研究事業
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2023年度の研究活動
本研究では、本学人間福祉学部の日本手話受講生を対象に、同授業を通して手話言語を学ぶことで、受講生の文化的多様性のコンピテンスが向上したかどうか、またそれが他言語を学んだ場合と比較して何か特徴があるのかを測定することを最終目標にして、文化的多様性コンピテンスの尺度開発を行うことを目的としている。これまで文化的多様性に関する文献研究を中心に進め、行政的なスローガンとしての多文化共生ではなく、「日本人/外国人」という二元論ではなく、「日本人」においてもまた文化的に多様であることを把握し、位置付けることの重要性を引き出した。今年度は、NASW(全米ソーシャルワーカー連盟)による“Standards Indicators of Cultural Competence in Social Work Practice”を参考にしてながら、またそれ以外の文献レビューを実施し、文化的多様性コンピテンスの構成概念を明確にする作業を果たし、もって実証研究への準備期間として位置づけたい。
本年度は、これまで申請者が行ってきた日本手話における統語構造に関する研究を基に、談話(ディスコース)に関連する現象の研究を行う予定である。まず、文末指さしと主題化(topicalization)の研究(内堀・今西・上田2023)を発展させ、異なるタイプの主題化の検証を行う。特に、マヤ諸語等の音声言語で確認されている二つのタイプの主題化(Aissen 2017)が日本手話をはじめとする手話言語においても見られるかを考察する。これにより、日本手話の統語構造におけるCP領域に関する理解が深まることが期待される。次に、日本手話のエヴィデンシャリティー(evidentiality)の研究を開始する予定である。話者の発話に関する確信度や情報源を明示するエヴィデンシャリティー要素が日本手話に見られるかを検証する。Miyagawa (2022)の研究では、CP領域の上位にエヴィデンシャリティーや発話行為(speech act)を司る投射が存在すると提案されている。申請者の音声言語の研究においても、エヴィデンシャリティーとCP以下の統語領域との関連性を示唆する研究結果が出てきていることから、日本手話の比較統語的研究を実施したいと考えている。
2022年度の研究調査より、日本手話のプロソディのうち、IP末におけるうなずきと手指表現の関係が明らかになってきた。2023年度は「構成素」に着目し、統語構造との関係性に注目し調査する。また、他のプロソディック要素も分析の対象とし、ネイティブサイナーと手話学習者の表出を比較しながら、日本手話のプロソディの更なる解明および学習者の習得プロセスの解明を目指す。
2022年度の研究活動により、ろう児をもつ聴こえる親を対象とした手話指導を行ったデータ撮影およびアンケート調査の結果や、手話指導チームでオンラインzoomによるディスカッションでカリキュラムについての検討会を行った結果をふまえ、2023年度は、手話指導を行ったデータ撮影を分析し、より一層のカリキュラム開発を行う。
手話単語 /終わる/ という形態素が空間のなかでどのような意味を持って活用されているのか、またそれは口形の違いや使用する手(片手・両手)の違いによって影響を受けるのかを質的に検証する。手話学習者、または手話指導者にとって有益なものとなればと考えている。
本研究では、日本手話話者同士の相互行為の分析を行い、音声言語による相互行為との比較を通して、日本手話が相互行為の資源としてどのように用いられているのかを会話分析の手法を用いて明らかにすることを目指す。昨年度に引き続き、千葉大学の堀内靖雄准教授とともに研究を行い、堀内准教授が所有しているろう者の二者会話のデータを対象とし、特に、日本手話における円滑な順番交替を達成するのに用いられているマルチモーダルな資源について明らかにし、音声言語(日本語)との比較を行った上で、手話言語の話者交替の秩序を解明する。
第二言語(L2)としての手話言語の習得についての先行研究・関係資料の収集および整理をし、一般化の作成を目指す。また、真偽値判断タスクを用いた予備実験準備を開始し、可能であれば、L2手話言語の学習者を対象とした予備実験データを収集したい。
