2021.08.30.
理工学研究科修了生の山本真由さんが世界体外受精会議記念賞を受賞

不育症と、妊娠の成立と維持に係る子宮内の細胞の関連を調べた研究成果の発表で

山本真由さん

山本真由さん

 関西学院大学大学院理工学研究科を2021年3月に修了した山本真由さんが、学部生時代から兵庫医科大学に身をおき研究した内容を7月に神戸市で開催された日本受精着床学会で発表し、世界体外受精会議記念賞を受賞しました。不育症と、妊娠の成立と維持に係る子宮内の細胞の関連を調べた研究で、兵庫医科大学 産科婦人科学 柴原浩章教授、福井淳史准教授をはじめとする研究チームで取り組んだ内容です。兵庫医科大学では英文の論文を投稿予定です。

 理工学部で生命科学科専攻(現 生命環境学部生物科学科)だった山本さんは4年次に、学術交流に関する包括協定を締結し、学生の交流を続けている兵庫医科大学に希望して身をおき研究に取り組みました。中でも産婦人科、特に生殖医療に関心を抱き、学部学生の場合1年で修了するところ、大学院進学後も兵庫医科大学に通って研究を続けました。大学院修了後、医薬品製造受託会社に就職しながら、これまでの研究内容を発表し、今回の成果を出しました。

 山本さんは今回の受賞について、「この度は身に余る賞を頂きとても嬉しく、信じられない気持ちです。これまで関西学院大学や兵庫医科大学で関わってくださったすべての方に心よりお礼申し上げます。今回の賞を通じ、妊娠の成立と維持に係る子宮免疫細胞のはたらきに対し、少しでも多くの人に興味を持っていただけたら幸いと思います」と話しています。
 

兵庫医科大学産科婦人科学の研究チーム。右端が山本真由さん、中央が福井淳史准教授

兵庫医科大学産科婦人科学の研究チーム。右端が山本真由さん、中央が福井淳史准教授

 山本さんが、日本受精着床学会で発表した演題は「脱落膜 NK 細胞に発現する NKp46 から免疫異常を有する不育症を知る」。内容は、次の通りです。

【受賞者名】
山本真由、福井淳史、麦楚娴、佐伯信一朗、竹山龍、山谷文乃、柴原浩章
【研究の背景】
子宮NK細胞は、黄体期から妊娠初期に増加し、妊娠の成立と維持に重要な役割を果たしていると考えられている。NK細胞に発現する活性性受容体の1つであるNKp46は、細胞傷害性とサイトカイン産生に関与することが知られ、その発現強度からNKp46dim細胞とNKp46bright細胞とに分類することが出来る。本研究では、不育症患者脱落膜におけるNKp46発現の振る舞いや妊娠の成立・維持に対する影響、またNKp46発現割合をもとに免疫学的異常を有する不育症を知ることが出来るか否かを明らかにする目的で行われた。
【研究手法と成果】
<方法>流産時脱落膜を機械的に単細胞レベルに粉砕して脱落膜NK細胞(dNK細胞)浮遊液を作成した。dNK(CD56+)細胞におけるCD16、NKp46の発現およびdNK細胞産生サイトカイン(IFN-γ、TNF-α、IL-4、IL-10、TGF-β)をフローサイトメトリーで測定し、不育症絨毛染色体正常流産患者(染色体正常流産群、n=11)、不育症絨毛染色体非正常流産患者(染色体非正常流産群n=20)、および対照群(n=12)にわけ、不育症におけるdNK細胞発現NKp46のカットオフ値をROC曲線解析から求め、その意義を検討した。
<成績>CD16とCD56の共発現からみたNK細胞分布は各群間に差を認めなかった。NKp46+dNK細胞(p < 0.01)、NKp46brightdNK細胞(p < 0.05)は、染色体正常流産群で対照群に比して有意に低値であった。また不育症におけるNKp46+dNK細胞、NKp46brightdNK細胞の至適カットオフ値は86.52%および70.85%であった。さらにNKp46brightdNK細胞は、IFN-γ/IL-4比、IFN-γ/IL-10比と弱い負の相関を認めた。前述の至適カットオフ値にもとづきNKp46高値群と低値群の2群に分け検討すると、NKp46+低値群ではNKp46+高値群に比してIL-4産生、IL-10産生およびTGF-β産生が有意に低く、IFN-γ/IL-4比およびTNF-α/IL-10比は有意に高かった(すべてp < 0.05)。
【今後の課題】
今回の検討では、脱落膜でのNKp46発現と不育症との関連を示すことが出来た。またNKp46値からその後の予後を推定できる可能性があるのは非常に興味深い。カットオフ値を設定できたことも非常に興味深い。今後は非妊時子宮内膜も用いて、診断ツールとしても利用できるか検討を進めていきたい。
【研究費等の出処】
科学研究費基盤C