陳 立行教授(2)

[ 編集者:社会学部・社会学研究科      2015年7月16日   更新 ]

移民問題からみる地域社会

来日後、具体的にはどのような勉強をしたのでしょうか?

陳教授

日本社会と中国社会とは似ている部分と似ていない部分があります。
人と人との関係性(ネットワークや集団)に関しては、日本では、樹木の年輪のように個人は様々なコミュニティに所属しているかたちで形成されているのに対して、中国はコミュニティがなく個人がそれぞれに直接に相手と繋がる社会的ネットワークをもっています。
1949年以降、中国では社会主義体制の下、政治的・経済的には厳しい管理制度が存在しますが、そうした環境の違いは個人の生活、また、中国人の従来の社会的なネットワークにどのように影響するだろうか、との問題意識をもって修士課程では中国の都市化の変遷について学び、博士課程では都市空間と社会ネットワークの関係性について、研究をすすめました。
中国の大学での非体系的、雑学的な学ぶ経験から、多様なものを吸収して蓄積しておけば、それが一定量に達したときに飛躍的に見える世界が広がることを体験したので、幅広いテーマに取り組むことかできたのだと思います。

国際機関での経験について教えてください。

国際連合地域開発センター(UNCRD)の国連研究員として働くことになったのは、運命的な出会いだったように思います。1990年大学院で博士号取得後、天安門事件により、帰国に懸念し、日本での就職を希望していましたが、国籍、言語、ジェンダーの面でハンディキャップが大きく難しかったところ、指導教官から国連研究員の募集を知らされました。幸運にも募集条件に合致していたため、採用が決定し、それから4年間、国際連合の組織のもとで、開発途上国で、地域の力を育てながら地域を発展させるかという事業に取り組みました。
大学院では様々な理論を学んでいましたが、現地に出向くとそこでの現実と如何に応用するかに戸惑うことも多くありました。例えば、子育ての環境整備、井戸や飲み水の確保、集会所の活用、などといった状況は現場により異なり、理論的な解答をそのまま実践の場に当てはめることはできません。UNCRDでの現場の仕事を通じて、具体的実情を見極めるうえで学問上の理論を応用するノウハウを身につけました。それは、現在の教育実践にもおおいに活かされています。

どのような授業をご担当ですか?

「移民・難民問題」、「コミュニティ論」などを担当しています。2つの科目は一見まったく違うことを勉強すると思われがちですが、実際は密接に関連しています。
「移民」というと出稼ぎ労働者というイメージを持つ学生が多いのですが、実際は、生活の場を他地域に移して定住する人のことを移民と言います。移民になる理由は戦争等強制的で受動的な難民から様々な理由で自発的な移民まで多様であり、どの移民にとっても定住した地域の生活者になり、そこでコミュニティ生活に大きな影響を与える存在となります。
日本は地理的に島国のため移民は日常的な存在ではありませんが、ヨーロッパなどの大陸国家にとっては移民が身近な的な存在であることを、日本の学生はなかなか想像できません。
今後、移民を考えるときは、「国際労働市場の変化」や「移民の循環移動」(例えば、BRICsなどの新興国から移民を受け入れた場合、スキル=技能を得た後は再度自国へ戻ることが多いのです)といった視点が重要であり、学生にはダイナミックな想像力を働かせて日本の「移民問題」について考えて欲しいと思います。
そのような想像力を育てるために、授業では討論形式を導入しています。例えば、移民を受け入れるべきか否かといったテーマで討論することで、学生はより真剣に移民のことを考えるようになります。

受験生へのメッセージをお願いします。

社会学は単純な公式や答えがない学問と言えます。
高校時代は狭い範囲の中で生活することが多いですが、現在の社会はとても多様で変化のスピードも速くなっています。そんな社会を生きるためには、多様な立場、多様な角度、多様な視点から物事を考える力が重要です。それを鍛える場として、本学部は素晴らしい環境を提供できると思います。
学生数の少ない国立大学を「川型」と喩えるなら、学生数が多く、多様性に溢れる学生が集まる私立大学は「海型」ということができます。主体的に海の中を進もうとする学生が入学してくることを期待しています。
また、大学入学はあくまで通過点であって目的地ではありません。
長い人生にチャレンジするために、大学では、知識の蓄積と能力の鍛えとともに、よい友人をみつけて欲しいと思います。