Campus Life! 森 美月さん(2019年度掲載)

[ 編集者:人間福祉学部・人間福祉研究科 2019年8月1日 更新 ]

森 美月さん

人間福祉学部社会起業学科に入学した理由

 高校で3年間、東日本大震災のボランティア活動に取り組みました。そのなかで被災地を訪れ、現地の状況を自分の目や耳、肌で感じ学ぶ機会を得ました。「千年に一度の大震災は、千年に一度の学びの場」-被害の大きさに無力さを感じていた私は、宿泊した宮城県南三陸町でホテルを経営されている女性のこの言葉から、現場に足を運び、見聴きし、学ぶことの大切さとありがたさを知りました。また震災を風化させないために、見聴きしたことを伝えようと、活動の様子をムービーにして、自分の言葉で発信する企画を高校の文化祭で行ないました。現地で学んだことや感じたことを誰かに発信し伝える、そしてそれを自らの手で企画することを経験し、企画や発信といった、実践的な学びを得ることができました。
 そういった中で、人間福祉学部社会起業学科に関心を持ちました。社会起業学科では、国内外で活動している組織・団体で現場体験を行う「フィールドワーク」など、多様で実践的なプログラムが提供されているため、そこから幅広い学びを得ることができるのではないかとワクワクし、魅力を感じました。

「注文をまちがえる料理店」との出会い

 入学後は1年生の頃から積極的に、国内各地のフィールドワークに参加し、初めて触れるモノ・コト・ヒトとの出会いを楽しみました。そんな刺激的な毎日の中で、「福祉における社会起業って何だろう?」との思いがどこか頭の片隅に常にありました。1・2年生の頃は福祉を身近に感じる機会があまり多くはなかったのですが、3年生になって出会った「注文をまちがえる料理店」の取り組みに心を動かされ、福祉への見方・考え方が変わりました。
 「注文をまちがえる料理店」は、認知症のある方がホールスタッフとして注文を取り配膳を担当する料理店として、2017年9月に東京・六本木に3日間限定でオープンしました。「忘れちゃったけど、まちがえちゃったけど、まあいいか」をコンセプトに、「ときにまちがえるかもしれないけれど、そのまちがいを受け入れて、むしろ楽しもう!」を合言葉に、とても温かい気持ちと笑顔が見られる、素敵な空間が生まれました。認知症のある方の「働きたい」という思いを応援するとともに、認知症のある方との交流を通して認知症への理解の促進につながるこの料理店の取り組みは、多くの共感を呼び、その後国内外で開催され大きな広がりを見せています。

 2018年5月に静岡県御殿場市で開催された「注文をまちがえる料理店atとらや工房」に参加しました。認知症のある方の生き生きとした表情と可愛い笑顔に胸を打たれ、自然と涙がこぼれるとともに、ここで感じた温かい気持ちと感動が関西に戻っても、余韻としてずっと残り続けました。
 そしてこの取り組みの発起人である小国士朗さんにお会いしてお話してみたいと思い、2018年9月に東京・代官山で開催された「注文をまちがえる料理店のつくりかた」トークイベントに参加しました。そこで、登壇者の一人で「注文をまちがえるリストランテ@きょうと」を開催した平井万紀子さんに出会いました。平井さんも2017年9月に東京で行われた「注文をまちがえる料理店」に感動し、心を突き動かされ、その後地元の京都での開催を主催されていました。そんな平井さんの行動力にも感化された私は、そのトークイベントの会場で、「私も兵庫県西宮市で学生主体でやります!」と手を挙げて宣言しました。

「注文をまちがえるケーキカフェ」を学生主体で開催

注文をまちがえるケーキカフェ

 東京でのトークイベントから約2か月後の2018年11月、西宮市で「注文をまちがえるケーキカフェ」を開催しました。今回、私と同じ若い世代の人たちにあの温かい気持ちと感動の空間を共有したいという思いもあって、若者に人気のケーキカフェのお店にご協力いただきました。
 準備にあたって、人間福祉学部9名(社会福祉学科4名、社会起業学科5名)、国際学部1名、計10名の学生スタッフと一緒に活動してきました。広報班、デザイン班、受付班、物品準備班に分かれ、開催に向けてやるべきことを細かく書き出し、それぞれ役割分担をして準備を行ないました。担当した班で、それぞれが自分のやるべきことを考え、工夫し取り組み、それをこまめに全体で共有することを心がけました。そして、社会福祉法人など福祉関係の仕事をされている方にご協力いただき、この取り組みに参加してくださる認知症のある方を探しました。そんな素敵な仲間との出会いの一方で、実施することへの厳しいご意見とアドバイスもありましたが、何より大事にしたのは、「働きたい、ワクワクする」と言ってくださった、認知症のある方ご本人の意思でした。「楽しみすぎてワクワクする!」「夢の中でケーキカフェで働いているの!」と、明るい表情で言ってくれた言葉は今でも忘れられません。改めて振り返ると、この取り組みに賛同し、協力してくれた人に共通していたのは、「純粋なワクワクした気持ち」だったと思います。

