Campus Life! 社会福祉学科 松岡克尚ゼミ(2019年度掲載)

[ 編集者:人間福祉学部・人間福祉研究科 2019年7月1日 更新 ]

松岡ゼミ

人間福祉学部社会福祉学科に入学した理由

 社会福祉の専門家を目指して社会福祉士や精神保健福祉士の国家資格を取得したいと考えた人、さまざまな生活の困りごとや悩みを抱える人のサポートをしたいと考えた人、あるいは福祉的な活動をしている企業への就職を目指す人など、社会福祉学科への入学の動機は一人ひとり違います。自分や身近な存在に各種の困難を抱えている人がいるという学生もいます。これら多様な動機で入学した学生たちが、現代社会が抱える多様で複雑な課題について、「社会福祉」「ソーシャルワーク」を中心に、それだけにとどまらず多角的な視点でその解決策を一緒に考え、模索する点は、人間福祉学部社会福祉学科の大きな特徴だと思います。

入学してから学んだこと、このゼミを選んだ理由

 「福祉」と聞くと「高齢者」「障害者」や「子ども」といった要支援者や、「相談」「介護」「子育て支援」などの支援の形態をイメージする人が多いと思いますが、生活上でさまざまな困難を抱えた人を心理的・社会的に幅広くサポートするという、私たちの生活に直結した学問です。人間福祉学部では「実践教育」を重視しているため、座学の授業だけでなく、キャンパス内外で実践力を高める実習・演習科目を多数開講されています。授業は、社会福祉学科のみならず他学科・他学部の学生や、現場では利用者の方や専門家など、年齢や性別、国籍、障害の有無などを超えて多くの人と出会うことができます。その人たちと接する中で、相手が何を思い、何を感じているのか、相手との信頼関係を築くことために自分は何をすればよいのか、課題解決のために今の自分たちには何ができるのかなどを考えます。そこで得たものは将来福祉の現場での活躍を目指す人に限らず、私たちが暮らす現代社会のあらゆる場面で活きてくると思います。

松岡ゼミ 障害者週間

 松岡克尚先生のゼミを選んだ理由は、私の場合、「障害者福祉論」の授業を受講したことがきっかけです。この授業では現代社会で障害児・者が置かれている状況や、障害者福祉に関連する法制度など基礎的な知識のほか、支援における考え方や姿勢について学びます。そのなかで「スティグマ」という概念を知りました。もともと烙印という意味がありますが、「障害」というラベルを貼られることが、社会的にマイナスになってしまっている現実があることを学びました。そして、人は、相手の持つ文化的背景や習慣、価値観などを十分に理解しないまま、社会的地位や年齢、性別、障害の有無、うわさなどで一方的に相手のことを判断している部分があると思いました。このような経験から障害者福祉という学問に興味を持ち、この面で学べる松岡先生のゼミを選びました。

「共生」を考える

松岡ゼミ 障害者週間

 ゼミでは「障害者」と「健常者」が「共生」する社会の実現をテーマにしています。その関連で、「障害者」の置かれている状況を関学生に知ってもらい、自分の問題として考えてもらうために、障害者基本法で定める「障害者週間」に合わせて、2017年に「共生社会」をテーマとした展示企画を行い、2018年もまた実施しました。
 2016年に発生した神奈川県相模原市の障害者施設殺傷事件や2018年に発覚した障害者雇用水増し問題のほか、2018年に国会議員が雑誌で述べて話題となった「LGBTは生産性がない」問題など、現代社会では「障害者」や「共生」をめぐる課題が山積しています。「障害者=生産性のない、無益な存在」という誤った認識も根強く残っています。そこで、今回のテーマは敢えてこの「生産性」という言葉を軸にして、展示企画を実施することに決めました。
 今回の展示企画を実施するにあたり、私たちは先行研究を参考しつつ、ゼミの中で「生産性」について議論を行い、準備を進めてきました。「障害者自身が大事にする『生産性』があるのではないか」「社会が一方的に『生産性』とは何かを押しつけているのではないか」「そもそも『生産性』の原理を人間の価値にあてはめて考えてもよいのか」などについて、を様々な意見が出されました。
 展示では、学生に「障害者」「共生社会」についてより関心を持ってもらえるように、パラリンピックに関する話題や話題になったニュースなども活用して、展示の中身を考えました。また、教員やゼミ生、あるいは展示に来てくれた学生が「共生」について思うことを葉っぱ型のカードに書いてそれを木の形になるように貼る「共生の木」を掲示しました。多くの学生が展示に立ち止まってくれて、「勉強になった」「共生について考えさせられた」などたくさんの言葉をいただくことがきました。
 今後も、ゼミの後輩たちにバトンタッチして、より多くの人に「共生」について考えてもらう機会の一つとして、この企画を続けていければと考えています。

受験生の皆さんへメッセージ

 「社会福祉」と一言で言っても、それが扱う領域には実に様々なものがあります。松岡先生のゼミでは、「障害者」と「健常者」の「共生」について学んでいますが、人間福祉学部ではそれ以外にも、児童、高齢者、難病患者、生活困窮者支援・貧困、ジェンダー、ホスピス、マインドフルネス、対人支援スキル、ボランティアや地域福祉、国際福祉など日常生活でも耳にすることが多いテーマを幅広く学ぶことができます。将来、きっと役に立つホットな学問だと思うので、福祉に興味がある人はもちろん、身近な社会の問題から先進国や発展途上国を問わず生じている課題に関心のある人はぜひ、この関西学院大学、そして人間福祉学部で一緒に学びませんか。

教員から受験生の皆さんへ

松岡先生

社会福祉学科 松岡克尚教授

 大学での学びとは、もちろん専門的な知識を取得することが第一の目的になりますが、同時にそれはこの社会の中で生きていく上で欠かせないコモンセンス(常識)を身につけていくことも意味しています。社会福祉とは、社会の「福祉(=良き状態)」を学ぶ学問であり、実践でもあります。私たちは誰でも自分の住むこの社会を「良い」ものにしていきたいという希望を持っているものでしょう。そのために人任せにするのではなく、社会の一員である私たちが一人ひとりこれからの社会をいかに設計していくのかを考えていくこと、それは成熟した社会のためには欠かせない作業になります。貧困、虐待、引きこもり、障害者差別などの問題を自分たちの問題としてとらえ、その解決策を自分たちなりに考えてみる、その際に社会福祉の知識や価値が様々なヒントを提供してくれるかもしれません。社会福祉は、これから社会に参加し、関わっていく皆さんの「未来」を支えるツールであり、武器になっていくと思います。その意味では、社会福祉とはまさしくコモンセンスに他なりません。この常識を学ぶことをとおして、社会のあり方を考え、現状を分析し、望ましい未来を一緒に探っていきませんか。

研究概要

 障害児・者ソーシャルワークの立場から「共生」の可能性を探ることを目的にします。このゼミでは、障害者と社会・障害のない者との関係はどうあるべきなのかについて検討し、障害の有無に関係なく「共に生きる」インクルーシブな社会の実現のために、「障害児・者ソーシャルワーク」「精神科ソーシャルワーク」は何ができるのかを、理論的に、また実践的に考えていきたいと思います。

※ここでは、イギリス障害学の考え方(「障害」の本質は、社会が設けた「障壁=害」である)に基づき、敢えて「害」をそのまま用いて「障害」表記を採用しています。またその対比としての「健常者」という表記も、それが虚構(「常に健やかなる者」)であることを絶えず銘記してもらうことを意図して、そのまま用いています。