稲増 一憲 准教授(2)

[ 編集者:社会学部・社会学研究科      2015年5月28日   更新 ]

「問いを立てる」ことの重要性

最近の「政治」を研究テーマにしているとお聞きしました。

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大学院の指導教員から、当時の小泉内閣に関する調査データの分析を薦められて、いつのまにか政治の研究にかかわるようになりました。もともとの興味から外れて政治をテーマとして扱っている自分に対して迷う時期もありましたが、社会心理学の手法で政治を研究対象とすることで、政治学や国際関係論などを始めとする他の分野の研究者とも議論ができることが分かりました。
自分が身につけた社会心理学の手法が異なるバックグラウンドを持つ人々とのコミュニケーションの手段になった時の感動は、外国語を習得した時の感動に似ているかもしれません。また、彼らとの交流を通じて、有権者の大半が自分のように政治に特別な興味のない人であるのだから、政治学者ではなく、政治にあまり関わりのなかった社会心理学者の自分が研究することには意味があるに違いない、と思うようになりました。自分と異なるバックグラウンドを持った人と交流することで、自分自身を見つめ直すことに繋がったのだと思います。
なお、私の政治研究においては、社会調査や実験以外にテキストマイニングという手法を使っています。支持率などのデータは数値で示されることが多いのですが、世の中の多くの情報は数字ではなく言葉で表現されています。例えば、ネット上には言葉があふれているので、コンピュータを使用して大量の言葉の中からキーワードやパターンを掘り出す=マイニングすることができます。私はこの手法を用いて、メディアコミュニケーションと政治の関連を分析しています。

社会学部ではどのような授業をされているのですか?

メディア環境の変化が有権者にもたらす影響について授業をしています。
インターネットの普及は政治に対してどのような影響を及ぼすのでしょうか? 例えば「インターネットが普及することで政治への関心が高まる」といった単純な構造にはなりません。インターネットは政治に関心のある人にとっては政治情報を入手する有効なメディアとなる可能性がありますが、多くの人が政治に強い関心を持っているわけではない現状においては、時計代わりにつけているニュース番組など、マスメディアを通じた政治情報への接触も重要です。
今の学生は、マスメディアに対して何となく否定的=ネガティブな印象を持っているように思います。しかし、どのメディアにも利点と欠点はありますから、単にマスメディア=悪と判断してしまうのではなく、メディア環境と政治とのかかわりについて学ぶ中で、現代社会におけるメディアの役割や政治への影響に関する新たな視点に気づいてほしいと思っています。

先生のゼミでは社会調査をすると聞いています。どのようなことをするのですか?

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ゼミの様子

社会調査を実施する際には、解くべき「問い」を立てることからスタートします。「問いを立てる」ことが社会を調査する上で不可欠なのです。
そのためには日頃から「なぜ?」という疑問を持つことが大切です。それはシンプルな疑問でも何でも構いません。例えば、ゼミの学生たちが調査したのは以下のような疑問についてです。
・Jリーグの試合には興味がないのに、日本代表の試合となると興味をもつのはなぜだろう?
・政治家の街頭演説はうるさいだけだと思うけど、演説には本当に意味があるのだろうか?
・発展途上国に対する募金広告には、どのような場合に効果があるのだろう?
こうした問いを立てたら、次はその理由について仮説と呼ばれる仮の答えを考えてみます。そして仮説を検証するために、社会調査を行うのです。その結果、仮説を支持するデータを得られるのか、それとも支持しないデータが得られたのか。社会調査を実施すれば様々な結果が得られますが、仮説が支持されなかったからといって、それが必ずしも駄目なこととは限りません。
もし仮説が支持できなかった場合、なぜその仮説は支持されなかったのかを考えます。その結果、新たな問いや、調査を行う前には予想もしなかった発見につながることもあります。このように仮説をデータで検証しながら研究を深めていくステップは、とても面白いものです。

受験生へのメッセージをお願いします。

高校時代は数学が苦手で、教科書を壁に投げつけることもあるくらい嫌いでした。その理由は学ぶ意味が分からなかったからだと思います。でも大学で社会心理学を学ぶことで、数学は「勉強のための勉強」ではなくて、将来自分が「したいことをするための手段」となることが分かりました。
高校までの勉強は、どうしても受験勉強という側面が強調されて、それ以降の将来へのつながりを感じられないことが多いと思います。ですが、学んだことはいつかどこかできっと役に立つときが来ますので、教科書を壁に投げながらでも良いので諦めずに頑張ってください。
毎年約20名の学生の卒業論文を指導していますが、それぞれの問いが私にはない視点や関心をもとに立てられています。高校までに勉強したことや勉強以外の場面で経験したことがその人にしかない、「自分なりの問い」をたてることにつながっていると思います。高校時代に学べること、経験できることをぜひ大切にしてください。