注文をまちがえるケーキカフェ

 そんな「ワクワク」が形になった当日。午前と午後の計2部(各90分、いずれも完全予約制)に、計51名のお客さんが来てくださり満席となりました。その半数は大学生で、多くの若い世代の人たちが参加してくれたのはうれしかったです。なかには、ケーキを目的に訪れた方もいましたが、認知症への関心がそれほど高くない人でも気軽に参加してもらえるところがこの取り組みの魅力的なところであり、結果的にそれぞれが何かを感じとってくださったと思います。
 「キャスト」と呼ばれる認知症のある方は全員で6名が参加してくださり、お客さんの注文を聞き、ケーキや飲み物の提供を行いました。今回、ケーキを注文してから運ばれてくるまでの間や食べているときに、同じテーブルについた初対面の人同士で見て楽しんでもらうツールとして、「キャスト」や学生スタッフの紹介や今回の取り組みの経緯を記した「手作りアルバム」を、テーブルに対して1つずつ準備しました。学生スタッフがテーブルに行き、実際に話しながらアルバムを紹介し交流するというプログラムもありました。
 また、参加してくださった方には、ここで感じたことを自由に書いてもらうコメントカードを用意して、そのカードをクリスマスツリーに飾り、皆で共有するというプログラムも用意しました。そして、今日この日のことが、来てくださった一人ひとりの心に刻まれるものであればいいなという思いで、名刺サイズのメッセージカードに、言葉を皆で考え書いて、最後に一人ひとりにお渡ししました。

 開催から一週間後には、振り返り会を開き「手作りアルバム」を「キャスト」の皆さんにお渡ししました。「手作りアルバム」を何度も開いて見てくださり、今でも楽しそうに思い出してくれているそうで、それを聞いてとてもうれしい気持ちになりました。

 「自分もやりたい!あの感動を共有したい!」を実現するために、最初は一人で動き出したこの企画に一緒にワクワクしたいと思う素敵な仲間が集まり、そして様々な人が協力の手を差し伸べてくれました。このご縁に感謝の気持ちでいっぱいです。

注文をまちがえるケーキカフェ

参加した学生スタッフの感想

-社会福祉学科 貞廣 汐里さん(当時3年)-
最初は運営スタッフとしてやっていける自信はありませんでした。初めて会う人たちと一緒に取り組むことにも心配や不安がありましたが、「キャスト」の皆さんの様子をそばでみて、あたたかな気持ちになり自然と笑顔になりました。

-社会福祉学科 圓尾 有咲さん(当時3年)-
注文をまちがえることが面白いのではなく、そのまちがいをあたたかく受け入れることが面白いのだと感じました。まちがってもいい、まちがいを受け入れる空間をみんなが無意識のうちに共有していたからこそ、あたたかく笑顔あふれる優しい空間になったのだと思います。この取り組みを通して、受け入れること、心にあたたかさを持つことの大切さを教えてもらいました。

-社会福祉学科 窪田 風子さん(当時4年)-
注文をまちがえるケーキカフェはカフェであるけれど、お客さんもその場に、ただいるだけではなくて、スタッフの思いを受け取ったり発信したり、それぞれの形で参加してもらえる場だったのかなと思います。あのあたたかくてじんわりする場は本当に忘れられません。

-社会起業学科 辻本 果歩さん(当時3年)-
「認知症だから、サポートしてあげる」「認知症なのにすごい!」といった雰囲気がこのイベントでは一切感じられず、本当に一個人として働いているのをスタッフやお客さんが温かく見守っていました。

-国際学部 太田 恵利花さん(当時3年)-
この取り組みに参加してから認知症のイメージが変わりました。「今は忘れてしまっていても、心の中には残っている」「感情は忘れない」という認知症のある方に関する言葉がとても印象的でした。

教員からのメッセージ

-社会福祉学科 大和 三重 教授-
 「注文をまちがえるケーキカフェ」に教員としてではなくカフェの客の一人として参加しました。キャストと呼ばれる認知症のある高齢者の方々がいかに楽しんでその空間にいるのかということが、そこにただ座って眺めているだけで伝わって来ました。カフェには老若男女が集い、私のテーブルには小学生の男の子とそのお母さんが遠くからこの企画をSNSで知ってやって来たと言います。
 偏見や先入観など、様々な困難がつきまとう現状にあって、学生たちが企画実行して実現したその空間は人と人が自然に微笑み合う温かな空間でした。こうした取り組みを学生主体でできるところが、人間福祉学部の醍醐味ではないでしょうか。これからも社会を変えるきっかけづくりにチャレンジして欲しいと思います。

-社会起業学科 澤田 有希子 准教授-
 「注文をまちがえるケーキカフェ」では、キャストの高齢者の方々はユーモアあふれる接客をしてくださり、子どもから大人まで多くのお客様が楽しみながら積極的に参加して下さったことが素晴らしい空間を演出したように感じました。認知症のある高齢者の方々は、直前の出来事も忘れてしまう記憶障害がありますが、参加されたキャストの方々は後にカフェの体験を素敵な想い出としてふりかえってくださったといいます。楽しい時間や人とのあたたかな交流の記憶は自信と生きがいにつながり、こころに残るのです。
 まっすぐな想いをもつ学生が多くの人々を巻き込み、トライ&エラーを繰り返しながら、企画の実現の道を模索し、丁寧に準備を進めた結果だと感じます。学生企画の実現をバックアップしてくださった高齢者福祉施設の専門スタッフの皆様にも感謝申し上げます。これからも多様な課題に向き合う学生たちの挑戦を一緒に応援していきたいと思います。

受験生の皆さんへのメッセージ

 少し距離を感じるかもしれない「社会的な課題」を、いかに柔軟に考えることができるかが、「社会的な課題」を身近なものとして感じるために大切なことだと思います。まずは難しく考えすぎずに「やってみる」「チャレンジする」こともポイントです!そうすることで、それまで気づかなかった新しい視点や解決に向けたヒントを見つけることにつながります。「やりたいという思いをあきらめず、まずは動いてみる。そして声に出してみる。」-人間福祉学部社会起業学科の学生生活のなかで、自分だけの心動かされる瞬間に出会い、そこで見つけたモノ・コト・ヒトのつながりは、きっとあなたを豊かにしてくれます。ぜひ一緒にワクワクしましょう!

注文をまちがえるケーキカフェ