そうせいTIMES 第2号 ポスト3.11 エネルギーシフトと国際経済~フクシマ原発事故を世界はどうみるか~(2011/10/11 発信)

[ 編集者:総合政策学部・総合政策研究科 2015年6月11日 更新 ]

原発事故に対する各国の反応

井上准教授

井上准教授

私の専門分野である中国では、今回の原発事故をきっかけに原子炉の点検や見直しも行われていますが、根本的な方向転換は難しいとされています。
中国は風力発電や太陽光発電などの一大供給地としても知られ、原発に替わる自然エネルギーの開発を国策として推進しています。

しかし、毎年平均10%以上の経済成長を続ける中国は、国のサイズが大きいがゆえに電力需要も非常に高く、まさにエネルギーのがぶ飲み状態です。エネルギーを海外に依存せざるを得ない状態だからこそ、低コストで安定した供給が望める原発は、中国のような発展途上国には必要不可欠なものとされているのです。

加藤教授

加藤教授

イタリアは、これまで反原発の姿勢を明確にしていました。しかし、現首相であるベルルスコーニ氏の就任後、マニフェストに掲げられた原発の再開に舵を切ります。しかし、今回の事故をきっかけに、再び反原発の姿勢が高まっています。
イタリアは日本と同様に資源の少ない国だったため、原発を推進していました。ところが、1986年のチェルノブイリの原発事故で、エネルギー政策の転換で原発を凍結し、近隣の国々から電力を輸入しています。

しかし、原発を凍結したことにより、2003年には電力不足で産業界に激震が走りました。また、イタリアの電力料金はEU平均の1.6倍という高コストであるため、市民生活に重くのしかかっています。
イタリアには、最後に民意を問う装置が常に働いており、ある種のポピュリズムが巧く機能している典型的な国の例といえるでしょう。

園田教授

園田教授

フランスは、1970年代から原子力中心のエネルギー政策を採用し、原発関連産業は主要な輸出産業の一つになっています。また、ドイツやイタリアなど近隣国に電力を供給しています。サルコジ大統領は原発を引続き推進する方針ですが、日本の経験に学び安全性の強化を優先課題とし、すべての原発の耐性テストに迅速に着手しました。

9月に起きたマルクール原子力施設の事故を受け、野党社会党内では、来年の大統領選を踏まえて、原発依存を現在の75%から2025年に50%まで引下げる案も検討されています。このように「減」原発の提案はあるものの、脱原発は今のところ選択肢にはないようです。
この背景には、国際社会における独自外交を重視する中で、エネルギー自給のための原子力利用に国民の理解があることがあげられます。また、核保有国であるフランスは、目的の根本的な違いがあるにせよ、原子力の研究開発を継続せざるを得ないという事情があります。

鎌田教授

鎌田教授

ドイツでは今年6月に、主要国では初となる脱原発法案を閣議決定し、自然エネルギーの方向へと動き出しています。昨年秋に、メルケル首相が原発の凍結や廃止を延長することを表明しました。しかし、国民の間ではチェルノブイリ事故以降、反原発を求める声が高まり、今回の事故で大きく方向転換することになりました。

ドイツでは、原発を停止した場合のコスト負担や、事故が発生した場合の保険金の試算など経済的な議論が進められていました。しかし、これらは国が勝手に決めることではなく、最後に決断するのは国民でなければなりません。政治的・歴史的な背景から現状まで、十分な情報を得たという確信をそれぞれが持ち、メリットやデメリットを納得した上で、国民が主体となって判断することが重要です。
今回のドイツの脱原発は、それを踏まえた上で最終的に国民が決断したものです。こうした判断は、日本でも強く求められています。