2019.08.30.
「被災者総合支援法案」の策定について

 災害復興制度研究所は、事前の備えから被災後に生活再建するまで切れ目のない被災者支援を実現するため「被災者総合支援法案」をまとめ、29日に兵庫県庁の県政記者クラブで発表しました。災害発生後のフェーズとしては「応急対応期」「復旧期」「復興期」といわれますが、その中で最も脆弱である復興期の法制度を充実させるため、災害復興制度研究所は2010年1月に理念法として「災害対策基本法・試案」を発表しました。この基本法をもとに実定法として策定したのが今回の法案であり、2016年度から32回にわたって研究所に設置する法制度研究会で議論を重ねてきました。

 災害が起きるたび新たな法律が制定されてきましたが、制定の時期や背景が異なるため継ぎはぎだらけの災害法制になっています。そのため、制度から外れた人は被災者と見なされず、支援の枠から漏れて切り捨てられてきました。被災者総合支援法案では被災者の自己決定権を重視し、支援内容の決定過程に参画できる仕組みにしたうえで、オンブズマン制度を設けて支援措置に対する不服申し立ての権利も保障しています。

 具体的には仮設住宅の提供などの根拠となる「災害救助法」、遺族や重度障害を負った人に見舞金を支給する「災害弔慰金支給等法」、全壊世帯に最大300万円を支給する「被災者生活再建支援法」を再構築して一本化し、災害対策基本法の一部を取り込んで6編で構成しています。第1編「総則編」、第2編「応急救助編」、第3編「生活保障・生活再建編」、第4編「情報提供・相談業務・個人情報編」、第5編「権利保障編」、第6編「その他項目 附則」の構成です。

 被災者自らが支援内容の決定に参画できる仕組みとしては、行政や自治会など共助組織による「被災者支援運営協議会」を平時から設置して被災者支援計画を策定し、発災後は実施方針として運用します。応急救助の基準として、過去に採用された「特別基準」の公表を義務付け、「一般基準」化して協議を要することなく届出だけで実施可能とすることを盛り込んでいます。

災害関連死を防ぐため、避難環境の改善を目的として応急救助期にはホテルや旅館での宿泊支援を制度化するとともに、一定期間は家賃補助制度を導入します。被災者の居所確保に関してはこれまで「避難所―仮設住宅―復興公営住宅」という単線型の施策が主だったが、多様な支援策を設けることで被災者の選択できる幅を広げることになります。

 住宅の修理制度を拡充し、一部損壊以上の世帯が避難所に行かなくてすむようにする「居住応急修理」として上限100万円、仮設住宅の代替措置として半壊以上の世帯に「居住安定修理」として上限300万円を支給します。住宅の再建・購入に対する支援では、全壊世帯および半壊かつ解体の世帯に最大600万円を支給する内容になっています。住み慣れた家で暮らせるようにして、仮設住宅の建設コストを抑えることにも繋がります。

 被災者総合支援法案・要綱をホームページで公表しており、次号の「災害復興研究 Vol.11 2019」には被災者総合支援法案の要綱・コンメンタールを掲載する方針です。(野呂雅之)

【添付資料】
被災者総合支援法案・要綱

【掲載記事】
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