2023.01.19.
Vol.8 「共感と理性」を育むコミュニティづくりを考える〜社会的連帯経済研究の視点から(社会起業学科 柴田 学 専任講師)

柴田 学 専任講師

人間福祉学部 社会起業学科 柴田 学 専任講師

 近年、「共感」というワードが注目を集めており、書店でもやたら共感をテーマにした書籍が並んでいます。それはビジネスからコミュニケーション、チームアプローチやケアに関する内容まで多岐に渡ります。ちょっとした共感ブームなのです。


 私は、社会福祉学をベースに、社会的連帯経済と呼ばれる「人と人との支え合いによる経済活動」を中心に研究を進めてきました。社会的連帯経済の概念・実践は幅広く(図1を参照)、グローバルに捉えればフェアトレードの取り組みもその一例ですが、私の研究関心はもっぱら、日本におけるローカルなコミュニティづくりにあります。ローカルに捉えた社会的連帯経済によるコミュニティづくりとしては、地域住民の協働で展開されるコミュニティ・ビジネスや協同組合のなどの取り組みが挙げられます。

図1 Miller(2010)による連帯経済のマッピング1)

 さて、コミュニティづくりと聞いてどんなイメージが浮かび上がるでしょうか。実は、どんなコミュニティづくりも、最初はコミュニティの課題に誰かが気づいて、“ほっとけない”と行動にうつすことから始まります。そして、一人ではなく仲間で取り組むことでネットワークが徐々に発展し、社会全体にまで活動が広がっていくこともあります(図2を参照)。
 その発展や広がりにおいて、重要とされるのが「共感」なのです。

 つまり、誰か一人の“ほっとけない”という思いに対して、また違う誰かが共感し、一緒に活動へ取り組む人が増えて、ある種のコミュニティを創出していくのです。そのコミュニティにはスタッフとして深く関わる人もいれば、単発のボランティアで関わる人、何かしらの寄付を通じて関わってくれる人など、様々です。また、コミュニティの活動を維持・継続するために必要な資金調達という観点で考えれば、近年流行のクラウドファンディングは、寄付を通じて共感を集めるツールとしての役割を果たしているといえます。このように、私たちは誰か一人の“ほっとけない”に共感する力を有しているし、共感を資源として活用することもできるわけです。私は社会的連帯経済を「人と人との支え合いによる経済活動」であると述べましたが、言い換えれば、それは“共感の経済”や“共感のコミュニティ”であると呼べるのかもしれません。

 

図2 市民にしかできない領域を示した図2)


 しかしながら、共感が必ずしも良いことばかりを生み出すわけではありません。人間、全てのことに共感できるはずもなく、無理をして“共感している風”にして取り繕う時もあるはずです。価値観や思想が合わない場合もあるし、逆に共感しすぎて自分が苦しくなる日もある。場合によっては、共感した仲間に(客観的に観て)非があったとしても、その仲間を苦しめる敵に対して、私たちは攻撃的になるかもしれません。したがって、共感は、自分を苦しめたり、憎しみや争いという負の要素を生み出す可能性も、無きにしも非ず、といって良いでしょう。

 だからこそ、私たちは、誰かに共感できる存在であるとともに、物事に対して「理性」的な存在でもなければいけないと思うのです。VUCA(ブーカ)時代3)に突入したなかで、人々の価値観やライフスタイル、生き方は多様化しています。そうした時代の変化に抗った感情のまま凝り固まってしまうと、理性的にはなれません。逆をいえば、理性的になることが、多様な変化を受け入れることにもつながります。なお、理性は「学び」を通じて育むものですが、実はコミュニティづくりにおいて一番大切なのも学習機能です。それも閉鎖的ではなく、できる限りオープンシステムなコミュニティを目指した方が良い。つまり、オープンシステムなコミュニティづくりを通じて、多種多様な仲間と学習し合う(=学び合う)ことで、私たちはお互いを高め合い、老若男女関係なく、理性を自身の中で育み続けることができるのです。理性を育めば、自ずと共感を捉える幅も広がりますし、負の共感に振り回されることもなくなると考えます。

 そういう意味でも、共感だけではなく理性も育むためのオープンシステムなコミュニティづくりが、これからの時代には非常に貴重になってくると思われます。特に、大学時代は高校とも違う学び合いの場や活動を自由に育むことができる機会に多く恵まれます。このコラムを読んだ高校生や大学生には、是非、「共感と理性」を育むために、オープンシステムな学び合いのコミュニティを自ら発掘したり、創出したりしてほしいと願っています。

1)Miller,E.(2010)Solidarity Economy:Key Concepts and Issues, Kawano,E. ,Masterson,T. and Teller-Ellsberg,J. eds. Solidarity Economy I: Building Alternative for People and Planet, Center for Popular Economics.(https://base.socioeco.org/docs/miller_solidarity_economy_key_issues_2010-1.pdf,2021/08/01閲覧),p5の図を引用して筆者が訳したもの(一部加筆)です。

2)事業構想HP(https://www.projectdesign.jp/201810/financial-innovation-from-local/005485.php,2022/12/20閲覧)にて深尾昌峰氏(龍谷大学政策学部教授)が示した図です。

3)VUCA時代とは、V(Volatility:変動性)、U(Uncertain:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字をとった造語であり、複雑化した社会において未来の予測が困難な時代であることを意味します。

※所属や内容は掲載日時点のものです。また内容は執筆者個人の考えによるものであり、本学の公式見解を示すものではありません。