2023.07.21.
【タッチダウン to 関西学院大学】グランフロント大阪で「はやぶさ2」実物大模型展示、國中均氏・吉川真氏ら歴代JAXAプロマネを招いたトークイベントなどを開催
7月15日(土)、グランフロント大阪北館1Fナレッジプラザで【タッチダウン to 関西学院大学】を開催しました。
イベントは間瀬康文氏(特定非営利活動法人ギガスター 理事長)による「はやぶさ2」実物大模型展開デモンストレーションから始まり、國中均氏(JAXA 理事・宇宙科学研究所所長)・吉川真氏(JAXA 宇宙科学研究所 准教授)らJAXA歴代プロジェクトマネージャーによるスペシャルトーク、さらに松浦周二・理学部教授と岸本直子・工学部教授を交えた「JAXA×関西学院」クロストークを実施。最後にふたたび間瀬氏による「はやぶさ2」解体デモンストレーションを行いました。
実物大模型の展開デモンストレーションでは、間瀬氏が模型を組み立てながら「はやぶさ2」が搭載している各パーツの機能や技術を解説。間瀬氏の解説を熱心にメモする来場者の姿も。太陽電池パネルを広げる際は、会場にいる全員で「展開!」のかけ声をかけました。グランフロント大阪に降り立った「はやぶさ2」実物大模型の姿に、来場者から歓声があがりました。
続いて、國中均氏・吉川真氏によるスペシャルトークがスタート。司会進行役は山崎淑行氏(NHKラジオ第一「NHKジャーナル」解説キャスター)が務めました。
スペシャルトークの冒頭、イオンエンジンの第一人者でもある國中均氏は、「はやぶさ2」が搭載しているイオンエンジンの構造を解説。「イオンエンジンはイオン源と中和器の1セットでできている。イオンはプラスの電気を持っていて、お互いに反発しあう。そのため、イオンを発生させたあと、すぐに電子噴射装置からマイナスの電気を帯びた電子を放出して混ぜる。これによりプラスとマイナスの電気が中和され、それぞれのイオンが軌をそろえてまっすぐ進んでいく。推力はエンジン1基につき10ミリニュートンで、これは地球上で1円玉を動かせるくらいの推力だ。『はやぶさ2』に搭載されているエンジンは4基。宇宙には空気抵抗がないので、600kgほどある機体に対してこれくらいの推力でも十分に加速できる」と國中氏は話しました。
これを受けて山崎氏が「展示中の実物大模型を見るとエンジン4基のうち3基しか点灯していないようだ」と首をかしげると、國中氏は「1つは予備。『はやぶさ』初号機帰還の際はこの予備がとても役に立った。プロジェクト中、エンジンが次々に壊れていき帰還は絶望的と思われた。しかし、この予備エンジンや回路の冗長化のおかげで、なんとか帰還することができた」と、はやぶさ初号機帰還にまつわるエピソードを紹介。会場からは拍手が起こりました。
その後、本学教員 松浦周二・理学部教授と岸本直子・工学部教授を交えたクロストークを実施。司会進行役の山崎氏から「宇宙研究と私たちの生活はどのように関係しているか」というテーマが提示されました。
これに対し、日本の地の利という観点から語ったのが國中氏。「『はやぶさ』『はやぶさ2』のような深宇宙探査機は、地球の自転速度を最大限利用できるように東へ打ち上げる。ヨーロッパなど周囲に国がひしめき合っている場所では、墜落した場合のリスクが非常に大きい。対して、日本の東には太平洋という公海があるのみで、打ち上げには適した地理的環境だ。日本の地の利を活かした産業として宇宙産業はベストであり、日本を豊かにするものだと思う」と、日本が宇宙研究を行う意義とあわせて力説しました。
吉川氏は「宇宙研究は、我々だけでなく未来の人類のためにもなる」と切り出し、「国際的に活発になってきたのが、衝突する天体から地球を守るプラネタリーディフェンスという考え。小惑星が地球にぶつかれば大きな災害になる。近年、この研究の進展が目覚ましく、NEO(Near Earth Object:地球接近小天体)と呼ばれる天体がこれまでに3万個以上見つかっている。頻繁には落ちてこないし、近い将来に危機が迫っているわけではないが、危険な天体は早めに見つけることが大切だ」としました。
