倉島 哲教授(1)

[ 編集者:社会学部・社会学研究科      2015年12月15日   更新 ]

日常の違和感から研究者の道へ

社会学との出会いはどのようなものでしたか?

倉島教授1

小学4年生の夏休みまでの5年半をアメリカで過ごしてから帰国したことで、「日本的なもの」に対する関心が芽生えました。
当時は、欧米人と比べて日本人がどれだけ特殊であるかを論じた日本文化論がまだ盛んだったこともあり、日本文化論研究のために社会学を選択しました。
とはいえ、大学3年生の専攻選択のときは、社会学と英文学のどちらを取るかで相当悩みました。英文学に進めば、得意だった英語を活かせると思ったのです。決めかねて、当時英語科目を担当してくださっていた外国人講師の先生に相談に行きました。「何を専攻しようと、専門書を読むために必ず英語は使うことになるので、自分がやりたいことをやったらいい」とアドバイスをいただいたことが社会学専攻に決めるきっかけになりました。
それにくわえて、当時はまだ大学院に進学することは決めていなかったので、文学よりは社会学のほうが就職に有利かなという見通しもありました。

アメリカでの生活について教えてください。

4歳の時に渡米して10歳で帰国するまでアメリカの小学校に通っていました。
現在ほど在米日本人は多くなく、クラスに日本人は私一人だけだったため、周りの友人からは日本代表として見られていました。それで、私も日本人として恥ずかしくないように、いかにも日本的に振る舞うよう気をつけていました。折り紙なども披露しましたよ。
しかし、たとえば総理大臣のように、日本国民の代表として選ばれたわけでもない私が日本を代表するのは、考えてみればおかしな話です。その違和感は今でも覚えています。

日本とアメリカの違いは感じましたか?

帰国してからは、絵に描いたようなカルチャーショックを受けました。
例えば、アメリカの小学校では、先生が質問したら生徒がみな我先にと手を挙げるのが普通ですが、日本ではなかなか手を挙げず、先生に当てられてから渋々ながら答えますね。だから、答えを分かっていても分からないふりをして、モジモジしていないといけないんです。
中学、高校へと進学するにつれて、こうした身ぶりも上手になって、ほかの友人と違った振る舞いをすることは減りました。まあ、今でもどこまで上手になったかはわかりませんが、大人になるにつれ、周囲と同じでなくてはならないという圧力が減って、過ごしやすくなったことは確かです。

どのような学生時代でしたか?

「日本的なもの」とは何なのだろう、という関心から、当初は日本人論や日本文化論を学びました。周りに勉強のできる友人が多く、本を読んでいないと恥ずかしいという空気があったので、本をたくさん読んでいましたね。
また、「日本的なもの」への憧れのような感覚から、武道に興味をもち、高校では弓道部に、大学では居合道部に入部しました。ただ、居合道の稽古を通じて、居合道の型が形骸化しているような気がしてきたのです。例えば、同じ型の演武にしても、昇段審査の時には精密に間違えずに、個人演武の時には迫力で負けないように、集団演武の時には目立つように大きく動いて刀を抜くわけです。
このように、見せる相手に応じて変わってしまう型の反復によって、いったいどのような技が身に付くのか、という疑問が芽生えました。本来の型、見せるための型ではない型とは何か、という関心から、伝統武術の継承者である黒田鉄山先生や、武術研究家の甲野善紀先生の著作を読みました。
その頃、ちょうど、柔道について研究されている文化社会学の井上俊先生が着任されたことが幸運して、卒業論文では、世俗的な意味づけに依存しない型と技の可能性について考察することができました。

武道に興味をもったキッカケを教えてください。

ひとつは、武道こそ、私が憧れていた「日本的なもの」を体現しているものに見えたことと、もうひとつは、スポーツに対する反発があります。
実は、スポーツはそれほど好きではありませんでした。
例えば、数学や英語のテストの成績は、上位者こそ貼りだされることはあっても、下位者まで全員が公表されることはありませんね。それに対して、徒競走やマラソン大会では、トップからビリまで、全員の身体が人目にさらされて、特に最後の方は、それこそ周囲の視線が身体に突き刺さるのをひしひしと感じるわけです。身体が他者に見られて、一方的に評価されるという点では、野球やサッカーなどの他のスポーツも、運動会での組体操やダンスも同じです。
それに対し、武道には、人に見てもらって評価してもらうことを目指さないにもかかわらず、どんどん追求して深めてゆける身体の使い方があるような気がしたのです。

倉島教授のインタビューは(2)まで続きます!
(2)では先生の研究テーマであるスポーツと社会学の関係について詳しく伺います。

倉島 哲教授(2)関連ページへのリンク