ヴォーリズ研究センター

ヴォーリズの作品、思想、信仰を学術的に検証

ヴォーリズ,W.M.

1905年に来日したウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)は、1907年の八幡YMCA会館を処女作とし、1920~30年代を中心に1950年代にいたるまで多数の建築を残しています。伝えられる『ヴォーリズ建築事務所建築設計リスト』によれば、1400棟あまりの膨大な設計件数が数えられ、そのうち現在200あまりが歴史的建築として伝えられ、近年ではそれらの多くが文化財として維持されています。


「ヴォーリズ研究センター」では、ヴォーリズの残した膨大な建築資料のデジタルアーカイブ化、および新たな視点と手法の導入によるヴォーリズ研究のさらなる深化、さらにヴォーリズ建築を通した教育貢献・地域貢献を推進していきます。

研究センター設置の経緯

ヴォーリズの設計により1929年に開設された西宮上ケ原キャンパスは、背後の甲山山頂へ伸びる軸線を主軸としたシンメトリーな空間構成と、スパニッシュ・ミッション・スタイルの建築により統一されたキャンパス景観が特徴的です。この空間的特質はキャンパス整備の中で堅持され、長年にわたるキャンパス計画における空間的特質の継承と施設機能強化との両立は「伝統的キャンパスの発展的整備-関西学院・西宮上ケ原キャンパスのトータル・デザイン」として2017年日本建築学会賞(業績)を受賞しました。
1995年に開設された神戸三田キャンパスも、西宮上ケ原キャンパスのヴォーリズ建築を踏襲した学舎デザインによる統一的景観が形成されています。このように関学全体としてヴォーリズ建築を学びと探究の環境として受け継いでいく姿勢を持っていることが本研究センター設置の基礎にあります。

2021年4月に神戸三田キャンパスに建築学部が新設されました。これを契機として、関学のキャンパスデザインと建築設計に大きな役割を果たしたヴォーリズの作品、思想、信仰などについて学術的に改めて検証するとともに、ヴォーリズ資料の保存・保管およびその利活用の方法を検討すること、ヴォーリズ建築を通した教育貢献、地域貢献について検討していくことを大きな目的として、建築学部に「ヴォーリズ研究センター」が設置されました。

 

研究テーマ

1
膨大に残されているヴォーリズの建築設計図面の調査とデジタルデータ化の検討、ならびにヴォーリズ建築図面の全体像の把握と今後の活用に向けた整理と活用方法の検討。
2
データ化された図面資料に基づいた、ヴォーリズの建築作品における計画的特色、意匠的特色、構造的特色などの分析と検討。
3
アメリカにおけるスパニッシュ・ミッション・スタイル、スパニッシュ・リバイバルならびにクラフツ・ムーブメントの系譜におけるヴォーリズ建築の建築史的位置づけの検討。
4
アメリカのキャンパス計画の系譜におけるヴォーリズのキャンパスデザインの建築史的位置づけの検討。
5
キリスト教信仰に根ざしたヴォーリズの思想、活動の内実の解明と、それらの建築設計への反映に関する検討。
6
ヴォーリズ建築の保存再生および現代建築への継承ならびに都市再生・地方創生への効果に関する検討。
7
滋賀県、近江八幡市との連携・協力協定の下で、ヴォーリズの活動遺産を当地域における生きた近代文化遺産(リビングヘリテージ)として位置づける方法の検討。
これらの研究テーマは、

①他に類を見ない多くの建築作品を世に送り出したヴォーリズの膨大な資料をいかに保存、継承し、生きた資料として利活用していけるか。
②日本の近代建築史において重要な地位を築いたヴォーリズの建築作品と建築思想は、出身地アメリカを含めた西洋建築の歴史の中でどのように位置づけられるのか。
③現在も人々に愛され続けるヴォーリズ建築を、いかに保存再生させ、リビングヘリテージとして現代建築へと継承し、まちづくりに寄与させうるのか。

という、センター構想にあたって議論された問題意識に基づいています。
 

研究の目的と特色・独自性

本センターは、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880-1964)の建築を対象として、ヴォーリズ建築資料のデジタルアーカイブの構築、および新たな視点と手法の導入によるヴォーリズ研究のさらなる進展を大きな目的とします。
具体的には、前述した①~⑦の研究テーマに取り組みます。


