼしてしまう。その点、自分が研究している岩石や化石は何千万年というスパンで安定して存在してきた。有害なものをそのような岩石に閉じ込めておけば、長期的かつ安全に廃棄できるかもしれない」としたうえで、「生物と地球は共進化して今に至る。だからこそ、歴史を遡る大切さを強調したい。100年後、1000年後、そしてさらにその先の未来を予測することにつながるからだ」と話しました。

その後、数億年のスパンで大陸移動が生じ、約50億年後には太陽の寿命とともに地球が消滅するという話題に入ったタイミングで、トークセッションはタイムアップ。続く質疑応答では、多くの学生が質問をしました。工学部情報工学課程の学生は「コンピューターを用いたアルゴリズムやシミュレーションによって、生物の進化を予測することは可能か」と質問。松田教授は「基本的にできると考えている。現在、工学的アプローチで人工的に生物の細胞や遺伝子を作製する『合成生物学』の勃興期にある。進化の予測もできるし、染色体の化学合成も可能だ。その際に使用する設計システムは、ソフトウェア制作に使用するアルゴリズムを使用している。バクテリアではすでにその研究が進んでおり、論文も出ている」と回答しました。普段なかなか聞くことができない異分野の専門家らの回答に、参加者は熱心に耳を傾けていました。

参加した生命環境学部生命医科学科1年生の学生は「地球という1つのテーマを、異なる専門分野の視点で議論する点がおもしろかった。様々な角度で専門家の話を聞くことができ、楽しかった」と笑顔で話しました。