[ 人間福祉学部 ]池埜ゼミ(社会福祉学科)

いけの さとし

【担当教員】
池埜 聡(いけの さとし)

研究テーマ

 トラウマ・インフォームド・ソーシャルワーク

研究内容

 研究演習では、社会福祉の各分野を横断する方法論、直接援助(ミクロ・プラクティス)を中心に、思い描いていた人生の歩みが突然覆されたり、存在そのものが否定されたりするような経験―トラウマ―に苦しむ人々に接し、「共に在る」ための「道」をテーマにしたいと考えています。私自身は、これまで東南アジア系難民とその子ども、犯罪被害者、アメリカ在住の広島・長崎被爆者、災害被災者、震災障害者、少年院在院者といった方々とのかかわりをもってきました。まわりの誰もがトラウマの基本的枠組みを共有する援助機関や学校を作るために、現場での多様な取り組みを続けています。
 2010年以降、アメリカを中心にして展開されている「トラウマ・インフォームド構想」(トラウマの科学的な理解にもとづく支援や組織のあり方の見直し)を国内のソーシャルワークに導入していくことが急務となっています。多くの実証研究は、虐待やDVなどにとどまらず、子どもの不登校、ひきこもり、自死、犯罪、うつや不安障害といった精神的な病などの背景に深刻なトラウマ経験が横たわっていることがわかってきました。そして、その痛みは、人生全般にわたってこころとからだに負の影響を与え続ける可能性を指摘します。
 残念ながら国内の社会福祉士、精神保健福祉士、スクール・ソーシャルワーカーの養成課程では、この「トラウマ・レンズ」が見過ごされています。本研究演習では、見落とされた側面を補うべく、欧米発の方法論に加え、日本を含むアジア諸国由来の方法にも目を向けていきたいと思っています。初期仏教由来のマインドフルネス、「身体智」からトラウマの克服を目指すヨーガ、あるいは日本固有の伝統に彩られた私たちの何気ない営みそのものにも、まだ見ぬ再生への「鍵」が秘められていると確信しています。そして、社会的に弱い立場に追い込まれた人々の苦悩を「トラウマ」の視点からより深く理解し、包摂していく社会正義(social justice)の実現に向けた「トラウマ・インフォームド・ソーシャルワーク」のあり方を一緒に考えていきたいと思っています。