脂質膜物研究室

加藤 知 (かとう さとる) 教授

脂質膜物研究室

研究分野:
脂質膜の構造や性質の解明
研究室サイト

生きもののはたらきの不思議は脂質の膜の袋の中につまっています

生命の最小単位は細胞です。細胞は脂質の膜に囲まれて生きています。細胞の中にも多種多様な形の袋状の脂質膜がつまっています。この袋は単なる入れ物ではなく、内と外を分ける境界にあって、物の出入りをコントロールしたり、生きていくのに必要なエネルギーを作ったり、隣の細胞と情報交換したり、生命活動の中心的な場になっています。
研究室では、このように生命活動に不可欠な脂質膜内で分子がどのように相互作用して特異的な性質をもった構造を形成したり、動的に構造変化を引き起こしたりしているのか、物理的な観点から研究をしています。

脂質の膜内でラフトとよばれる領域がどのように形成されるのか調べています

ラフト領域は、まわりの流動的な状態の領域よりも
少し硬い領域でコレステロールなどが含まれている

脂質の膜はのっぺりした均質な膜ではなく、まわりより少し硬い領域がいかだ(ラフト)のように漂っていることが分かってきました。このラフト領域には特定のタンパク質が集まってきて、生体内で非常に重要な情報の中継基地になっていると考えられています。
ラフト領域の形成にはコレステロールやスフィンゴミエリンとよばれる脂質分子が関与していると考えられていますが、これらの分子がどのように相互作用してラフト領域が作られるのかについて、まだいろいろわからないことが残っています。
研究室では、2、3種類の脂質とコレステロールを混ぜたモデル系を材料にして、分子間相互作用を詳細に調べる実験をしています。高感度の熱測定装置、X線回折装置、電子顕微鏡、単分子膜の解析装置などを利用して、さまざまな手法でデータを集めています。

皮膚表面にある角層の中にある脂質層の構造解析もしています

角層の電子線回折像

電子線回折法と放射光X線を用いて細胞間脂質層内の脂質分子のパッキング構造の温度変化を調べたデータ。いずれも他の研究室では得るのがむずかしいデータです。

ヒトの皮膚の最表面にある角層は、体全体を覆ってわたしたちの体が干からびないように守ってる、非常に薄くて柔軟で驚くほど巧妙に作られた厚さ10μmほどの薄い膜です。この厚みは普通の紙の5分の1程度の薄さです。これほど薄い膜ですが、この膜がないとヒトは陸上で生きられません。広さは畳一枚分ぐらいあります。この角層の中では死んでディスク状に平たくなった角質細胞が10層ほど積み重なっているのですが、そのまわりを非常に特殊な構造をもった脂質膜が取り囲んでいます。この細胞間脂質層が水の出入りや外界からの異物の侵入を防ぐバリア機能を担っています。この細胞間脂質層の中でどのように脂質分子がパッキングしているかがバリア機能に重要だと考えられていますが、薄膜で試料を得るのがむずかしいこともあり、どのような構造的な特徴がバリア機能に重要なのか、まだはっきりした結論は得られていません。
研究室では、皮膚表面から剥離した1つの角質細胞からでも構造情報が得られる電子線回折法を利用した手法を新たに開発しています。
また、世界一明るい放射光X線を得られるSPring-8(兵庫県播磨科学公園都市)を利用した実験も行っています。関西学院大学は、このSPring-8の中にいくつかの企業と共同で運営しているビームラインを持っています。この品質世界一のX線ビームを使って皮膚の細胞間脂質層の中で脂質分子がどのように並んでいるかを、水の透過性の測定と同時に調べるなど、他ではできない実験をしています。
角層の研究は、応用面でも重要ですので、化粧品会社との共同研究もしています。

研究は、自分で考えることと議論することの繰り返し

研究室では、自分で考えて研究をすすめていくことを重視しています。それと同時にいろいろな人とできるだけ議論をすることが必要だと考えています。失敗も歓迎です。実験家には「まずやってみよう」の精神がないと、何もはじまりません。実際にも手を動かしてやってみると、間違いに気づいたり、新しいアイデアがふと浮かんで来たりするものです。既成のものとは違ったことを見つけようとするのが研究ですので、これまでにわかってることを学習するのとは違った考え方が必要です。
研究室では、最新の論文を英語で読んだり、物理の教科書を一緒に読んで議論したりすることを通して、自分が何を本当にわかっていないのか見つける訓練をします。研究を通して、誰もまだ見つけていないことを見つけることは、教科書を読んでいるだけでは得られないとてもワクワクする経験です。

研究室にはいろいろな装置があります

研究室には、電子顕微鏡、電子顕微鏡用の試料作製のためのミクロトームや凍結割断装置、単分子膜の性質を解析するための表面圧—面積(π—A)測定装置、フーリエ変換赤外分光計、高感度熱測定装置などがあります。一般に生体材料の性質は複雑ですので、さまざまな手法を用いて実験を行い、得られた結果を総合的に判断して解析を進めていきます。