2024.04.03.
C. elegansにおいて内在性コンドロイチンは寿命と健康寿命を延ばすことを発見!

関西学院大学 生命環境学部生命医科学科 柴田幸政 専任講師らによる共同研究論文「Endogenous chondroitin extends the lifespan and healthspan in C. elegans」がScientific Reports誌に掲載

2024年2月27日(火)、関西学院大学 生命環境学部生命医科学科 柴田幸政 専任講師、愛知医科大学 医学部 武内恒成教授らによる共同研究論文「Endogenous chondroitin extends the lifespan and healthspan in C. elegans」(C. elegansにおいて内在性コンドロイチンは寿命と健康寿命を延ばす)がNature Research社刊行のScientific Reports誌に掲載されました。

本研究成果のポイント

  • 新しく単離に成功したコンドロイチン重合化因子の変異体は、内在性コンドロイチン量が増加するという、これまでにない珍しい特徴を示した。この変異体は、内在性コンドロイチン量が低下する既存のコンドロイチン合成酵素変異体と合わせて、コンドロイチン量を操作する遺伝学的ツールとして使うことができる。
  • 遺伝学的ツールを用いて内在性コンドロイチンの量を操作することで、内在性コンドロイチンの増加が寿命と健康寿命の両方を延ばすことを明らかにした。これは、内在性コンドロイチンによって個体の老化が抑えられていることを発見した最初の例である。

概要

老化に伴うコンドロイチンの減少は、膝の痛みや肌のしわの原因となる。また、線虫C. elegansではコンドロイチンの摂取によって寿命が延びることが知られていた。しかし、個体老化と内在性コンドロイチンの関係は今まで解明されていなかった。本論文では、内在性コンドロイチンを増加させる新たなC. elegans変異体を単離し、内在性コンドロイチンを低下させる既存の変異体を合わせて用いることで、内在性コンドロイチンによる老化抑制効果を初めて明らかにした。内在性コンドロイチンの増加は寿命を延ばすだけでなく、老化に伴う運動機能の低下や、体長の短縮などを遅らせることから、健康寿命も延ばすことが明らかとなった。また、内在性コンドロイチンの低下による健康寿命の短縮は、コンドロイチンの摂取によって抑えられることも示した。

背景・研究成果の内容

コンドロイチンは加齢とともに減少することが知られており、加齢性の膝の痛みに対する薬や、同じく加齢による肌のシワたるみに対するサプリメントとして販売されている。コンドロイチンは、グルクロン酸とNアセチルガラクトサミンが繰り返し繋がった糖であり、コアタンパク質と結合したコンドロイチンプロテオグリカンとして細胞外マトリックスに存在する。細胞外マトリックスが老化に伴いダメージを受けることはよく知られていが、その一方で、これまで老化の研究が盛んに行われてきたにもかかわらず、細胞外マトリックスによる個体老化の制御はほとんど明らかにされていなかった。
コンドロイチンの合成には、コンドロイチン重合化因子とコンドロイチン合成酵素の複合体が関与する。C. elegansのコンドロイチン合成酵素SQV-5の機能低下型変異は、内在性のコンドロイチンを減少させることが知られていたが、内在性のコンドロイチンを増加させる変異はこれまでいずれの動物でも見つかっていなかった。本研究では、遺伝学的なスクリーニングにより、内在性のコンドロイチンを増加させるコンドロイチン重合化因子mig-22k185変異をあたらに単離することに成功した。
内在性コンドロイチン量が野生型の倍に増加するmig-22(k185)変異体では、約30%寿命が伸びていた。また、C. elegansでは老化に伴う運動能力の低下や、周期行動の長期化、体長の短縮が起こるが、mig-22(k185)変異体では老化に伴う変化が起こりにくくなっており、健康寿命が野生型より長くなった。これに対して内在性コンドロイチン量が減少するsqv-5(k175)変異体では、短寿命と早期老化が観察された。この様に、内在性コンドロイチンが増加すると老化が遅くなり、減少すると老化が早くなることから、内在性コンドロイチンに個体の老化を抑える働きがあることが、本研究によってはじめて明らかとなった。
また、本研究では細胞外マトリックスで働くMIG-17 ADAMTSメタロプロテアーゼが、正常な健康寿命に必要であることも見出した。一方、mig-17変異体では寿命の短縮が見られなかった。また、mig-17変異による健康寿命の短縮は、mig-22(k185)変異によって抑圧された。そのため、健康寿命の制御において、コンドロイチンはMIG-17の下流で働いていることも、本論文で報告している。

今後の展開

これまで老化の研究では、C. elegansにおいてはじめて老化に関わる分子機構が明らかになったケースが多くある。コンドロイチンはヒトを含む脊椎動物にも存在することから、今回発見したコンドロイチンによる老化抑制が、脊椎動物でも起こっている可能性が考えられる。その場合、コンドロイチンの下流で働く分子機構も進化的に保存されていると考えられる。
そのため、コンドロイチンの下流で進化的に保存された分子機構が働いていることを示すことができ、さらにその分子機構が脊椎動物でも老化制御に関与していることが解明できた場合には、ヒトを含む脊椎動物でもコンドロイチンによる老化抑制が可能になるとの期待が高まる。

論文情報

著者:Yukimasa Shibata, Yuri Tanaka, Hiroyuki Sasakura, Yuki Morioka, Toshihiro Sassa, Shion Fujii, Kaito Mitsuzumi, Masashi Ikeno, Yukihiko Kubota, Kenji Kimura, Hidenao Toyoda, Kosei Takeuchi & Kiyoji Nishiwaki
論文タイトル:Endogenous chondroitin extends the lifespan and healthspan in C. elegans

掲載ジャーナル:Sci Rep 14, 4813 (2024).
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-55417-7

参考図・補足

用語解説

コンドロイチン:グルクロン酸(GlcA)とNアセチルガラクトサミン(GalNAc)の2糖が反復した構造を持つグリコサミノグリカン(ムコ多糖)の一種。コアタンパク質のセリン残基に共有結合し、コンドロイチンプロテオグリカン(CPG)として細胞外マトリックスに存在する。C. elegansでは24種類のコンドロイチンプロテオグリカンが知られている。細胞接着や、細胞移動、神経繊維の再生阻害に関与することが知られている。
細胞外マトリックス:細胞外の不溶性物質の総称。C. elegansでは表皮の表面を覆うキューティクルと、体内で組織の表面を覆う基底膜の二つがある。基底膜は、IV型コラーゲンとラミニン、フィブリンをはじめとする動的因子からなり、構成因子の多くがヒトでも保存されている。
SQV-5C. elegansのコンドロイチン合成酵素。胚発生に必須である。sqv-5(k175)変異は機能低下型変異であり、成虫まで成長することができる。生殖巣の形態形成にも必要とされる。
MIG-22C. elegansのコンドロイチン重合化因子。脊椎動物ではコンドロイチン重合化因子はコンドロイチン合成酵素と複合体を形成する。これまでmig-22の機能低下型変異は単離されていたが、機能獲得型変異は知られていなかった。本論文で単離した機能獲得型変異はヒトとC.elegansで保存されたアミノ酸残基に変異がある。
C. elegans:モデル動物の一種。雄と雌雄同体があり3日で成虫になるため、遺伝学的解析が容易である。寿命が約一月と短く、哺乳動物と同じくインシュリン経路、mTOR経路、オートファジーなどが老化に関わっており、老化の研究に適している。

C. elegansにおいて内在性コンドロイチンは寿命と健康寿命を延ばすことを発見!
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