2016.02.29.
【新刊紹介】『集団就職とは何であったか』

 山口覚教授が『集団就職とは何であったか』(ミネルヴァ書房)を1月に出版しました。山口先生が当書籍を紹介します。

山口覚教授(文学部文化歴史学科地理学地域文化学専修)

山口覚教授

山口覚教授

 今から半世紀ほど前までは、中学校を卒業してすぐに就職する人々は珍しくありませんでした。さらにその一部は生まれ育った故郷を離れて遠くの町まで働きに行きました。高度経済成長期(1950~70年代)の日本では、安い賃金で働く若い労働者たちは「金の卵」と呼ばれ、国や地方自治体は、そうした若い労働者たちの遠隔地間での移動を積極的に推し進めていました。いわゆる「就職列車」に乗って故郷を離れていく若者たちの姿は「春の風物詩」としてこの時代の新聞記事やテレビのニュースで取り上げられていました。集団就職とはこうした現象でした。

 集団就職は、現在の若者にはほとんど知られていないでしょうし、1971年生まれの私自身も直接知っている訳ではありません。私は人文地理学徒として人口移動現象や移動する人々に関心を持ってきたので、その一環として集団就職のことを調べるようになりました。私よりも年長の人々の多くは、集団就職について、高度経済成長期の象徴的な出来事の1つとして記憶しているはずです。

 もっとも、多くの人々が記憶してきたはずの集団就職は、実はきちんとした調査が必ずしもなされてきませんでした。たとえば集団就職のシンボルであった就職列車は、いつ、どこで始まったのでしょうか。高度経済成長期はもとより、第二次世界大戦の前から高度経済成長期の後まで、あるいは日本国内だけでなく海外との関係まで含めて、できるだけ詳細に集団就職について問いなおすことが本書の目的でした。

 集団就職については情報源が限られているので、青森県から沖縄県にいたる各地の新聞記事を集めることで、ようやく断片的な理解が得られました。図書館にこもってマイクロリーダーと呼ばれる機械で新聞紙面を確認し続ける作業は、大変ながらも楽しい宝探しのようなものでありました。

 こうした調査の結果、集団就職と呼び得る現象はすでに戦前からあったこと、就職列車の歴史は1930年代から1980年代に至る半世紀に及ぶこと、集団就職の関連で1970年代初頭には韓国からやって来た若者たちがいたことなどが明らかになりました。

山口覚・文学部教授著 391ページ ミネルヴァ書房