2022.11.08.
東アジアの新たな協働を考える緊急座談会「韓国ソウルの群衆事故<梨泰院惨事>をめぐって」

日  時:2022年11月8日(火)15:30~16:30

実施方法:オンライン

出 席 者:ソウル大学校日本研究所 趙寛子教授
      高麗大学校グローバル日本研究院社会災難安全研究センター長 金暎根教授
      全国災害救護協会災難安全研究所 羅貞一副所長

司  会:災害復興制度研究所所長 山 泰幸

ニュースレターFUKKOU VOL.49掲載記事

災害復興制度研究所所長 山 泰幸

 2022年10月29日の夜、若者が多く集まる韓国ソウルの梨泰院にて発生した群衆事故をめぐって、日本においても連日報道がなされており、大きな衝撃をもって受け止められている。本研究所では、2022年11月8日、韓国から3名の識者を招いて、オンラインによる緊急座談会を開催した。座談会の出席者は、ソウル大学校日本研究所の趙寛子教授、高麗大学校グローバル日本研究院社会災難安全研究センター長の金暎根教授、全国災害救護協会災難安全研究所の羅貞一副所長、司会は筆者が務めた。

 まず、羅貞一副所長から、事故の概要や政府の対応について現状報告があった。156名の犠牲者があり、そのほとんどが20代から30代の若者であり、女性は100名以上であった。負傷者はそれ以上にのぼる。これほどの大きな規模の惨事は、2014年のセウォル号沈没事故以来であり、また犠牲者の層も重なっているため、セウォル号沈没事故と関連づけて受け止められており、社会的衝撃は大きい。羅氏自身、当初は、突然の悲劇にただ悲しいという気持ちであったが、現場を何度も訪れるにつれて、なぜ多くの若者が死ななくてはならなかったのかと、次第に強い怒りが込み上げてきたという。また、国の対応としては、哀悼期間を設け、梨泰院を特別災難地域に指定し、亡くなった方に約200万円、葬儀費用に約150万円を支援しているが、これには国内にも賛否がある。遺族や負傷者、現場にいた者だけでなく、SNSで動画が拡散され、それを見た者たちが、精神的苦痛を訴えており、ソウル市でも無料で225カ所の心理支援の施設を設けており、国からも全国民が心理支援を受けられるようにしている。全国災害救護協会でも、ヒーリングバスを用意して心理的支援を行っている。また、葬儀場に飲用水などを提供する活動を行っている。

 金暎根教授は、2001年の明石花火大会歩道橋事故や1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災などを例に挙げて、日韓の比較の視点から災害対応の違いについて言及した。特に、「事故」なのか「惨事」なのか、「死亡者」なのか「犠牲者」なのか呼称の問題から、政府の責任回避の姿勢を指摘し、今回の一連の政府・自治体・警察などの対応に、危機管理システムの不備を指摘した。また、グローバル化のなかで、犠牲者のなかに日本人2 名を含む外国人が複数含まれていたこと、これには韓流文化の世界的流行が影響しており、そのため海外メディアの反応も大きく、国内だけで対応できる問題ではなく、国境を越えた災害対応の必要性を指摘した。

 趙寛子教授は、哀悼期間が終わり、政府の危機管理システムの不備が厳しく追及され始めているが、国民が目前の危険に対して、いかに行動すべきかについての安全意識を十分に備えていない点にも問題があるとし、国民みんなが安全に責任を持たなければ、再発防止につながらないと指摘した。また、現代の若者の生きづらさとそれをもたらしている現代教育のあり方の問題についても指摘があった。セウォル号以来の惨事を政争の具にしようとする動きがあるが、むしろ、今回は、国民が自分たちの社会が抱える根本的な問題に気づく契機になるのではないかと述べた。
 その他、個人の責任と国家の責任にはそれぞれ違いがあり、今回の惨事は、やはり国家が果たすべき責任を果たしていないのではないか、一方、国家は国民一人一人によって構成されており、国民みんなが責任を感じなければ、政府の責任を追及するだけでは、同じ悲劇が繰り返されるのではないか、そのためには教育の役割が重要ではないか、などの熱心な議論がかわされた。

 筆者自身は、「象徴的復興」という考え方を提唱し、復興感を実感させる「復興儀礼」の役割を指摘しているが、今回の惨事は、コロナ禍からの復興感とハロウィンという現代的な祭りとの関係からも検討すべきと考えている。
 被災者中心の「人間の復興」を理念とする本研究所では、2016年1月より、「東アジアの新たな協働を考える」をテーマに、毎年、東アジアの研究者を招いて、復興知の共有を目的とし、シンポジウム等を実施し、自然災害のみならず、人為的事故や今般の感染症を含む、広く社会的惨事からの復興について議論を重ねてきた。今回の緊急座談会もその一環であり、今後の事態の推移を見守りながら、あらためてシンポジウム形式にて、この問題について取り上げる予定である。