これに対して普段から学生など若い世代と協働している研究者として、岸本教授は「様々なミッションに学生を巻き込むことを意識している。他大学・他機関と関わり、本気で宇宙開発をしている人の姿を見ることは学生にとってとても大切。また、宇宙開発は期限があり、審査があるので、いつまでに、どこまでやらなければいけないかを管理・実行しなければならない。さまざまな分野の人と協働し、チーム力でミッションを成功させることも求められる。学生にこの意義や大変さを知ってもらう場として、宇宙開発はベストと言える。宇宙開発となると、東京などの大企業を連想するかもしれない。ただ、大企業は技術力のある中小企業によって支えられている面も大いにある。実際、技術のある中小企業は大企業に対して技術提供や提携を多く行っている。宇宙開発の道に進むなら、ぜひ関西の企業にも目を向けてほしい」と強調しました。
トークイベントの終盤では、登壇者それぞれが胸に抱く「自身の研究のこれから」を発表しました。
現JAXA宇宙科学研究所所長の國中氏は、「2020年代の計画はすでに作り終えた。2030年代に我々は何をすべきか、それを成し遂げるためにはどのような技術が必要かを考えて、技術開発をしていきたい。そのためにもさまざまな専門家と議論を重ねていく」と展望を語りました。
吉川氏は、「まずは拡張ミッション『はやぶさ2#』(※)の成果をあげること。また、プラネタリーディフェンスにも注力したい。この分野はすでにアメリカとヨーロッパで研究が進んでいるが、まだ日本は組織的に研究できていない状態だ。個人的な興味としては、修士論文や博士論文で研究した小惑星の軌道計算を改めて行いたい。当時観測されていた小惑星は5000個ほどだったが、いまは130万個ほど。もう一度やり直してみたら、面白いと思っている」と目を輝かせました。
「はやぶさ2#」…読み方はハヤブサ・ツー・シャープ。#は「Small Hazardous Asteroid Reconnaissance Probe」の頭字語。「はやぶさ2」拡張ミッションの目的が、地球に衝突する可能性がある危険な小惑星の調査であることを意味する。
松浦教授は「初期の宇宙を見るためのロケット打ち上げ実験や観測実験を成功させたい。ただ、これがなかなか難しい。遠い天体を観測するには手前の天体の影響を除去しなければならないからだ。その最たるものが、太陽系内の細かく砕かれた天体が放出する塵やダスト。これらが太陽光を反射して黄道光と呼ばれる薄い光をつくる。その影響を受けないような計画を実行するのがかねてからの夢だった。そのために、惑星探査機を黄道光の影響を受けないような太陽系の端まで飛ばして、遠い宇宙の姿を観測したい」と話しました。
小さなものをつなげてひとつの構造体をつくるモジュール構造について博士論文を執筆したという岸本教授は、「何台もの衛星を打ち上げ、それらをたくさんつなげてひとつの構造物にするような、モジュール型の構造物を作りたい。また、宇宙開発で使われる技術にインフレータブル構造というものがある。これは地上で小さく折りたたんだ構造物に、宇宙空間でガスを注入して膨らませるというもの。中の気体をガスではなく空気で満たし、気圧を調整すれば、生き物を飼えたり、ホテルのような建造物を建てられたりするかもしれない。これを宇宙で本格的に実験してみたい」と述べ、クロストークは盛況のうちに終了しました。
イベントを締めくくったのは間瀬氏による「はやぶさ2」実物大模型解体デモンストレーション。展開時と同様、間瀬氏による解説と質問コーナーが設けられ、老若男女問わず多くの来場者が足を止めて解体の様子を見学していました。宇宙の魅力をより多くの方々に知っていただくイベントとなりました。
「はやぶさ2」実物大模型は7月22日(土)神戸海洋博物館 メインホールへタッチダウンします。同会場では小笠原雅弘氏((元)日本電気航空宇宙システム株式会社)、田中 裕久・本学工学部教授によるクロストークなども開催予定です。ぜひお越しください。
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