2021.10.20.
【現地調査報告】佐賀県武雄市の大雨による被災地を訪れて

ニュースレターFUKKOU VOL.46掲載記事

災害復興制度研究所主任研究員・准教授 斉藤容子

2021年8月佐賀県、福岡県など九州北部を中心に大雨による災害が発生した。その中でも佐賀県武雄市、大町町は2019年8月にも豪雨災害による浸水被害を受けたところだ。前回の水害から2年でまた被災を経験することになった。

武雄市の場合、前回の浸水家屋は1536棟に対して今回は1756 棟(床上1184棟、床下572 棟)。総降雨量は1256㎜(前回482㎜)と前回以上の被害になった。令和2年に熊本を中心に発生した災害は線状降水帯による大雨によって河川が決壊し外水氾濫が起こったが、武雄市の場合は市内の支流に流れ込む雨水をポンプによって本流である六角川に流すためのポンプを停止させたことによる内水氾濫である。

武雄市に2021年10月18日~ 20日にかけて訪れた。今回の被災家屋は2020年11月30日に一部改正された被災者生活再建支援法に追加された「中規模半壊」判定が大半を占める。これによってこれまで支給はされなかった「半壊」での支援金が、「中規模半壊」判定によって住居を建設・購入する場合は100万円、補修の場合は50万円の加算支援金が支給される。応急修理制度(詳細は前号を参照)と併用すれば補修の場合でも総額100万円ほどが支給される。しかしボランティア団体によるお茶会で高齢の被災者の方にボランティアが制度の話をしてみるとその制度そのものをご存じない方が何名もいらっしゃったことに驚いた。応急修理とは別に被災者生活再建支援金が支給されるとボランティアから伝えられ、「助かった」と高齢の被災者の方がこぼされていた。行政によって復興支援室も設置され、相談業務も行われているし、広報もされてはいるが、様々な支援策があり、自分の家がどの支援策に当てはまるのか、申請書類は契約書が必要なのか、見積もりが必要なのかなど、被災者がそれらを一度に理解することは一苦労である。中規模半壊で支援金がでるようになったことは一歩前進ではあるものの、複雑化していく制度に被災者は翻弄されている状況がある。

▲押し入れを開けると外壁につながる被災家屋

▲押し入れを開けると外壁につながる被災家屋

そして、これまでの災害と同様に建設・購入できる被災者と補修費用を捻出できない被災者との格差が生まれている。若い世帯は2年前の被災時のローンを抱えながら更に今回被災し、その地を離れることを考えている人も多いとのことであった。しかし高齢者の世帯は長年生活してきたその土地を離れたくないという想いがある。そのため畳もなく、板張りの上に生活をされている状況が続いている。10月半ばから夏のような天気から一転急激に冷えを感じるような気候となった。そのような中、押し入れの扉を開けると外壁につながるなど寒さ対策をしなければ外気が直接家の中に吹き込んでくるところに住まわれている方がいる。応急修理制度を使おうとしても職人の不足、木材の高騰による工賃の値上がりなどによって時間も費用もかかり、すぐには直せない状況にある。これらの問題を一時的にでも解決するためにボランティア団体らが外気防止のためのシートを貼るなど必要な世帯をまわって対応している。テーブルや家具もすべて浸水によって廃棄せざるを得なくなりすべて一からまた揃えなければならない。まだテーブルもなく小さなキャビネットをテーブル代わりにしてごはんを一人食べていらっしゃる被災者もおられた。

日本の国民の三大権利には「生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)」がなかっただろうかといいようのない悲しみが込み上げてくる。それとも水害は天災であるため誰にも過失がない、よって被災された人たちの自己責任を基本とする対応がこれからも続いていくのだろうか。今後日本のみならず世界規模で地球温暖化による気象災害は増えていくことが予想されている。そのような時代に生きていく私たちが「人間の復興」を基本的な理念としてそれぞれの被災者が災害後にもその土地(又は新しい土地)で安心して生きていける方法を考えなければならないと武雄の被災地を訪問して改めて強く思う。
武雄市の水害対応については復興・減災フォーラムの被災地交流集会・円卓会議およびシンポジウムでも報告をいただく予定にしている。