2023.08.10.
Vol.15 「NPOのマネジメントとは?―持続的な社会課題解決に向けて」(社会起業学科 石田 祐 教授)

いしだ ゆう

人間福祉学部 社会起業学科 石田 祐 教授

 「ソーシャル」や「社会課題解決」が社会の関心事になっている。それらをターゲットにするのは、いまや政府や行政、NPOやNGOといった公共・非営利のアクターだけでなく、営利を追求する民間企業も同じである。時には、同じ課題に対して性格の異なる3者が取り組むこともある。福祉の問題、災害の問題、教育の問題などさまざまな社会課題に取り組んでいる人々や組織に注目してみて欲しい。その組織の法人格が株式会社のように民間営利企業のときもあれば、公益社団法人、NPO法人、協同組合のように非営利組織のときもあれば、地方自治体(市役所や町役場)のときもある
 では、政府、企業、NPOの3者の違いは何だろうか。事業を実施するための収入面から考えてみたい。政府は、公共ニーズを満たす事業を実施するために税金や社会保険料を徴収する。企業は、利益が出るように私的なニーズを満たすモノやサービスを販売する。NPOは、公益性のある事業を実現するために寄付や会費、助成金を得たり、公共ニーズを満たすモノやサービスを行政から委託事業費を得たり、部分的に受益者から対価を得たりして事業を実施する。

NPOファンドレイジングとマーケティング活動による制作物

 もう少し具体的に考えてみよう。政府や地方自治体は、必要な事業だと判断すれば、それに見合う税金を国民や市民に課す。消費税が増税となったことなどを思い出してもらうと分かりやすい。政府や自治体はいくらの収入が入ってくれるかをもとに支出を考えるよりは、必要な支出を定めてから収入を決めるという枠組みを持っている。かたや、民間組織はそのような強制力を持たない。消費者にとって魅力あるものを開発して提供し、それに対する対価を得ることによって組織を持続させ、成長させる。民間組織の中でもNPOは特殊である。社会や地域の問題を発見しようとするし、発見次第すぐに行動を起こす。この時、問題解決にかかる費用を回収することができなくても行動を起こすことがある。
 最近は子ども食堂やフードバンクが全国で展開されている。ここでは詳細に問題を描写しないが、家庭での経済課題や地域のつながり不足の問題に直面する子どもや家庭に対してサービスを提供するが、そのサービスを受ける受益者から十分な対価を支払ってもらうことは難しい。言い換えると、サービス提供にかかる費用をカバーするだけの収入が得られることは想定しがたい。そうすると、継続的に事業を実施することはできないことになる。他にも、近年、多様性と包摂(Diversity & Inclusion)を理解し、行動できる社会を実現することが期待されている。社会が有する概念や仕組みのアップデートが必要となる。社会課題の解決でもあるが、社会の価値創造でもある。その理解を促進することで収益を得ることも難しそうである。しかし、NPOは課題が眼前にありながら撤退することを望まない。
 つまり、NPOは社会課題解決のために重要な役割を担うにも関わらず、資金面で苦労する。資金面での苦労は人材獲得にも影響する。優秀な人材は、労働市場では高く評価されるため、その獲得には相応の賃金を提示することが求められる。カネとヒトの課題を克服する方法を考えなければならない。利益を主目的としないNPOが採り得る方法はある。ファンドレイジングよって受益者以外から資金を得ることを目指すことができる。寄付や助成金などを獲得し、資金を得る。ボランティアやプロボノ(スキルを活かしたボランティア)を集めることで、資金を使わずに人材を得る。コレクティブインパクトを目指し、多様なセクターや人々と協働することによってカネとヒトを得る。それらを実現するには、経験とネットワーク、そして提供する価値を信じ、明確に表現することが重要である。
 NPOによる社会起業の実現は容易ではないが、NPOは社会や地域の課題解決に貢献する重要かる不可欠なアクターである。そのようなことから、NPOマネジメントに関する理論と実践の発展は常に期待されている。私が担当している「NPO論」「非営利マネジメント論」の授業では、これらの課題に自分事として向き合い意思決定することができるよう、ケーススタディを活用しながら考察している。どのようにNPOが地域問題の解決事業を計画し、継続することができるかについて考えてみませんか。

 
フィールドワーク(被災地での子どもの遊び場づくり)

ゼミ活動(まちづくりNPOによるコミュニティづくりのための場の提供)

ゼミ活動(JOCAによるごちゃまぜのまちづくり)

※写真はいずれも筆者提供

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