研究事業

2024年度の研究活動

「文化的コンピテンスの構成概念に関する研究」 松岡克尚(センター長 人間福祉学部教授)

本研究では、本学人間福祉学部の日本手話受講生を対象に、同授業を通して手話言語を学ぶことで、受講生の文化的多様性のコンピテンスが向上したかどうか、またそれが他言語を学んだ場合と比較して何か特徴があるのかを測定することを最終目標にして、文化的多様性コンピテンスの尺度開発を行うことを目的としている。これまで文化的多様性に関する文献研究のレビューを進め、文化的コンピテンス概念に関連する議論をまとめることができた。さらに、NASW(全米ソーシャルワーカー連盟)による“Standards Indicators of Cultural Competence in Social Work Practice”の検討を行い、ソーシャルワーカーなどの専門職に求められる、多文化共生における多様性へのコンピテンスの構成についての理解を深めた。今年度は、引き続き先行研究レビューを実施し、専門職ではない一市民に求められる文化的多様性コンピテンスの構成概念を明確にする作業を果たし、その理論モデルを構築することを目指す。可能であれば、その理論モデルに沿って尺度化を試み、Web調査を通してデータを収集、分析するまでに進めることが出来ればと考える。

「日本手話における統語と談話のインターフェイスに関する研究」 今西祐介(センター副長 総合政策学部教授) 

本年度は、日本手話における統語と談話のインターフェイスに関する研究を継続して行う予定である。特に、日本手話のエビデンシャリティー(evidentiality)の研究を中心に行う予定である。日本手話のモダリティー表現を扱った研究であるMatsuoka et al. (2022)の知見を基に、日本手話のエビデンシャリティーの記述と分析を進める予定である。それと併行して、昨年度に実施した、奄美語喜界島方言のエビデンシャリティーに関する研究を基に、当該言語と日本手話の比較研究も行う予定である。これにより、エビデンシャリティーに関する音声言語と手話言語の比較研究が可能になることが期待される。具体的には、Miyagawa (2022)の研究において、CP領域の上位にエビデンシャリティーや発話行為(speech act)を司る投射が存在すると提案されている。申請者の奄美語に関する研究においても、エビデンシャリティーとCP以下の統語領域との関連性を示唆する研究結果が出てきていることから、日本手話との比較統語的研究を実施したいと考えている。研究を遂行するにあたり、日本手話母語話者の協力の下、データを収集・分析する予定である。

「日本手話のプロソディ、手話学習者による日本手話のプロソディ習得プロセス」 下谷奈津子(主任研究員 特別任期制助教)

2023年度の研究調査より、日本手話の音韻パラメータの1つである「動き」は、日本手話のプロソディ習得に大きく影響を及ぼすことが分かり、また、手話学習者は「動き」のエラーが他の音韻パラメータ(位置・手型)よりも多いことが分かった。そこで2024年度は、手話学習者(M2L2学習者)の音韻認知力を調査し、M1L2学習者とも比較する。また、2023年度に引き続き香港手話と日本手話のプロソディについても比較分析を行う。

「ろう児をもつ親への手話指導に関する研究」 前川和美(主任研究員 特別任期制助教) 

2023年度の研究活動として、ろう児をもつ聴こえる親を対象とした手話指導について、手話指導チームでカリキュラムについての再検討会を行った。その結果をふまえ、2024年度は、絵本の手話語りに焦点をあて、絵本の手話語りを行ったデータ撮影を分析し、より充実したカリキュラム開発を試みる。

「日本手話による相互行為の分析」 森本郁代(研究員 法学部教授)

本研究では、日本手話話者同士の相互行為の分析を行い、音声言語による相互行為との比較を通して、日本手話が相互行為の資源としてどのように用いられているのかを会話分析の手法を用いて明らかにすることを目指す。 昨年度に引き続き、千葉大学の堀内靖雄准教授とともに研究を行い、堀内准教授が所有しているろう者の二者会話のデータを対象とし、特に、日本手話における円滑な順番交替を達成するのに用いられているマルチモーダルな資源について明らかにし、音声言語(日本語)との比較を行った上で、手話言語の話者交替の秩序を解明する。

「手話言語の空要素に関する習得研究」 山田一美(研究員 工学部教授)

