2023.08.09.
「関西学院世界市民明石塾」を開催(8/2,3,4)

関西学院大学は、将来のグローバルリーダー育成を目的として明石康・元国連事務次長(本学学長特別顧問)を塾長に、高校生対象の「関西学院世界市民明石塾」(以下、明石塾)を開催しました。

7度目の開催となる今回は「Challenges for SDGs ~平等でインクルーシブな未来へ/Equal and inclusive future~」をテーマに「SDGs(持続可能な開発目標)から Goal 5:ジェンダー平等を実現しよう、Goal10:人や国の不平等をなくそう」を中心に、全国から集まった高校生が3日間にわたり学びました。

1日目、明石 康 塾長による基調講演「ジェンダー平等と世界の不平等軽減をめざすグローバルな取り組み-国連、ユネスコ、SDGsの視点から」では、近年の地球上の深刻な問題解決にむけて国連がどのような役割を果たせるかについての紹介があり、まさに歴史の転換期にある今、長年国連で平和構築に尽力されてきた明石塾長の話に、高校生達は熱心に耳を傾けていました。

続いて行われた、林陽子氏(弁護士、元国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)委員長)による講義「ジェンダー平等と女性の権利の実現をめざして」では、世界のジェンダー問題への取り組みの歴史と、日本社会のジェンダー平等を実現していくための3つの課題についてお話いただきました。「ジェンダー問題は日本だけでなくどの国にも形を変えて存在する。その問題を放置せず、各々の立場で同じ考えを持つ人と連携して問題打破に向けて実現することを目指すのが大事。そして自分が20年後、30年後何をしていたいかを真剣に考え、最終的に自分で選んだ事については後悔が少ないし、納得がいく。」と述べられ、締めくくりとして「女性の活躍の場が増えることによる社会への良い影響をブループリントとしてイメージしてほしい。」と高校生にエールを送ってくださいました。

認定NPO法人 開発教育協会/DEARによるSDGsワークショップ「身近なものから持続可能な開発について考えよう」では、アイスブレイキングも兼ねたプログラムとして持続可能な開発をめぐる問題と日常生活との繋がりについて考察しました。クイズ形式で一緒に考えながら進めていくプロセスやロールプレイを取り入れたディスカッションの後、振り返りの時間には、自己の主張だけでなく、ロールを演じての感想、他の人たちの話を聞いてどう思ったか、取り残されている人はいなかったかなど、総括とともに他者の立場で想像するセッションもありました。ファシリテーターの伊藤氏は「現状認識、個人の行動の責任について意識を持ってほしい。」と述べられ、問題解決について具体的に考えるトレーニングは、今後のセッションにもつながったようで、皆手応えを感じていました。

そして声明文グループワーク。国際社会における声明文、決議の採択に数多く携わってきた神余隆博教授(元駐ドイツ日本国大使・元国連日本政府代表部大使)の説明を聞き、各グループ作業を開始。議論し、考え、一つの文案にまとめる作業は容易ではありませんが、どのグループにも真剣に意見を持ち寄り、まとめようという意欲があふれていて、熱気にみちた初日の終わりとなりました。

2日目、久木田 純教授(元UNICEFカザフスタン事務所代表)によるセッションでは、「21世紀のライフデザイン」をテーマに地球と私たちの未来はどうなるのか、人生100年といわれる時代、どんな力が必要なのか、2030年までのSDGsを手掛かりに未来の地球と人類について考えました。

続いて、岡田絵美氏(UN Women日本事務所パートナーシップ専門報道官)による「SDGs達成に向けたUN Womenの活動および世界と日本のジェンダー課題」をテーマとした講義を受けました。UN Women のMandateと活動領域についての説明に続き、ジェンダー平等・女性と少女のエンパワーメントに必要なものはハード面(法整備、政策、制度)とソフト面(意識改革)であること、UN Womenの3つのアドボカシーである「HeforShe・ Unstereotype Alliance・Women’s Empowerment Principles」についての説明などがありました。 岡田氏はグテーレス事務総長の「女性の可能性の実現を阻むシステムを変える必要がある」という言葉を引用し、参加者からこの仕事のやりがいについて問われると「社会変革に貢献したいという志があるので小さなことでも変化を見るとやりがいを感じる」と語られ、UNDP東ティモール事務所、UN Womenミャンマー事務所での着任当時のお写真を紹介くださり、着任地の文化的背景を尊重しつつ、いかに関係者の信頼を得て貢献できるかについて考えるきっかけとなりました。

いよいよ明石塾最終日。“Gender Equality in Canada and ongoing challenges”をテーマに、元駐日カナダ大使のクラグストン教授による英語での講義が行われました。カナダのジェンダー問題に関する変遷についての考察と、多文化共生を促進すべく移民政策含め法整備も進んでいること、先住民族の教育・文化の尊厳を改めて尊重する動きもあることなどが講義され、総括として「カナダ国内にも様々な問題は依然存在しているが、多くの移民・難民を受け入れることで、カナダは多文化共生社会のモデルとなった。日本の改善のペースは遅いと言わざるを得ないが、希望は大いにある」と述べられました。高校生から、外国人投票権についての見解についての質問などもあり、参加者の多文化共生への意識の高さがうかがえました。

続いてディベートの本セッションが日本語・英語の言語別チームで行われました。テーマは「ジェンダー平等の実現のためにはクォータ制の導入が必要か?Is a quota system necessary for achieving gender equality?」限られた準備時間の中で、肯定・否定の各チームが論理展開の作戦を練り、相手の主張を受け止めつつ持論を展開して論破しようとするプログラムですが、どのグループもかなり盛り上がり、全員ディベートの取り組み方を充分理解し、楽しみながら取り組みました。

そして最後のプログラムは声明文総会。明石塾の集大成である声明文作成セッションでは、各グループで作成した案をもとに、全体会合で一つの声明文へまとめ上げる作業を行いました。このセッションは、国連の委員会や国際会議にて必ずしも価値観や方向性が一致しない場で合意形成を進めるプロセスを模擬的に体感することも一つの目的としています。声明文に盛り込む内容や表現・言葉選びなど細かい点にも議論が展開し、神余教授のリードのもと、講師の久木田教授や三輪 敦子教授(元国連女性開発基金(現UN Women)アジア太平洋地域事務所プログラム担当官)のコメントも交えながら、全員で一語一句を検証し、2023年度明石塾の声明文が採択され、全員が署名をしました。<声明文は下段に掲載>

閉塾式で明石康塾長は「多様な価値観や意見に出会い多くの事を学んだことと思う。互いに意見を交換する中で、自分なりの考えを持つことができたのではないか。より良い世界のために一体自分は何ができるのかを考えてほしい。運命の女神は前髪しかないという諺があるように、目指す道へのチャンスが訪れた時に躊躇なく掴むことができるよう、日頃から研鑽を積んで備え、この明石塾での経験が真のグローバルリーダーへと成長する一歩になる事を期待する。」とメッセージを送られました。



閉塾式では一人ずつ感想や今後の抱負を発表し、更なる飛躍を誓いあいました。
皆さん、3日間お疲れさまでした。将来、国際公共分野のフィールドで皆さんが活躍し再会することを願っています。

2023年度 世界市民明石塾「平等でインクルーシブな未来のための青年の声明」