2011.06.20.
◆「東日本大震災被災者へのトラウマ・ケア―ビッセル・ヴァン・デア・コーク博士を迎えて」 開催報告

 関西学院大学災害復興制度研究所では、2011年5月28日~6月3日にかけて、脳神経学および臨床精神医学の立場からトラウマ・ケアの最新方法を発信し続けている、ビッセル・ヴァン・デア・コーク博士(Bessel van der Kolk, M.D. ボストン大学医学部教授・精神科医)を招聘し、東日本大震災被災者に対する心理社会的支援のあり方について、講演およびワークショップ形式の研修を行った。

 岩手、宮城、福島の被災者が直面するトラウマ被害の現状を踏まえ、被災者支援にかかわる人々に、「地震、津波、放射線被害によるトラウマ被害を理解する枠組み」、「子ども被災者への支援の在り方」、「回復の意味」、「実践方法のエッセンス」を提供できるようプロジェクトを構成した。また、博士の強い要望により被災地を視察する機会を設け、地震、津波が引き起こした被害の実態、避難所生活の現状などを確認した。その他、仙台では現場で被災者支援活動を行った自衛官を含む研修や原発被害地域にある福島大学の関係教員との意見交換の場を持つことができ、今後の支援と研究に係る貴重な情報を得ることができた。

【博士滞在中のスケジュール等】

5月29日(日)
講演・研修会①(関西学院大学災害復興制度研究所主催)
場 所:関西学院大学西宮上ケ原キャンパスG号館101号教室
時 間:10:00~16:50
参加者:約400名
 
5月30日(月)
被災地視察(石巻・女川・大川小学校)
 
5月31日(火)
講演・研修会②(被災者支援者対象研修)
場 所:ハーネル仙台(仙台市青葉区)
時 間:13:00~16:30
参加者:自衛官31名を含む52名
講演・研修会③(DICTカウンセリングセンター協賛)
場 所:ハーネル仙台(仙台市青葉区)
時 間:18:30~21:00
参加者:約250名
 
6月 1日(水)
福島大学教職員との懇談会
場 所:福島大学
時 間:10:30~12:00
参加者:10名
講演・研修会④(福島大学共催)
場 所:福島大学 行政政策学類2階大会議室
時 間:13:20~17:00
参加者:約120名
 
6月 2日(木)
講演・研修会⑤(明治大学共催)
場 所:明治大学駿河台校舎アカデミーホール
時 間:18:30~21:00
参加者:約1,500名
 
6月 3日(金)
厚生労働省訪問
場 所:厚生労働省
時 間:10:00~11:30
訪問先:雇用均等児童家庭局母子保健課
    社会援護局障害保健福祉部精神障害保健課

【総括】
 関学、仙台、福島、東京での講演・研修において、予想を上回る2,300名を超える参加者があった。関学、仙台での講演当日は、台風接近等に伴う暴風雨で開催が危ぶまれるなか、それぞれ400名、300名余りの参加者があった。仙台および東京(明治大学)では、参加者があふれる状況になり、急遽座席を増やし、別室にて映像提供するなどの措置が取られた。

 参加者は、医師、看護師、保健師、医療ソーシャルワーカーなどの医療従事者、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、作業療法士などの対人援助専門家、教師、保育士、学校ソーシャルワーカーなどの教育関係者、ボランティアコーディネーター、社会福祉協議会職員など地域福祉実践者、その他ヨーガ療法実践者、大学院生、大学生、地域住民など多岐にわたった。

 Dr. van der Kolkは、脳科学研究及び臨床事例から得られたエヴィデンスに基づく被災者のトラウマ体験に対する理解の仕方、援助の理念的枠組み、実践方法など多彩な情報提供を行われた。Self-regulation, Meaningful activities, Competencyという回復を目指すための3つの方向性をベースに、被災者の回復を目指した体と心と社会のありようについて、わかりやすく説明された。4か所ともそれぞれ内容を変え、ニーズに呼応しようと努力してくれた。特に、日本固有の文化に根付くボディケア、ボディバランスを目指した武道の効用、被災者自身が復旧復興に参加し、具体的に活動していく重要性、そして社会が被災者を脇に追いやるのではなく、忘れない意志を持つことの大切さを訴えられた。福島大学では、「事実(facts)がない」事態が最も深刻なものととらえ、大学及び地域が事実を構築していく積極的な活動が被災者支援の根幹になることを訴え、方法論を具体的に示唆された。

 参加者のアンケートに対する回答は、大半が肯定的なものであり、専門家の特殊な実践だけが被災者の心のケアではないことを多くの参加者が理解された。日常の工夫によって回復が大きく左右されることを知り、励まされたという回答が多かった。
 Dr. van der Kolkは、暴風雨の中、多くの方々が参加してくださったこと、そして被災地視察ができたことを何よりも貴重なものと受けとめておられた。視察においてガイド役を引き受けてくださった石母田信雄氏(元石巻消防本部消防長)に感謝の意を表したい。


【実行スタッフおよび協力者】
Bessel van der Kolk, M.D. 
Sumiko T. Hennessy, Ph.D., Director, Crossroads for Social Work, LLC
井上 琢智 関西学院大学学長
室﨑 益輝 関西学院大学災害制度復興研究所・所長
山中 茂樹 関西学院大学災害復興制度研究所・主任研究員
布柴 靖枝 DICTカウンセリングセンター所長・文教大学人間科学部臨床心理学科准教授
坂本  恵 福島大学行政政策学類教授
加藤 尚子 明治大学文学部心理社会学科准教授
石母田信雄 元石巻消防本部消防長
池埜  聡 関西学院大学災害復興制度研究所・研究員(全日程同行)
関西学院大学災害復興制度研究所、福島大学行政政策学類、明治大学文学部・心理臨床センター、DICTカウンセリングセンター

【当日配布資料】

ビッセル・ヴァン・デア・コーク博士 論文ⅠPDFリンク

ビッセル・ヴァン・デア・コーク博士 論文Ⅰ(翻訳)PDFリンク

ビッセル・ヴァン・デア・コーク博士 論文ⅡPDFリンク

【5/29 関西学院大学 講義風景】

【5/30 被災地視察(石巻・女川・大川小学校)】