2023.03.09.
Vol.10 人生100年時代を豊かに過ごすには~地域の居場所から考える~(社会福祉学科 大和 三重 教授)

おおわ みえ

人間福祉学部 社会福祉学科 大和 三重 教授

「高齢者福祉」と聞いて皆さんは何を想像しますか?
 「介護」がすぐに頭に浮かぶ人が多いのではないでしょうか。一般的には、介護や高齢者に関わることがらを暗いイメージでとらえる傾向があるようです。それは本当に実態を正しく理解しているといえるでしょうか。確かに介護の問題は高齢者にとってもケアラー(介護をする人)にとっても負担が大きく辛いことです。だからこそ介護が必要になった高齢者の尊厳を守り、できる限り自立を支援することを目的とする介護保険制度は、高齢者やケアラーにとって非常に重要であることは間違いありません。しかし、実際に介護保険サービスを利用している高齢者は2割に満たず、残る8割以上は介護保険サービスを必要としない自立した人たちです。また、介護が必要な状態も軽度から重度まで様々な程度があります。高齢になると誰もが介護が必要になるといったイメージは必ずしも正しいとは言えません。加齢によって生理的に心身の健康が衰えていくことは避けられないことですが、高齢になるほど個体差も大きく、65歳以上の人たちを同一の集団として捉えることはできません。したがって、介護だけがクローズアップされると、多くの人たちの介護以外の生活ニーズが見落とされてしまいます。
 現代は人生100年時代といわれます。実際、日本では100歳以上の人は9万人を超えており、2050年ごろには50万人に増加すると予測されています1)。日本の平均寿命(2022年)は女性が87.57歳、男性が81.47歳で世界でもトップクラスです2)。平均寿命が長いことは素晴らしいことですが、もっと重要なことがあります。それは何でしょうか?ただ平均寿命を延ばすことだけを目指すのではなく、できるだけ元気で年齢を重ねることではないでしょうか。元気で介護等の必要がない期間を、「健康寿命」と呼んでいます。残念ながら平均寿命と健康寿命の差は女性で12年、男性で9年近くもあります3)。つまるところ平均寿命より健康寿命を延ばすことの方が大切です。

誰もが参加できる居場所づくりが必要
 高齢になると退職後、仕事や子育てから卒業し、社会とのつながりが薄くなる傾向があります。いわゆるソーシャルネットワークが縮小するために、それまで地域との関わりがあまりなかった男性は特に老後の孤立が課題となっています。都会では地域社会の絆が弱くなり、近隣住民とのつながりがなく、孤立して生活している人が増えているのです。人生100年時代に突入した今、残された長い期間をどうすれば張り合いをもってできるだけ元気に過ごすことができるでしょうか。私は、その一つの対策が『居場所づくり』だと考えています。
 コロナ禍で最も大きな影響を受けたのは高齢者といわれます4)。外出、会食、面会、集団行動等の制限によって社会とのつながりが絶たれ、心身機能が低下し、中には認知症の症状が進んだ人もいます。そこで私たちは改めて日常生活のなかで人々のつながりが重要であることを思い知らされました。65歳以上の一人暮らしの世帯はおよそ3割を占め5)、高齢者のみが生活する世帯は増え続けています。高齢者の場合は特に生活範囲が狭くなるため地域社会との関わりが不可欠になります。人とのつながりを創り出すために身近な地域に居場所があり、そこへ行けば知り合いがいて、誰かと触れ合うことができる。そのような居場所を厚生労働省は『通いの場』と名付け、高齢者人口の概ね1割が通うようになることを奨励しています。居場所の種類は多様です。居場所での活動は、お茶や食事、体操、スポーツや音楽等の趣味、その他さまざまな内容があり、主催者や場所、頻度、参加料金等も多種多様です。しかし、居場所がその効果を発揮するためには少なくとも週1回の開催が必要であり、住民主体の場であること、そして高齢者だけでなく多世代が集う場であればなおさら良いでしょう。写真1は西宮市でNPO法人が毎日開催している集い場のある日の風景です。

写真1:NPO法人なごみ提供


写真2は神戸市でNPO法人が開催する音楽サロンです。そこでは参加する高齢者が担い手側になることも期待されます。

写真2:NPO法人きょうどうのわ提供

 社会参加することで得られる良いことは、友人ができたり、楽しい時間を過ごせたりするだけではありません。日本老年学的評価研究(JAGES)が行った調査では、通いの場への参加は75歳以上の後期高齢者で要介護リスクの悪化を有意に抑制することがわかりました6)。つまり、生きがいにつながるだけでなく介護予防にも効果があるのです。 では、私たちに出来ることは何でしょう。まずは高齢者や高齢者福祉への間違ったイメージを払拭することです。そして、あらゆる世代が暮らす地域社会の一員として高齢者の社会参加を歓迎する風土を生み出すことだといえるでしょう。 私が担当している「高齢者と福祉」や「高齢者福祉論」の科目などは、皆さんがこのようなことを考えるきっかけになるかもしれません。

参考資料
1)2018年12月第10回新事業創出WG 事務局説明資料② 産業構造審議会2050経済社会構造部会の検討状況 ~人生100年時代に対応した「明るい社会保障改革」の方向性~資料より
2)厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/index.html (2023/2/22)
3)同上
4)大和三重(2021)「コロナ禍に耐える地域在住高齢者―レジリエンスに着目した支援の可能性―」『人間福祉学研究』14(1), 41-55.
5)内閣府「令和3年版高齢社会白書(全体版)」
6)田近敦子・井手一茂・飯塚玄明・辻大士・横山芽衣子・尾島俊之・近藤克則(2022)「『通いの場』への参加は要支援・要介護リスクの悪化を抑制するか:JAGES2013-2016縦断研究」『日本公衆衛生雑誌』69(2), 136-145.

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