2022.01.25.
企業の人手不足、食品ロス、老後の資産形成、国家財政の持続性…~総合政策学部の学生が授業で財務省職員に政策提言

 日本の財政に関する政策課題について学ぶ総合政策学部の授業「総合政策演習12(政策コンサルティング演習)」で1月17日、学生たちが財務省の職員に対して財政政策に関連するプレゼンテーションを行いました。秋学期前半の授業(10月4日)で、財務省主計局の政策担当職員から現在の課題について説明を受け、その後約2か月間、テーマを決めて研究してきたもので、①企業の人手不足②食品ロス③老後の資産形成④国家財政の持続性――の四つのテーマで発表し、それぞれ該当の業務を担う主計局職員の講評を受けました。

 担当は、公共経済学、財政学、マクロ経済学統計分析を専門とする亀田啓悟教授。

 最初の発表は「労働生産性向上による企業の人手不足緩和を目指して」。学生たちは、ハローワークのデータをもとに分析し、高賃金企業の人手不足を解決する条件は「求職者の経験」であるとし、「企業主導で訓練内容を選定する職業訓練制度の新設」「企業による訓練内容の選定」などを提言しました。これに対し、主計局担当職員は「労働生産性の向上は最重要課題の一つで、アプローチとして素晴らしい。政府としてもヒトへの投資を充実させようとしている。論点としては、特定企業にしか有用でない訓練に対する支援とならないか、就職前(学生時)の訓練に対する支援をどう考えるか、といった点がある」とコメントしました。

 次の発表は「フードシェアリングサービスによる日本の食品ロス削減の影響」。学生たちは、フードシェアリングサービスによる削減が経済と環境負荷に与える影響について発表しました。研究を通して、学生たちは環境負荷を低減させるものの、同時に経済にとってはマイナスの効果があると分析。これを踏まえ、温室効果ガスの削減に向けて「フードシェアリングサービス事業者への促進補助政策」などを提案しました。これに対して、主計局担当職員は、政策目的を明確化した点、及び政策のメリットとデメリットを分析した点を評価しつつも、「経済効果がマイナスである政策をどう正当化するかという点について追加的に考慮してはどうか」「政策手段として、公益性や財政資金の効率的使用の観点から、事業者に対して、補助金や税制上の優遇措置に限らず、低利での融資を実施することも一つの案として検討してはどうか」と指摘しました。

 三つ目の発表は「老後の資産形成に向けて」。学生たちは、老後の資産形成に向けた若者の金融リテラシー(応用リテラシー)の向上に関しては、既存研究の「新聞購読が貢献している」という主張について、アンケート結果から因果推論(傾向スコアマッチング)を用いた分析を実施。新聞を読むことがリテラシーの向上に影響を与えることがわかったとし、「教育機関への新聞配備」「金融教育の必修化に向けた予算補助」という政策の必要性を訴えました。これに対し、主計局担当職員からは「分析に傾向スコアマッチングを用いたのは興味深い。ただし、提案された政策は多額の予算を要する。もっと低いコストで高いパフォーマンスが期待できる方法があるのではないかという視点で考えなければならない」「特定の業界の支援との批判を浴びる可能性にも留意しなければならない」とのコメントがありました。

 最後の発表は「国家財政の持続性に関する論点の整理」。学生は、最近話題になることが多いMMT(現代貨幣理論)に沿った財政ファイナンスを日本が行った場合の問題点を発表。「財政ファイナンスは長期金利の急騰を抑制できるが、円安を誘発する」ことから、円安になると、「輸入インフレを招き、経済的弱者の生活が困窮する」「ドル建ての一人あたりGDPが低下する」とし、「日本の先進国としての地位を脅かす」と指摘しました。これに対し、主計局担当職員は「政策議論としては、経済学の枠組みに沿った理論的な検討と、過去や海外の事例の調査をバランスよく進めることで研究の質が更に高まる」「データ分析を中心とした発表のなか、理論分析を行った点を評価したい」と語りかけました。

 学生たちは、実際に国の政策立案・分析に関わる官僚からの厳しくも熱のこもったフィードバックを熱心に聞き入っていました。