2024.05.10.
タンパク質分解挙動のリアルタイム追跡技術を開発し、 膜タンパク質の新しい小胞体品質管理の仕組みを解明

関西学院大学生命環境学部の沖米田司教授、愛媛大学プロテオサイエンスセンターの高橋宏隆准教授、マギル大学生理学部のGergely Lukacs教授の研究グループは、小胞体に存在する異常膜タンパク質の分解挙動をリアルタイムに追跡する技術を確立し、“膜タンパク質の新しい品質管理の仕組み”を解明しました。本技術とゲノム編集技術を駆使して、細胞質のユビキチンリガーゼ HERC3 が、小胞体膜に存在するユビキチンリガーゼ RNF5 および RNF185 とは独立して、異常膜タンパク質の分解に関与することを明らかにしました。さらに、無細胞タンパク質合成系を用いた解析により、HERC3は、露出した膜タンパク質の膜貫通領域を選択的に認識することで、異常膜タンパク質の分解を促進することを明らかにしました。本成果は、小胞体のタンパク質品質管理の仕組みを理解するだけでなく、膜タンパク質の構造異常が関与する疾患の発症メカニズムの解明に寄与することが期待されます。

本研究成果は、5月9日に細胞生物学分野において歴史的に権威ある科学雑誌「Journal of Cell Biology」オンライン版に掲載されました。

なお、本研究は科学研究費助成事業(21H00294、22H02576、21H00287)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (JP23fk0210086h0003、21fm0208101j0005、22fm0208101j0006)、公益財団法人武田科学振興財団などの支援を受け実施されました。


ポイント
・発光タグを応用して、異常膜タンパク質の小胞体膜からの引き抜きと、細胞内分解をリアルタイムに追跡する技術を確立しました。
・既知のRNF5およびRNF185とは独立して、細胞質のユビキチンリガーゼHERC3が特定の異常膜タンパク質の分解を促進することを解明しました。
・HERC3は露出した膜貫通領域を認識することで、膜タンパク質の品質管理に寄与します。


研究概要
細胞小器官である小胞体では、主にタンパク質の合成が行われ、フォールディング※1に失敗した異常タンパク質は厳格に分解され、品質管理されます。機能しているタンパク質であっても、部分的な構造異常があると厳格な品質管理により分解されることがあり、これが遺伝性難病などの発症原因となります。小胞体に存在する異常タンパク質は、ユビキチンリガーゼ※2によってユビキチン化され、小胞体から細胞質へ逆輸送された後に分解されます。哺乳類細胞における小胞体タンパク質品質管理に関わるユビキチンリガーゼとして、小胞体膜に存在するRNF5およびRNF185、細胞質に存在するSTUB1など数多くが発見されていますが、これらの機能的な違いについてはあまり理解されていませんでした。また、膜タンパク質がどのように多様なユビキチンリガーゼにより品質管理されているのかも、ほとんど理解されていませんでした。

本研究では、遺伝性難病の一つである嚢胞性線維症の原因となる異常膜タンパク質“CFTR※3変異体”を主要なモデル膜タンパク質として採用し、発光タグを利用することで、小胞体に存在するCFTR変異体の小胞体膜からの引き抜き(逆輸送)と分解をリアルタイムに定量解析する評価系を確立しました。ヒト培養細胞を用いたゲノム編集技術を活用した解析により、既知のRNF5およびRNF185とは独立して、細胞質のユビキチンリガーゼHERC3がCFTR変異体の分解を促進することを発見しました。さらに、無細胞タンパク質合成系を使用した解析により、HERC3が露出したCFTR変異体の膜貫通領域と直接結合することが明らかになりました。これらの結果から、HERC3が膜タンパク質の膜貫通領域の露出部分を監視することで、小胞体タンパク質の品質管理に関与することが明らかにされました。

本成果は、小胞体のタンパク質品質管理の仕組みを理解するだけでなく、嚢胞性線維症などの疾患の発症に膜タンパク質の構造異常が関与するメカニズムの解明と、それに基づいた治療戦略の構築に貢献することが期待されます。

(※1)フォールディング:タンパク質がその生合成中に、特定の立体構造や三次元構造を取りながら折りたたまれるプロセスであり、最終的には特定の機能を果たす形態へと折りたたまれる。
(※2)ユビキチンリガーゼ:特定のタンパク質にユビキチン(Ubiquitin)と呼ばれる小さなタンパク質を共有結合させる酵素。このプロセスはユビキチン化と呼ばれ、主にタンパク質の分解促進に関与する。
(※3)CFTR:Cystic Fibrosis Transmembrane Conductance Regulatorの略。膜タンパク質の一種で、構造異常があると嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis、CF)と呼ばれる遺伝性疾患の原因となる。CFTRは主に気道や消化管などの上皮細胞の細胞膜に発現し、クロライドイオンの膜輸送を調節する機能を持つ。


論文情報
掲載誌:Journal of Cell Biology
論文タイトル:HERC3 facilitates ERAD of select membrane proteins by recognizing membrane-spanning domains
著者:Yuka Kamada, Yuko Ohnishi, Chikako Nakashima, Aika Fujii, Mana Terakawa, Ikuto Hamano, Uta Nakayamada, Saori Katoh, Noriaki Hirata, Hazuki Tateishi, Ryosuke Fukuda, Hirotaka Takahashi, Gergely L. Lukacs, Tsukasa Okiyoneda
DOI:10.1083/jcb.202308003