[ 文学部 ]アジア史学専修ASIAN HISTORY

メッセージ

アジアってどこのことだろう?

日本を含むアジア地域。実は、「アジア」には学問的に決まった定義はありません。それは、アジアの地理範囲が時代とともに変化してきたからです。アジアとヨーロッパは古代ギリシア人の世界観をあらわす対概念として生まれました。重要なことは、常に「ヨーロッパ」側が自己認識のために「アジア」という概念を用いていたということです。

しかし「アジア」側には、近代以前には自分たちが「アジア」に住んでいる「アジア人」という意識はありませんでした。アジアの諸地域はヨーロッパの植民地主義の犠牲となりましたが、このときに初めて「ヨーロッパ」に対する「アジア」を認識し、他称であった「アジア」を、自分たちを表す言葉として受け止めたといえるでしょう。

「アジア」となった地域は地理的にも広く、文化も民族も非常に多様なことが特徴です。ここにアジアとしての共通性を見いだすのは不可能のようにも思えます。しかし、遊牧民の活動や東西交易、植民地問題など、よく調べるとアジア史に普遍的な話題も浮かび出てきます。アジアの多様性と統一性について研究することは、そこに属する日本やわれわれ日本人自身についてあらためて考えることでもあるのです。

教員紹介

西アジア史、イスラーム、ペルシア語文化圏の歴史Research keywords

後藤 裕加子 教授

前近代の西アジアは常に中央アジアから進入する遊牧民の影響を受けて来ました。13世紀のモンゴルの征服活動によりユーラシア大陸に巨大な統一国家が出現し、その支配のもとでアジアとヨーロッパの交流が盛んになりました。本格的な世界史が幕を開けたのです。

16世紀には、西アジアを中心としたイスラーム世界では、オスマン朝やサファヴィー朝、ムガル朝などの大帝国のもとで多様な民族や宗教の人々が共存し、その繁栄を支えました。キリスト教の布教や富を求めるヨーロッパ人も多く来訪し、現地社会について貴重な記録を残しました。彼らの記録は現地の史料を補完してくれます。遠く離れた地域と考えられがちですが、その歴史を多角的に学ぶことは、現代の私たちの社会について考える手がかりを与えてくれます。

漢から六朝時代を中心とする古代中国の官僚制Research keywords

佐藤 達郎 教授

前漢と後漢、紀元前202年から紀元後220年までの統一帝国時代に、皇帝制度、官僚制など中華帝国の基本的枠組みはほぼ出来上がります。この時代の官僚制がどのような構造を持ち、どのような仕組みで運営されていたかを解明することが私の第一の研究テーマです。

制度を背後で支える理念は、当時の思想・文化史上の潮流と深く関わり合っています。秦帝国の体制をほぼそのまま受け継いだ漢帝国は、儒教を統治の基本精神として採用しつつ、その体制をどのように儒教の理念に合致させていき、中国古典文化の担い手たる文人官僚層を形成していくか。そういった観点のもと研究を進めています。

中国語教育、唐詩Research keywords

成田 靜香 教授

英語教育のような国民的関心事ではありませんが、中国語教育においても何をどのように教えるべきかという議論はあります。わたしは主に関学の中国語教育のために、他の先生方とともにその問題に取り組み、共同研究を行っています。

また、個人の研究としては、白居易の「閑居」を詠った詩が、潘岳「閑居賦」、沈約「郊居賦」や陶潜の詩などをどのように受け継ぎ、どのような自己を描こうとしたものなのかを考えています。

中国近世の社会史、中国の民俗宗教Research keywords

水越 知 教授

中国近世の社会史を専門にしています。宋代から清代後期に至る近世と呼ばれる時代、科挙制度の定着や商品経済・都市化の進展によって人々の生活は大きく変化しました。社会階層の流動性や地理的な移動量が拡大するなかで、個人や家族は生き残りのために新たな人的ネットワークや宗族のような親族組織を作り出しました。この時代の史料からは湧き上がるような社会の活気と、そこで懸命に生きる人々の声が聞こえてきます。個別のテーマとしては、中国近世の親子や夫婦などの家族関係、儒教・仏教・道教と民間信仰が混交する宗教信仰について研究してきました。近年は、裁判に関する官庁公文書(档案)を読むことを通じて基層社会のあり方を考察するとともに、「善書」と称される通俗的な宗教書をから当時の価値観を探ろうとしています。

中国近現代の政治思想・政治文化Research keywords

森川 裕貫 教授

中国近現代の知識人と政治との関わりについて研究しています。清末以降の中国では、数多くの政治的・社会的問題が噴出する一方、思想や文化の多様な発展が見られました。この発展の担い手だった知識人は、思想や文化の世界にただ閉じこもることはせず、現実の政治にも強い関心を抱いていました。知識人の関心の表出の仕方は様々でしたが、注目に値するのが、政論と呼ばれる緻密な論理に支えられた政治批評がなされる一方、過激な言論やときに暴力もともなう政治・社会運動に支持が集まった点です。私の研究では、政論の論理を重視すると同時に、過激な言論や運動を支える情念にも注意を向け、考察を進めています。

授業紹介

アジア史学史料研究DII
イスラーム史に関する代表的な史料のなかから、英訳されたものをピックアップし、これを訳読しながら、イスラーム世界の史料の特徴やイスラーム史そのものについての理解を深めていきます。トルコ語の基礎も学修します。
アジア史学特論
中国は長い歴史叙述の伝統を持っています。西欧とは異なる中国独自の歴史叙述のあり方とその発展について、殷代の甲骨文から近世の歴史評論に至るまで、各時代の記録・著作を通じて理解を深めます。

池畠 聡太郎 4年生 (撮影当時)

この専修では、主にイスラーム世界や中国を中心に、アジアの様々な地域や時代の歴史を、基本的な知識から専門的な知識までしっかりと学ぶことができます。

谷口 奈穂 4年生 (撮影当時)

”歴史が好き”という理由だけで、アジア史を選びました。最初はわからないことも多かったですが、知らないことを学べる楽しさを得ることができたと思います!