後述する関連団体との緊密な協力関係のもと、ヴォーリズ建築の膨大な図面資料について、デジタルデータ化の実現を目指し、利活用可能なアーカイブを構築することが、本センターの大きな学術的独自性です。日本の近代建築の一翼を担ったヴォーリズの建築資料、特に図面資料のアーカイブを構築することは、ヴォーリズ研究のみならず、今後の近代建築史研究にとっても大きな可能性と創造性を持ちます。

研究テーマ③のヴォーリズ建築をアメリカ建築史さらに西洋近代建築史の視点から位置づけようとする研究や、研究テーマ④のキャンパス計画に着目した建築群としてのヴォーリズ作品の史的位置づけに関する研究はこれまでほとんどなされておらず、これも本センターの独自性であり、ヴォーリズ建築を軸に日本近代建築史とアメリカ近代建築史を実証的に接続させる創造性を持ちます。ヴォーリズによるキャンパスの設計思想を詳細に明らかにすることは、リビングラボラトリとしてキャンパスをまちに開くあり方が議論される中で、キャンパスと都市の関係の再構築や、まちづくりの新たな拠点としてキャンパス空間を位置づける上で大きな示唆を与えることができます。

研究テーマ⑥、⑦も本センターの特色であり、ヴォーリズ建築を含めた近代建築をリビングヘリテージとして継承していく方法について、建築物本体に対する検討に加え、都市計画制度や市民活動の観点から検討を加える点に独自性があります。ヴォーリズの建築活動は20世紀初期において全国に及びますが、とりわけ近江ミッション(後の近江兄弟社)のキリスト教活動と軌を一にして、琵琶湖を囲む湖国に根づき特色を有しています。滋賀県、近江八幡市との連携・協力協定の下で、当地域でヴォーリズの活動遺産を近代文化遺産として位置づける方法を検討することは、研究成果を通じた社会貢献につながると考えます。

本センターの研究は、建築学部に所属する都市計画分野の角野、建築計画分野の山根、建築史分野の石榑、人物研究分野の谷口が中心となり、研究協力者としてヴォーリズ建築研究の第一人者である山形政昭氏、ヴォーリズ建築の設計思想を継承する中山献児氏の参画を得て実施します。建築史研究者だけでなく、建築設計、建築計画、都市計画さらに人物研究分野の研究者が共同することに独自性があり、これまでのヴォーリズ研究に新たな視点と建築学分野を超えた広がりと創造性をもたらすことを目指します。

本センターでの研究活動を通じて、ミッションスクールとして発展してきた関学のユニバーシティ・アイデンティティ(UI)を学術的側面から検証、深化させることを目指します。

研究成果の公表と連携体制

ヴォーリズ建築資料のアーカイブについては、完成後WEB上に公開し、広くアクセスできるように整備します。研究成果は論文、書籍などで順次発表するとともに、定期的に研究会やシンポジウム、ワークショップ等を開催し、関連研究者や団体、また市民に向けた発表と議論の場を設けます。

また、山形政昭教授や、中山献児所長に参画いただくことで、膨大な建築図面資料の保存、利活用に関する協力とアドバイスを得るとともに、お二人のネットワークを活用した多彩な研究者、実務家との研究交流を図ります。さらに関学博物館、図書館との連携も図りながら、センターの活動を推進していきます。

滋賀県および近江八幡市との連携

滋賀県および近江八幡市と関西学院大学は、ヴォーリズの功績および建築等を通じた協働事業に取り組むため、2022年3月9日に連携協定を締結します。
「ヴォーリズ建築の研究と保存」「ヴォーリズ建築を活用した地域活性化・観光振興」「ヴォーリズを通じた教育振興・交流」を連携事項とし、近江八幡市に多く存在するヴォーリズ建築を対象とした実地研究や、学生のアイデアを生かしたまちづくり、観光ルートの開発、市民・県民と学生の交流など、様々な分野での協働事業を実施していきます。

近江兄弟社グループとの連携

2019年12月に(学)関西学院と、(学)ヴォーリズ学園、(公財)近江兄弟社、(株)近江兄弟社、(株)一粒社ヴォーリズ建築事務所など近江兄弟社グループ6法人との間で締結された、社会貢献や相互交流等に関する包括連携協定に基づいて、近江兄弟社関連法人が保有する多数の建築関連資料、ミッション関連資料の利用についてご協力を得ます。
 

メンバー

角野 幸博
センター長
建築学部 教授

山根 周
研究員
建築学部 准教授

石榑 督和
研究員
建築学部 准教授

谷口 真紀
研究員
建築学部 准教授

山形 政昭
研究員
関西学院大学 国内客員教授

中山 献児
研究員
(株)一粒社ヴォーリズ建築事務所 代表取締役所長