今年度は、昨年度に実施した第二言語としての日本手話習得の実験で使用した実験アイテムの改良に向けて進めていきたい。また、昨年の調査で得られた実験群(関学の日本手話クラスを受講する2年生)データとの比較のため、日本手話を母語とするろう者の方を対象とした統制群データを収集する。さらに、インタビューもさせていただき、今後の実験アイテムの改良のためにフィードバックをいただく。引き続き、先行研究を進め、日本手話の研究や世界における手話研究について知見を得る。

「日本手話と日本語、ろう者と聴者の接触場面における諸現象の分析」 平英司(客員研究員 国立民族学博物館 人類基礎理論研究部プロジェクト研究員)

本研究では、日本手話と日本語、及びろう者と聴者の交差点において生じる言語接触や文化接触についての諸現象をみていくものである。具体的には、①ろう者と聴者が共存する家庭での言語切り替えや②聴者が手話学習をすすめる上での課題の分析、③ろう者と聴者のコミュニケーションの様相などについて研究をすすめる。

「ろう児・ろう者・コーダと言語的共生」 中島武史(客員研究員 兵庫教育大学 特別支援教育専攻 准教授)

学術的に見ても、手話言語を対象にする言語学である手話言語学が活発化し、手話言語独自の文法機能の解明を通してその言語的特徴が明らかにされてきている。2023度は、コーダを対象にしたアンケート調査の分析を進めた。2024年度は、データの分析をさらに進めながら、新たなインタビュー調査を実施する予定である。

「不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスの作成および日本手話との比較、ろうコミュニティの手話と地域手共有手話の比較」
  矢野羽衣子(客員研究員 総合研究大学院大学博士課程)

不就学のろう者や離島で生活するろう者の言語生活を明らかにするために、手話コミュニケーションの撮影データを収集し、手話の生成過程(武居,2008)の内どこにあたるかを分析を継続する。不就学ろう者のデータは筑波技術大学大学院で収集したものを、地域共有手話は宮窪手話のデータを引き続き使用し、ソフトウェア「ELAN(バージョン6.3)を使用してアノテーション、分析を行う。ろうコミュニティの手話と、これまで書き起こしたを行った地域共有手話の比較を行う。

科研費採択状況

代表者 研究課題 研究種目 研究期間(年度)
平 英司 日本語と日本手話のバイリンガル児の言語使用に関する質的調査 基盤研究(C) 2020~2024
前川 和美 難聴児の手話療育体制整備に関する研究 厚生労働科学研究費補助金 2023~

国際連携事業

プロジェクト手話

「プロジェクト手話」は、香港中文大学「手話言語学・ろう者学研究センター」、日本財団、Google、本センターによる共同プロジェクトです。パソコンやスマートフォンのカメラを用いて、手話による自然な会話を認識し、音声言語に変換できる自動翻訳モデルの開発を目指しています。2021年9月に第一弾となる「手話タウン」をリリースし、2023年9月には第二弾となる「手話タウンハンドブック」をリリースしました(現在も継続して内容を更新中)。今後、手話辞書の作成を経て、自動翻訳モデルの開発を目指します。

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手話タウンハンドブックについて


手話タウンとは

●本センターが開発に協力した、手話の学習および手話の検索ができる学習アプリ
「食べ物」「感情」など、シーン別に収録されている手話単語を動画を見ながら練習したり、日本語から手話を、反対に手話に対応する日本語の意味をAI機能を使って両方から検索することができます。現在も更新中で今後さらに語彙を増やしていきます。

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手話タウンついて


手話タウンとは

●本センターが開発に協力した、AIが手話表現を認識する手話学習ゲーム
ゲーム内では、手話が公用語の架空の町を舞台に、カメラに向かって実際に手話でアイテムを指示しながら、様々なシチュエーションに沿った手話をゲーム感覚で学ぶことができます。また、手話に触れたことがない人から日常的に手話を使う人まで幅広く対象とされています。

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ウェビナー

手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画(全5回)


ウェビナーとは

手話言語学の社会的認知と理解を進めることを目的に、手話を研究しているアジア諸国の5つの大学と連携し、手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画を配信しています。
日本手話、日本語字幕が付いています。ぜひご覧ください。

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手話言語学講座

「手話言語学講座(全18講座)」日本手話および日本語への翻訳

香港中文大学を中心に作成された「手話言語学講座(全18講座)」の日本手話および日本語版が完成しました。 「言語学とは?」というイントロダクションから、音韻論・形態論・統語論・CLと、音声言語との比較や手話言語ならではの特性を言語学的側面から丁寧に解説しています。ぜひご覧ください。

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