理学部ビジョン 設置準備委員長より

高橋 功 (たかはし いさお) 教授

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北海道大学大学院理学研究科物理専攻博士課程修了。博士(理学)。
北海道大学理学部物理学科助手、名古屋大学工学部応用物理学科助手、
関西学院大学理学部物理学科助教授を経て2002年から現職。専門は回折物理学、表面物理学。

社会に貢献する、新しい理学部として

新しい理学部は社会に貢献する研究・教育を推進

関西学院大学の理系学部は、1961年に西宮上ケ原キャンパスに設置された旧理学部からスタートしました。その後、2002年、神戸三田キャンパスへの移転を機に、応用系の学科を新設し、名称も理工学部に変更されました。以来、年々学科数を増やし、理系人材の育成に力を入れてきました。学科増によって工学、理学、生命科学と核になる学問分野がそろったことから、理工学部を分離・再編。2021年に数理科学、物理・宇宙、化学の3学科を擁する新しい理学部が新設されます。いわば原点回帰とも言える新しい理学部ですが、この領域の重要性はますます高まっています。以前の理学部の一般的なイメージは「世の中でわかっていないことを解明する」学部というもので、工学や薬学、情報学などほかの理系領域に比べて産業とのかかわりは少ないとされてきたと思います。しかし現代の最先端技術や機能性材料の開発、量子コンピュータなどの情報技術、環境保全などにおいて、理学の研究が果たす役割は大きくなっています。「謎を解明して、知的好奇心を満足させる」という理学の魅力は変わることはありませんが、より私たちの社会に密接なものになるはずです。

科目間の垣根を低くし、両方を学ぶ

2019年度のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池開発にかかわる研究でした。自然界に存在する多くの元素の中からなぜリチウムを電池の材料に使うのかについては物理学的見地から答えを得ることができます。その一方で、安全かつ高性能を発揮する電池材料の化合物の開発は化学主導で達成されたものです。また合成された化合物が本来の性質を失う場合(劣化)の理由の解明や、電池材料としての最適な形態の決定には化学や物理の知見を総合したシミュレーション(計算)が役立ったものと思われます。このように実際の研究では物理と化学と数学、基礎と応用を行き来することが多いため、新しい理学部では、少なくとも2年生までは数学、物理、化学の基礎を積極的に学んでもらいます。宇宙に関する研究が充実しているのも特徴の一つ。電波、赤外線、X線という宇宙物理学のいわゆる主要三分野をすべて学べる私立大学は、数少ない存在でしょう。基礎数学や応用数理の分野においてもハイレベルな研究を推進します。外部との連携を強化しているのも大きな特徴です。SPring-8や産業技術総合研究所(AIST)、JAXAや国立天文台、国内外の大学との共同研究を推進します。

当たり前のことに疑問を持つことが大切

以前よりも社会とのかかわりが強くなった理学ですが、理学部の使命の根本は「知的好奇心に応える」ことだと私は考えています。世の中の解明されていない謎を解くことに面白さを感じて欲しいのです。そのためには自分の頭で一から考える姿勢、研究が暗礁に乗り上げても諦めずに続ける粘り強さ、自分の専門分野に加え他分野の知見も生かすという柔軟性が必要です。例えば宇宙に関していえば、簡単に宇宙に行って実験ができるわけではありません。観測して得られたデータを総合的に分析し、それを元に自分で一から考えなければなりません。「当たり前のことに疑問を持つ」という姿勢も欠かせません。人間は有史以来ガラスを使ってきましたが、なぜガラスが存在するのかを物理学的に説明するのは実はかなり難しい。世の中には「うまくいったから製品として使っている」にもかかわらず「そもそもなぜそれができたのか、どのように機能しているのか」については、分からないことも少なくないのです。新しい理学部には、知的好奇心を満足させる学びがそろっています。皆さんには「当たり前」と思われていることにも疑問を持ち、新しい謎の解明に挑戦して欲しいと願っています。