2023.05.22.
2023年度新入生歓迎講演会 山﨑はるえ宝塚市長にご登壇いただきました

2023 年 4 月 1 日新入生歓迎  山﨑はるえ宝塚市長講演について

研究科長 池田直樹

 
 DV被害相談に来た女性に対する女性弁護士の何気ない一言。
 「なんでもっと我慢できなかったの?」
 付き添っていた当時カウンセラーだった山﨑さんが反発すると、「法律家でもないものがモノを言わないで!」と一蹴された。それなら弁護士になってやる!ちょうどロースクール制度が発足したタイミング。もともと心理学を学び、保険会社に就職してからもDV被害者支援をしていた山﨑さんの人生の軌道が大きく変わった瞬間だった。
司法修習時、明石市のDVセンターの専門家募集を知り、市の公務員に。被害者を保護して逃がす活動を現場で行った。また、弁護士でもある泉市長(当時)が主唱した職員のコンプライアンス研修を担当した。
 その後、一転して行政や保険会社等の顧問をする法律事務所に勤務。被害者弁護からすればいわば「相手方」の手の内を知り、その考え方について視野を広める機会になった。
弁護士 4 年目で「タカラヅカ」大劇場前にDV被害と子どもの支援を専門とする法律事務所を開設。被害者女性がGPSで行動を追跡されても劇場訪問と勘違いされることを見越しての立地だったという。
 そんなときに、当時の中川市長が大相撲の土俵に女性が上がれないことを問題にしたことで論争が起こり、兵庫県弁護士会両性の平等に関する委員会から支援チームの一員に、と声がかかった。当初、政治家になるなど考えてもいなかったが、いつの間にか外堀が埋まり、気が付いたら候補者(無党派)に。急な立候補だったので夜 8 時まで選挙活動をしてその後に準備書面を書くなど睡眠2~3時間の日々だったという。
 こうして 2021 年 4 月の選挙で当選し、今、2 年の折り返し点。
 山﨑さんは、市長とは、市民の思いを吸い上げて市政に具体化する抽象的存在だという。根本に自分の考えはあるものの、今後、人口減・高齢化が確実に進む中、持続可能なまちを作るために、ぶれずに方針を立て、自分が去ったとしてもそれが継続していくように「わだち」を残していく責務があるという。
 そのとき、弁護士であるからこそできることとして、職員への対市民・対議員も含めたコンプライアンスの徹底を進めている。また宝塚版スクールローヤー制度の整備や 1 人親支援制度、行政サービスを補完・刷新していくための大学や大企業などとの協定の締結とネットワークの形成など、次々とユニークな政策を実現していっている。そこには、弁護士法 1 条の精神と、法律家として話し合いでの解決を目指してきた経験が生かされている。
 山﨑さんは、公務法曹としての道のりを振り返って、弁護士の魅力は自由にあり、1 人 1 人の依頼者を支える点にやりがいがある一方、公務員はそれを制度として支えており、市長は政治家として市民力を高めて共に支えあう社会を作っていく役割があり、どれも矛盾しないという。「華麗な転身」の裏には、1 人 1 人の人生を支えたいという一貫した熱い思いと重い決断がある。「一生で一番しんどい勉強」に突入する新入生に対して、公務法曹の新たなモデルとして、力強いエールを送って頂いた、心に残る講演会だった。