言語を学び、その話者とコミュニケーションを円滑に取るためには、その言語話者の文化背景を知ることも重要である。例えば、手話検定試験や手話通訳士試験においても、手話の言語能力以外に、手話やろう者に対する知識が問われている。しかしながら、手話の言語能力についての学習教材に比し、手話やろう者に関する知識を定着させるための学習教材は、紙面での問題集がいくつかある程度である。そこで、本研究では、手話やろう者に関する知識の強化のための教材を開発を試みる。
昨年度は、関西圏の聴覚支援学校高等部の生徒から得たデータを分析した。具体的には、ろう者の親はコーダに手話を継承するのかという点についてアンケート調査を行った。2023年度はデータの分析を進めながら、可能なら新たなインタビュー調査を実施する予定である。
地域手話話者で不就学のろう者や離島で生活するろう者の言語生活を明らかにするために、手話コミュニケーションの撮影データを収集し、手話の生成過程(武居,2008)の内どこにあたるかを分析する。不就学ろう者のデータは筑波技術大学大学院で収集したものを、地域共有手話は宮窪手話のデータを引き続き使用し、ソフトウェア「ELAN(バージョン6.3)を使用してアノテーション、分析を行う。ろう者と今年度収集する聴者のジェスチャーと、これまで書き起こしたを行った地域共有手話の比較を行う。
科研費採択状況
代表者 | 研究課題 | 研究種目 | 研究期間(年度) |
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下谷 奈津子 | 日本手話のプロソディ-(韻律)要素の性質とその習得:手話学習者のストラテジー | 基盤研究(C) | 2019~2022 |
平 英司 | 日本語と日本手話のバイリンガル児の言語使用に関する質的調査 | 基盤研究(C) | 2020~2024 |
前川 和美 | ろう児をもつ聴こえる親への手話指導法に関するカリキュラム開発 | 基盤研究(C) | 2021~2023 |
国際連携事業
「プロジェクト手話」は、香港中文大学「手話言語学・ろう者学研究センター」、日本財団、Google、本センターによる共同プロジェクトです。パソコンやスマートフォンのカメラを用いて、手話による自然な会話を認識し、音声言語に変換できる自動翻訳モデルの開発を目指しています。2021年9月に第一弾となる「手話タウン」をリリースし、2023年9月には第二弾となる「手話タウンハンドブック」をリリースしました(現在も継続して内容を更新中)。今後、手話辞書の作成を経て、自動翻訳モデルの開発を目指します。
MORE手話タウンハンドブックについて
●本センターが開発に協力した、手話の学習および手話の検索ができる学習アプリ
「食べ物」「感情」など、シーン別に収録されている手話単語を動画を見ながら練習したり、日本語から手話を、反対に手話に対応する日本語の意味をAI機能を使って両方から検索することができます。現在も更新中で今後さらに語彙を増やしていきます。
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手話タウンついて
●本センターが開発に協力した、AIが手話表現を認識する手話学習ゲーム
ゲーム内では、手話が公用語の架空の町を舞台に、カメラに向かって実際に手話でアイテムを指示しながら、様々なシチュエーションに沿った手話をゲーム感覚で学ぶことができます。また、手話に触れたことがない人から日常的に手話を使う人まで幅広く対象とされています。
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手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画(全5回)
手話言語学の社会的認知と理解を進めることを目的に、手話を研究しているアジア諸国の5つの大学と連携し、手話言語学、ろう文化、ろう研究等に関する講演動画を配信しています。
日本手話、日本語字幕が付いています。ぜひご覧ください。
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「手話言語学講座(全18講座)」日本手話および日本語への翻訳
香港中文大学を中心に作成された「手話言語学講座(全18講座)」の日本手話および日本語版が完成しました。 「言語学とは?」というイントロダクションから、音韻論・形態論・統語論・CLと、音声言語との比較や手話言語ならではの特性を言語学的側面から丁寧に解説しています。ぜひご覧ください。
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