研究事業

2022年度の研究活動

「超多様性の観点から見た、日本手話授業受講生の文化的多様性の構成概念について」 松岡克尚(センター長 人間福祉学部教授)

本研究では、本学人間福祉学部の日本手話受講生を対象に、同授業を通して、受講生の文化的多様性のコンピテンスが向上したかどうかを測定するために、文化的多様性コンピテンスの尺度開発を行うことを最終の目的とする。ただし、実証研究という意味では、コロナ禍のために実質的な進展がないままであり、かつ当面はこの状況が続くことになると思われる。そこで2021年度と同様に2022年度も文献研究を中心に行い、もって実証研究への準備期間として位置づけたい。
なお、これまでにおいて、文献研究で超多様性を理論的枠組みの軸に置き、手話教育が超多様性という意味では有利なポジションにあることを主張してみた。引き続き、超多様性と手話との関連について先行研究レビューを試み、理論的な深化を目指す。それと並行して、手話授業を履修した学生の文化的多様性コンピテンスを超多様性の面で練り直し、その構成概念化を目標にしたい。
 

「日本手話による相互行為の分析」 森本郁代(センター副長 法学部教授) 

本研究では、日本手話話者同士の相互行為の分析を行い、音声言語による相互行為との比較を通して、日本手話特有の相互行為の資源を会話分析の手法を用いて明らかにすることを目指す。特に、日本手話会話での順番交替において用いられているマルチモーダルな資源を特定し、音声言語(日本語)による会話との比較を行う。
 

「日本手話学習者による日本手話習得プロセス」 下谷奈津子(研究特別任期制助教)

これまで収集した、関西学院大学「日本手話」の授業を収録したデータや、学生個人の表出データがまだ分析途中であるため、2022年度はこれまでのデータの分析を継続し、日本手話の第二言語習得について調査を行う。特に、指さしの習得および、IP(Intonational Phrase)末でどのようなプロソディック要素が現れるかを中心に分析する。
 

「ろう児をもつ親への手話指導に関する研究」 前川和美(研究特別任期制助教) 

乳幼児のろう児をもつ聴者の親に特化した手話指導カリキュラム作成チームとして多方面の専門家に入っていただき、これまでの手話指導データを参考にしながら、乳幼児のろう児をもつ聴者の親を対象とした手話指導カリキュラム案を15回分作成する。
 

「日本語と日本手話のバイモーダル児の言語使用に関する研究」 平英司(専門技術員)

日本手話と日本語のバイリンガル・バイモーダルな家庭環境に聞こえる子ども(ろう児の兄弟姉妹)がいる場合、その子は両方の言語にふれて育つバイモーダル児となる。バイモーダル児やバイモーダル話者の言語使用の状況を把握し、その認知的なメカニズムを明らかにすべく、バイモーダル児の言語使用や言語習得について研究を進める。
 

「日本手話の文末指さしに関する統語的研究」 今西祐介(研究員 総合政策学部教授)

日本手話の文末指さしの統語的特性に関する研究を行う。これまでの研究では、文末指さしが代名詞的要素ではないことが明らかになった。2022年度においても、言語類型論的観点から、文末指さしと一致形態素の関連性を精査する。特に、Miyagawa (2017) Agreement Beyond Phi. MIT Press.の理論を参考にしながら、CP領域における一致現象(topic agreement等)が表出したものが文末指さしであるという仮説を設定し、それについて研究を進める。
 

「ろう児・ろう者・コーダと言語的共生」 中島武史(客員研究員 兵庫教育大学特別支援教育専攻講師)

2020年度から、コーダ(ろうの親を持つ聞こえる子ども)だけでなく、ろう者やろう児も研究対象に含めながら、他の言語的マイノリティ・障害マイノリティとの比較研究にも着手している。2022年度は、比較研究からこれまでにわかってきた事柄を「共生」という視点から位置付け直し、コーダやろう児・ろう者にとっての言語的共生には何が求められるのかを調査する。
 

「消滅危機言語の記録として不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスの構築」矢野羽衣子(客員研究員 一般社団法人日本ろう福音協会)

消滅危機言語の記録として不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスを構築する。不就学ろう者や離島で生活するろう者の言語生活を明らかにするために、手話コミュニケーションの撮影データを収集し、手話の生成過程(武居,2008)の内どこに値するかを分析する。
 

科研費採択状況

代表者 研究課題 研究種目 研究期間(年度)
下谷 奈津子 日本手話のプロソディ-(韻律)要素の性質とその習得:手話学習者のストラテジー 基盤研究(C) 2019~2022
平 英司 日本語と日本手話のバイリンガル児の言語使用に関する質的調査 基盤研究(C) 2020~2024
前川 和美 ろう児をもつ聴こえる親への手話指導法に関するカリキュラム開発 基盤研究(C) 2021~2023

国際連携事業

プロジェクト手話

「プロジェクト手話」は、日本財団、香港中文大学、Google、関西学院大学による共同プロジェクトです。一般的に普及しているパソコンやスマートフォンのカメラを用いて、手話による自然な会話を認識し、音声言語に変換できる自動翻訳モデルの開発を目指しています。 プロジェクトの中間成果として、2021年には、より身近に、より気軽に手話の学習を始められる教材として開発した手話学習ゲーム「手話タウン(PC版)」をリリースしました。今後、手話辞書の作成を経て、自動翻訳モデルの開発を目指します。

手話タウンついて


手話タウンとは

●本センターが開発に協力した、AIが手話表現を認識する手話学習ゲーム
ゲーム内では、手話が公用語の架空の町を舞台に、カメラに向かって実際に手話でアイテムを指示しながら、様々なシチュエーションに沿った手話をゲーム感覚で学ぶことができます。また、手話に触れたことがない人から日常的に手話を使う人まで幅広く対象とされています。

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「プロジェクト手話」 2022予告編(YouTube)

ウェビナー

手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画(全5回)


ウェビナーとは

手話言語学の社会的認知と理解を進めることを目的に、手話を研究しているアジア諸国の5つの大学と連携し、手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画を配信しています。
日本手話、日本語字幕が付いています。ぜひご覧ください。

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手話言語学講座

「手話言語学講座(全18講座)」日本手話および日本語への翻訳

香港中文大学を中心に作成された「手話言語学講座(全18講座)」の日本手話および日本語への翻訳をすすめています。現在、第1講座から第10講座(音韻論・形態論)を公開しています。日本手話、日本語字幕が付いています。ぜひご覧ください。

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