2024.01.25.
生田宗一郎・生命環境学部助教と前川和葉さん(理工学研究科 博士課程前期課程 1年生)が第20回ポリアミンと核酸の共進化シンポジウムで「優秀学生発表賞」を受賞

生田宗一郎助教(生命環境学部 生物化学科 藤原伸介研究室)と前川和葉さん(理工学研究科 博士課程前期課程 1年生 生命科学専攻 藤原伸介研究室)が9月9日(土)に開催された第20回ポリアミンと核酸の共進化シンポジウムにおいて「優秀学生発表賞」を受賞しました。

それぞれの発表概要は以下の通りです。

【発表者】
生田宗一郎助教
【タイトル】
「質量分析イメージング法を用いた発酵食品中のポリアミンと関連代謝物の局在可視化」
【概要】
■研究背景
近年、生体切片上における化合物の局在の可視化手法として質量分析イメージング法(mass spectrometry imaging: MSI)という手法が注目されている(図1)。MSIでは,組織切片中の分子を直接イオン化し、質量分析によって分子情報を取得する。MSI には①標識や呈色反応が必要ない、②化学特異的に物質を直接検出できる、③様々な分子を一度に可視化できる、といった利点があることから、脂質、代謝物の組織上での直接検出や可視化に用いられてきた。本研究では、麹菌を用いて製造される米麹、Penicillium 属などに分類されるカビを用いて製造されるカビチーズを用いて、これらの糸状菌によって生合成されたポリアミン類を含むアルギニン代謝物の局在の可視化手法の開発を目的とした。
■実験方法
米麹においては、異なる製麹時間(麹を蒸米上で生育させる時間)のサンプルを準備し、標的化合物の局在を蒸米と比較した。カビチーズにおいては、市販されている4種のブリーチーズを用いて、標的化合物の局在を比較した。これらのサンプルを、10%ゼラチン溶液を用いて包埋し、クライオミクロトームを用いて凍結切片を作成した。それらをスライドガラス上に載せ、イオン化を補助するマトリックスであるCHCA(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)を蒸着法及びスプレー法によって供給した。その後、質量顕微鏡であるiMScope QT(島津製作所)を用いてMSI分析をおこない、標的化合物の局在を可視化した。
■実験結果と考察
MSI分析の結果、ポリアミンであるプトレシン、スペルミジン、スペルミンを含むアルギニン代謝物の局在を可視化することに成功した。蒸米と比較した米麹の分析結果より、糸状菌による生合成を可視化した。今後、異なる製麹手法によって製造した米麹をMSI 分析に供することで、製麹手法の比較評価につながると考えられる。さらに市販されている複数種のブリーチーズの分析結果より、カビチーズ間で、化合物の局在の違いが見られた。本結果より、これはカビチーズ製造に用いられたカビ菌種の違いによる生合成の違いがあると考えられる。本研究によって、MSIが発酵食品中の微生物による代謝物生合成の局在を可視化するための有用な手法であることを示した。

【発表者】
前川和葉さん
【タイトル】
「超好熱菌 Pyrobaculum calidifontis におけるノルスペルミン生合成経路」
【概要】
■研究目的
超好熱菌の多くは分岐鎖構造のポリアミンが存在し、高温での生育に必須とさ れている。一方、超好熱菌Pyrobaculum calidifontisはノルスペルミン[333]が主な細胞内ポリアミンであり、分岐鎖ポリアミンを持たない¹⁾。我々はノルスペルミン合成経路を予測し、サーモスペルミン[334]の分解反応によりノルスペルミジン[33]が合成される経路が存在すると明らかにした。そこで、サーモスペルミンの分解を触媒する酵素の特定を目指した。
■実験方法
P.calidifontis VA1 株の培養菌体約6 g (湿重量)を用いて、ノルスペルミジン生成酵素の活性濃縮を行った。様々な種類のカラムを用いて活性画分を分画し、効果的なカラムの選択を行なった後、細胞粗抽出液を陰イオン交換クロマトグラフィー(HiTrap Q, mono Q)、ゲル濾過クロマトグラフィー(Superdex 200)で分画した。酵素活性測定は、サーモスペルミンを基質として用い、ノルスペルミジンの生成量をHPLC により分析した。得られた画分はSDS-PAGE および銀染色に供し解析を行った。
■実験結果と考察
P.calidifontis の主な細胞内ポリアミンであるノルスペルミンの発現動態を知るため、対数増殖期と定常期の細胞を取得しポリアミン分析を行った結果、対数増殖期と定常期で細胞数当たりのノルスペルミン濃度は変わらなかった。よって、ノルスペルミンは生育時期依存的ではなく、常に一定の濃度で細胞内に発現していると考えられ、ノルスペルミジン生成酵素も同様の発現動態を示すと考えられた。従って、菌体量確保のため定常期の細胞を活性濃縮に使用した。細胞粗抽出液を分離能が異なる2種類の陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて分画した後、ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて分画を行った。その結果、ゲル濾過クロマトグラフィー後の画分で、細胞粗抽出液に対して約400 倍の活性濃縮を達成した。分画後の画分をSDS-PAGE に供しCBB および銀染色にて検出すると、比活性が400 倍に上昇したにも関わらず、SDS-PAGE で顕著な濃縮が見られないことから本酵素の細胞内での発現量は低いと推察される。また、ノルスペルミンはThermus thermophilusやSulfolobus acidocaldarius でも見られ、同じようにポリアミン酸化酵素がノルスペルミン合成に関与していると考えられる。
■参考文献
1) Fukuda, W., et al., Catalysts., 12, 567 (2022)