2021年度の研究活動
2021年度の研究活動
本学人間福祉学部の日本手話受講生を対象に、同授業を通して、受講生の文化的多様性のコンピテンスが向上したかどうかを測定するために、文化的多様性コンピテンスの尺度開発を行うことを目的とする。これまでに引き続いて、文化的多様性や文化的コンピテンスに関する先行研究レビューと実際の講師や受講生に対するヒヤリングをとおして理論的枠組みを構築していく。それを踏まえて、この理論的枠組みに沿って、手話授業を履修した学生の文化的多様性コンピテンスを測定するスケールの開発を目標にしたい。
日本手話話者同士もしくは日本手話話者と音声言語話者との間の相互行為の分析を行い、音声言語による相互行為との比較を通して、日本手話が相互行為の資源としてどのように用いられているのかを会話分析の手法を用いて明らかにすることを目指す。
➀「CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)」や「JFスタンダードの木」を参考にし、オランダ手話や香港手話の評価ツールの聞き取り調査を行ないながら、日本手話独自の評価ツールを試験的に作成する。②関西学院大学「日本手話Ⅰ~Ⅳ」の授業を収録し、日本手話を第二言語として学習する成人聴者の日本手話の習得プロセスを観察する。
乳幼児のろう児を持つ聴者の親に特化した手話指導カリキュラム案を作成する。また、実際にろう児を持つ親へ手話指導を行いデータ撮りした手話指導の様子を分析し、異文化接触が起こった項目を割り出していく。ろう児を持つ親の手話指導実施前と実施後の変化に関しても調査していく。
日本手話と日本語のバイリンガル・バイモーダルな家庭環境に聞こえる子ども(ろう児の兄弟姉妹)がいる場合、その子は両方の言語にふれて育つバイモーダル児となる。バイモーダル児やバイモーダル話者の言語使用の状況を把握し、その認知的なメカニズムを明らかにすべく、リサーチクエスチョン「バイモーダル児のモード選択はどのような要因でなされているのか?」を立て本研究を進める。
日本手話を母語とするろう者にとって、英語を習得することは難しい場合が多く、英語を苦手と感じる生徒は少なくない。原因として、音声を頼りにできないことが挙げられる。視覚を通して学ぶ、ろう者にとってウェブ教材やデジタル教材などは適した教材となり得る。そこで、日本手話、日本語、英語、音声、を通じて英単語を学ぶことのできるようなウェブ教材を作成することを計画している。日本手話を通して、英語を楽しく学習する一助となるような教材作成を目指す。
日本手話の文末指さしの統語的特性に関する研究を行う。文末指さしと一致形態素の関連性を精査し、マヤ諸語のように一致形態素を用いる音声言語との比較検証を進める。また、言語類型論的観点からの検証を進めるのと同時に、統語理論的観点からの分析を行う。特に、文末指さしの出現に関して、どのような統語操作が働いているかについて考察する。
コーダ(ろうの親を持つ聴こえる子ども)だけではなく、その親であるろう者や、ろう者の年少期にあたるろう児も研究対象に含めて、コーダアイデンティティの構築と手話言語使用の関係の他、聴者とろう者からなる家族メンバーの心理面についても記述していく。また、ろう児・者の日本語使用が他のマイノリティとどのような共通項を持つのかという関心にもとづき、少数言語話者である手話話者と他のマイノリティ言語の話者、知的障害者など障害マイノリティの話者の比較研究にも着手していく。
消滅危機言語の記録として不就学ろう者や離島で生活するろう者の手話表現コーパスを構築する。不就学ろう者や離島で生活するろう者の言語生活を明らかにするために、手話コミュニケーションの撮影データを収集し、手話の生成過程(武居,2008)の内どこに値するかを分析する。
2016年度~2019年度研究《音声言語と手話言語のバイリンガリズム:CODAの言語環境実態調査》の研究結果から見出された極めて興味深い課題であり、先の研究で得たアンケート回答者の意味するところを、改めて確認したいと考えている。
科研費採択状況
代表者 | 研究課題 | 研究種目 | 研究期間(年度) |
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下谷 奈津子 | 日本手話のプロソディ-(韻律)要素の性質とその習得:手話学習者のストラテジー | 基盤研究(C) | 2019~2022 |
平 英司 | 日本語と日本手話のバイリンガル児の言語使用に関する質的調査 | 基盤研究(C) | 2020~2024 |
前川 和美 | ろう児をもつ聴こえる親への手話指導法に関するカリキュラム開発 | 基盤研究(C) | 2021~2023 |