2023.07.31.
【タッチダウン to 関西学院大学】東京丸の内キャンパスで『中小企業の宇宙への挑戦~困難の先のビジネスチャンスとは~』を開催

7月21日(金)、東京丸の内キャンパスで【タッチダウン to 関西学院大学】を開催し、対面とオンラインの併用で約90名が参加しました。

イベントは『中小企業の宇宙への挑戦~困難の先のビジネスチャンスとは~』と題し、朝倉明夫氏(スーパーレジン工業株式会社 代表取締役社長)、上野邦香氏(東成エレクトロビーム株式会社 代表取締役社長)による【第一部】トークセッション、【第2部】クロストークセッションを行いました。
 

技術力の結晶とも言える「はやぶさ2」を支えているのは日本の中小企業であり、まさにプロジェクト成功の立役者です。その中で、スーパーレジン工業株式会社は、小惑星探査機に必要な電力を供給する太陽電池セルを張り付けるためのパネルと、太陽電池パドルと本体をつなぐ腕の部分を製作しました。東成エレクトロビーム株式会社は、小惑星に弾丸を打ち込みクレーターをつくり、その衝撃で舞い上がったフレッシュな砂や岩の破片を採取するという奇想天外なプロジェクトを成し遂げるための衝突装置の“弾丸の溶接”を担当しました。

トークセッションで、朝倉氏は、自社が担当した軽量で高剛性のパネルは、コア材となる六角形のハチの巣状になったハニカム構造のアルミ素材を、「軽くて」「強くて」「高い寸法性」という特徴を持つ炭素繊維と樹脂の複合材であるCFRP(炭素性強化プラスチック)で挟み込む形で接着して作られていることを紹介しました。そして、「ロケットの積載重量は決まっており、人工衛星の重さも制限されてしまいます。一方で、人工衛星を大きくしたり、より多くの測定機器を載せるためには、人工衛星本体を軽量化する必要があります。そのため、太陽電池セルを張り付けたパドルは打ち上げの振動や音に耐えられるだけの“最低限の強度設計“がなされています。しかし、実際のパネルは指で摘まむとつぶれてしまう程度です。製造過程でポケットからボールペンを落とし、パネルを壊してしまうという苦い経験を何度もしてきました」と製作過程での苦労を語りました。

続いて上野氏は、模型を用いながら、「ステンレス製の本体と弾丸となる丸い銅製部材を溶接した部品が、打ち上げのGや振動、宇宙空間での急激な温度変化に耐え、4年間宇宙を航行したあと実際に弾丸が打ち出される時に、溶接した部分が“均等に剥がれて”、弾丸の形に変形し、秒速2kmでまっすぐ飛ぶことを実現できる、“必要な時のみ均等に破壊される溶接“が求められる」と話しました。「口で言うのは簡単だが、均等に溶接することの難しさは、溶接している間に材料が溜まるため、条件をコントロールしないと均等に溶け込まない。均等に溶け込まないと、まっすぐ飛ばないので、狙った位置にクレーターが作れなくなってしまう。本来、溶接は破壊できないように作るものなので、“均等に破壊される溶接“はあり得ない要求」と困難さを語りました。「ステンレスと銅のどの位置を狙うか、それにより溶け込みの深さ、形状が変わり、さらに、溶け込みの下にスパイクという波打つ現象が起き、その波打つ量をできる限り均等にする必要がある。そのために、電子ビームをどれだけの距離を離すか、どれくらいの電流かなど調整が必要で、試行錯誤を重ねた。解決しなければならない条件が山ほどあり、時間と根気が必要な試みだった」と開発過程を振り返りました。

後半は、モデレーターの山崎淑行氏(NHKラジオ第一「NHKジャーナル」解説キャスター)と朝倉氏、上野氏でクロストークを行いました。

宇宙産業ビジネスに挑戦する企業経営において、上野氏は、「社員が成長を描きながら、誇りを持って働ける環境をつくり、人を育てることを重視している。そして、モノづくりにおいて機械を扱うのは人間であり、長く働ける環境をつくることで高い技術力を維持できる。そうすることで社員一丸となって“あきらめない大切さ”を共有できている」と話しました。 また、中小企業として今後のさらなる発展に向け、朝倉氏は、「自社の技術を評価してもらうためには提案力・開拓力が鍵だと考えている。まだ世にないモノを作ることにチャレンジしており、例えば、アート作品である『太陽の塔』の顔の部分にCFRPを活用するなど、宇宙とは全く関係ない業態に提案する力が強みであり、他社では難しいことを実現している」と語りました。

はやぶさ2を支える100社以上にのぼる中小企業の中で、中核を担う二人の熱い語りに参加者は聞き入るとともに、日本の明るい未来を感じるイベントとなりました。