研究事業
[ 編集者:手話言語研究センター 2022年4月19日 更新 ]
2022年度の研究活動
本研究では、本学人間福祉学部の日本手話受講生を対象に、同授業を通して、受講生の文化的多様性のコンピテンスが向上したかどうかを測定するために、文化的多様性コンピテンスの尺度開発を行うことを最終の目的とする。ただし、実証研究という意味では、コロナ禍のために実質的な進展がないままであり、かつ当面はこの状況が続くことになると思われる。そこで2021年度と同様に2022年度も文献研究を中心に行い、もって実証研究への準備期間として位置づけたい。
なお、これまでにおいて、文献研究で超多様性を理論的枠組みの軸に置き、手話教育が超多様性という意味では有利なポジションにあることを主張してみた。引き続き、超多様性と手話との関連について先行研究レビューを試み、理論的な深化を目指す。それと並行して、手話授業を履修した学生の文化的多様性コンピテンスを超多様性の面で練り直し、その構成概念化を目標にしたい。
本研究では、日本手話話者同士の相互行為の分析を行い、音声言語による相互行為との比較を通して、日本手話特有の相互行為の資源を会話分析の手法を用いて明らかにすることを目指す。特に、日本手話会話での順番交替において用いられているマルチモーダルな資源を特定し、音声言語(日本語)による会話との比較を行う。
これまで収集した、関西学院大学「日本手話」の授業を収録したデータや、学生個人の表出データがまだ分析途中であるため、2022年度はこれまでのデータの分析を継続し、日本手話の第二言語習得について調査を行う。特に、指さしの習得および、IP(Intonational Phrase)末でどのようなプロソディック要素が現れるかを中心に分析する。
乳幼児のろう児をもつ聴者の親に特化した手話指導カリキュラム作成チームとして多方面の専門家に入っていただき、これまでの手話指導データを参考にしながら、乳幼児のろう児をもつ聴者の親を対象とした手話指導カリキュラム案を15回分作成する。
日本手話と日本語のバイリンガル・バイモーダルな家庭環境に聞こえる子ども(ろう児の兄弟姉妹)がいる場合、その子は両方の言語にふれて育つバイモーダル児となる。バイモーダル児やバイモーダル話者の言語使用の状況を把握し、その認知的なメカニズムを明らかにすべく、バイモーダル児の言語使用や言語習得について研究を進める。
日本手話の文末指さしの統語的特性に関する研究を行う。これまでの研究では、文末指さしが代名詞的要素ではないことが明らかになった。2022年度においても、言語類型論的観点から、文末指さしと一致形態素の関連性を精査する。特に、Miyagawa (2017) Agreement Beyond Phi. MIT Press.の理論を参考にしながら、CP領域における一致現象(topic agreement等)が表出したものが文末指さしであるという仮説を設定し、それについて研究を進める。
2020年度から、コーダ(ろうの親を持つ聞こえる子ども)だけでなく、ろう者やろう児も研究対象に含めながら、他の言語的マイノリティ・障害マイノリティとの比較研究にも着手している。2022年度は、比較研究からこれまでにわかってきた事柄を「共生」という視点から位置付け直し、コーダやろう児・ろう者にとっての言語的共生には何が求められるのかを調査する。
消滅危機言語の記録として不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスを構築する。不就学ろう者や離島で生活するろう者の言語生活を明らかにするために、手話コミュニケーションの撮影データを収集し、手話の生成過程(武居,2008)の内どこに値するかを分析する。
科研費採択状況
代表者 | 研究課題 | 研究種目 | 研究期間(年度) |
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下谷 奈津子 | 日本手話のプロソディ-(韻律)要素の性質とその習得:手話学習者のストラテジー | 基盤研究(C) | 2019~2022 |
平 英司 | 日本語と日本手話のバイリンガル児の言語使用に関する質的調査 | 基盤研究(C) | 2020~2024 |
前川 和美 | ろう児をもつ聴こえる親への手話指導法に関するカリキュラム開発 | 基盤研究(C) | 2021~2023 |