重力理論研究室

岡村 隆 (おかむら たかし) 教授

重力理論研究室

研究分野:
重力理論、相対論的宇宙論、場の理論、ゲージ/重力対応
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重力理論研究室では、一般相対性理論や場の量子論を武器に、対象にこだわらず研究しています。私自身や大学院生が行う研究は、自分たちのもつ武器や経験を活かせる重力や場の量子論が関わる問題を研究対象にすることが多いですが、卒業研究では、物理学に関わる問題であれば、「研究室名」にこだわらずに何でも取り上げることにしています。

例えば、"日常の物理学"とでも言うような、「ラトルバック現象」や「切り紙の力学」をテーマにした卒業研究を行った学生もいます。ラトルバック現象とは、回転方向に選り好みが生じる現象で、ある物体を"苦手な"方向に回転させると、いつの間にかカタカタと音を立てて回転が止まり、やがて"好みの"方向に回り出すという現象です(インターネットで検索すれば様々ヒットして、動画も見ることができます)。特別な仕掛けは何もなく、スプーンなど身の回りのもので簡単に作れますし、この現象を示す石(セルト石)が古代遺跡からも見つかるくらい素朴な現象です。

実際、実験や数値計算をすれば、ある特徴をもつ物体がこの現象を示すことを簡単に確認できます。紙とペンを使い、頑張って手計算すると、「この項の係数が負になるので、回転方向が反転するのだな」ということも分かります。しかし腑に落ちません。直感的に「その係数は負になるはずだ」という物理的なイメージを持てていないからです。数式での理解が、「このタイミングでいつもこの方向にトルクがはたらくから、(その係数が負にもなるし)回転方向が反転するのだな」というような物理的なイメージにつながって、はじめて分かった気になるのですが、まだそこまで、私と学生には直感が育っていないようです。

この現象を調べるのに必要な武器は、大学 1,2年時に学ぶ「剛体運動」の理解で十分という意味でとてもシンプルな研究対象です。19世紀後半頃からこの現象を科学的に扱った研究が登場しますが、現在も研究論文が発表され続けられるほど、(ある特殊な?)人々を魅了しています。回転現象には、直感のはたらき難いものが多く、数式のもつ特徴と物理的なイメージとの隔たりが大きいこともあるかも知れません。「どのように理解するのが腑に落ちやすいか?」をあれこれ考えるのが楽しい問題で、 この問題に付き合ってくれる卒業研究生が現れるのを心待ちにしているのですが、難しい問題を好む学生が多く、なかなか付き合ってもらえないのが残念です。

私の最近の研究テーマ

私の専門は重力理論ですが、これまで様々な問題に興味をもち研究を進めてきました。例えば、「シュレディンガーの猫」に代表される量子力学の基礎概念にまつわる研究をしていた時期もあります。量子力学は原子・電子などのミクロな粒子の運動を記述する物理法則ですが、一つの粒子が障害物の右側を通過する/左側を通過するといった、日常の感覚では両立し得ないような状態が"共存する"と考えます。とても奇妙ですが、そのように考えて得られる予言が実験結果と一致するので、量子力学は正しいと考えられています。直観を捨ててはじめて真実にたどり着ける、もしくは、ふさわしい新たな直観を身に付ける必要のある世界です。

宇宙も素粒子の集まりなので、本来は量子力学にしたがうはずです。特に、宇宙のごく初期(宇宙開闢 10^{-43}秒頃。図の「プランク期」が対応)は、量子力学で扱わなければならないと考えられています。そこでは、「膨張する宇宙」と「収縮する宇宙」が"共存する"奇妙な世界です。我々は現在「膨張する宇宙」に住んでいるので、ある時点で、「膨張宇宙」と「収縮宇宙」の"共存が解けた"はずです。この"共存を解く"機構の研究をしていました。

先述のラトルバック現象と同様に、この問題は、大学 2, 3年で学ぶ「量子力学」が身に付ければ、誰でも取り組めるくらい技術的に簡単な問題です。しかし、問題の立て方がとても難しい研究で、時折思い出しては検討を繰り返している状態ですが、ずっと取り組みたい研究テーマです。

現在は、一般相対性理論やその拡張理論などに現れるブラックホール解やそのまわりの物理現象の理論的な研究を、集中して行っています。ブラックホールと言っても、宇宙に存在する現実的な(縦横高さ方向をもつ)3次元空間に住むものでなく、2次元空間や 4次元以上の高次元空間に住む「仮想的な」ブラックホールが主な対象です。しかも、それらを通じて解明するのは、ブラックホールそのものでなく素粒子現象という研究を行っています。標語的には、「ブラックホールで素粒子をみる」という研究で、図の右にあるマクロ構造線ラインから、左側のミクロ構造線を覗くことに相当します。正確には、この世である 3次元空間に住んでいないブラックホールなので、図の外から覗いていると言うべきかもしれません。

ミクロな素粒子とマクロなブラックホールを結び付け、さらには異なる次元のものを結び付けて考えるという、一見すると、荒唐無稽なアイディアですが、超弦理論の研究を進めていたアルゼンチン人の(当時)大学院生が、1990年代中頃に提唱したアイディア「3次元空間の素粒子現象は、4次元空間の重力現象と同じだ」に基づきます。
2次元フィルムに蓄えた情報で立体画像(3次元画像)を再生する「ホログラム」という装置があるので、異なる次元のものが結び付くこと自体は、それほど突飛なものではありません。むしろこのことから、上記のアイディアは「ホログラフィー」と呼ばれます。
もちろん、空間次元によって起きたり起こらなかったりする物理現象がある(例えば、高校物理で学ぶ「ホイヘンスの原理」は偶数次元では成り立ちません)くらいなので、このアイディアが辻褄の合うものであるか、当然チェックが必要です。アイディアが正しいことの数学的な証明はまだ得られていませんが、これまでに挙げられたいくつかのチェック項目を、不思議なことに見事パスしています。

先に述べた 2つの研究テーマと異なり、この研究に取り組むには、重力理論や素粒子論、超弦理論について基本的な知識が必要なため、かなりの準備を要します。そして、どれか一つに精通することが望ましいです。なぜなら、「ホログラフィー」のアイディアは、「重力の知見で素粒子を理解する」、「素粒子の知見で重力を理解する」道を開いたからです。それぞれの分野で磨いた直感(偏見)に基づいて、もう一方の分野に物申すことができる研究です。

私がこの研究を始めたキッカケは、「ホログラフィー」のアイディアは面白いが、破綻しているはずだと思ったからです。なぜなら、素粒子現象は、引力と斥力の両方があり、通常の物質と同様に正の比熱をもちますが、重力現象はすべて引力で負の比熱をもつなど、定性的にまったく異なるからです。自分の直感(偏見)にしたがい、「ホログラフィー」の不備を見つけようと始めた研究ですが、不備は見つりませんでした。
今では、まったく異質なものを結び付ける面白さに惹かれ、「ミイラ取りがミイラになった」状態です。どうやら、この研究でも、私には十分な直感が育っていなかったようです。

ですが、自分のもつ直感が裏切られるのは、とても面白い体験で、研究の原動力になっています。